47話 謝罪
「ルリの亡骸がないってどう言うことかしら?」
ゼシルが弟に問い詰めると、デニムは悔しそうな表情を浮かべて必死に弁明した。
「御姉さま、ルリは絶対に死んでいるはずです。僕の目の前で、ナタリーはルリの胸を剣で貫きました。見間違える訳がありません!」
「仮にそれが事実だとしましょう。であれば、なぜ、あの家にルリの死体が転がってないのかしら?」
「もしかしたら、あの傷でも少しは動けたのかもしれません…。ですが、確実にあの深い傷であれば遠くには行けません」
「でも、死体は見つかっていないのでしょう?なんとしても、ルリの亡骸を処分しなさい。誰かに見られたら後々面倒なのだから」
「かしこまりました」
デニムは苦虫を嚙み潰した顔でその場を後にした。
ナタリーを住まわせていたあのボロい家に誰かが来るとは思えないのだが。
(死体が転がっていないとなると厄介ね)
ゼシルが動くとどうしても目立つし、デニムは正直頼りない。
(せっかく、檻の中にナタリーを収容したのにまた連れ出すことになるなんて。はあ、めんどくさいわね)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ネムの部屋にいる私はこれからのことについて考える。
まずはナタリーを探す必要があるんだけど、それは現実的には厳しいかもしれない。
もし、人質を解放してもらうために私を刺したんだとしたら。
ナタリーは今頃、身柄を拘束されている可能性がある。
私の死体があの家に転がっていれば、もしかしたら人質を解放してもらっているかもしれないけど。
あの場に遺体が無い時点で、きっとそれはないだろう。
考え込んでいると、隣の部屋から物音がした。
壁に耳を当てると、誰かが私の部屋に忍び込んで何かを漁っているようなのだ。
部屋の鍵をしっかり掛けたはずなんだけど…。
もしかしたら、私の死体がなかったから捜索しているのだろうか。
ネムの部屋にいて良かったと一安心した私はやらかしてしまう。
部屋が汚かったからこんなことが起きてしまったのだと、非難することも出来たのだが、周囲の観察を怠った私にも非があったのかもしれない。
無造作に積み上げらた本の山に、身体が触れてしまったのだ。
ああ、だめ!!
思った時には遅かった。
雪崩のように本が崩れ落ち、割と大きな物音が部屋に響いてしまったのだ。
私の部屋を物色していた侵入者だろう。
ネムの部屋の扉をノックしてきた。
まずい、まずい!
どうしよう。
留守を貫くのは厳しいし、きっと向こうはこの部屋に入ってくる可能性が高い。
なんせ、この侵入者は施錠していた私の部屋に白昼堂々入っていたのだから。
私は腰に下げた剣に手を伸ばし、じっと扉を見つめた。
すると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「部屋の中にいるのはもしかして、ルリちゃん?」
この声は。
ナタリーだ。
一瞬、黙ってやり過ごそうとも思ったけど勝手に口が動いていた。
「うん、そうだよ」
「ごめんね…。ルリちゃん」
いきなり謝罪をされた私は少し悩んだけれど、今思っていることを素直に吐き出した。
「ナタリー。私、刺されたこと気にしてないからね」
すると、一分くらい無言の時間が生まれた。
何か話した方がいいのかもしれないけど、他に思い浮かぶことが無かった私はナタリーの出方を伺うことにした。
神聖魔法が扱えるようなり、怪我を治すことが出来るようになったからナタリーのことを許してあげれるのかもしれない。
以前の私だったら。
魔法が使えない頃の自分だったら恐らく許して無いのかもしれない。
もしそうだったら、そもそも生きているはずがないのか…。
二分くらい経過すると、ナタリーが口を開いた。
「ルリちゃん、本当にごめんね。謝って許されるとは思っていないけど、あの方法しか道が無かったんだ…」
やっぱり、ナタリーは事情があるみたいだ。
とりあえず、ナタリーが会話をしてくれるなら訊いてみよう。
私はナタリーに優しく話しかける。
「勝手な憶測なんだけどね。ナタリーにとって大事な人が、どこかで捕らわれているんじゃないかな?だから、あの手段しか選べなかったのかなって思うんだけど」
返事はすぐにこなかった。
かわりに、扉の向こうから鼻を啜る音が聞こえる。
嗚咽を堪えながら、ナタリーは言葉を紡ぐ。
「うん…。そうだね。私にとって大事な人が捕まっているんだ」
誰に捕まっているのか尋ねようとすると、
「ナタリー。誰と喋っているんだい?ルリは見つかったのかい?」
声変わりをしていない少年の声が聞こえてきた。
そういえば、昨日刺される直前も、こんな感じの声を聴いた気がする。
「いえ、ルリの部屋と思って開けようしたら、ネムちゃんの部屋でした」
私と会話していたナタリーは咄嗟に嘘をついて誤魔化した。
「そうかい。早くルリの部屋を確認するよ」
「ネムちゃん。熱で休んでいるのにごめんね」
そう言ってナタリーは会話を切り上げようしたら、少年が呟いた。
「一回、扉の向こうにいるお友達の顔を見てもいいかな?」
「いえ、熱がうつるかもしれないので辞めておいた方がよろしいかと…」
「そんなことお前は気にしなくていいよ。
…。
ねえ、ネムちゃんだっけ?部屋の扉開けてくれない?」
私は返事に困っていると、少年は声を荒げた。
「早く出てこないと、ナタリーを殺すよ?中にいるのはルリなんでしょ」
やはり、バレていた…。
さっき泣きそうになっていたナタリーを見れば流石に変だと感じるか。
「どうしてキミが死んでいないのかは気になるけど、友達が殺されるのは嫌でしょ?
あー、違うか。
キミを殺そうとしたやつだから、別にナタリーの命はどうでもいいのか」
「私の事は無視していいから、窓から逃げて!」
ナタリーの言葉通り、窓から逃げたら良かったのだが彼女の事を助けてあげたいと思った私は素直に扉を開けた。
扉の先にはナタリーと金髪の仮面をつけた少年がいた。
「本当はキミを殺して遺体を処分するつもりだったけど、面白いこと思いついちゃったからキミは生かすことにしておこう」
「ゼシルお嬢様は始末しろってー」
「御姉さまの命令はそうだけど、ルリの状態を見て気持ちが変わったよ。生かしておいた方が、利用価値が絶対あると思うんだよねえ」
ナタリーと仮面をつけた金髪の少年が言葉を交わす。
その様子をじっくり観察していた私に、金髪の少年が話しかけてきた。
「このまま大人しく屋敷に着いてきたら、ナタリーの人質を解放してあげるよ?」
そう提案した彼は仮面をゆっくり外した。
この顔に見覚えはない。
正面にいる彼はとても整った顔立ちをしていた。
どこかの貴族様だと思うけれど、貴族について疎い私は彼の素顔を見ても見当が付かなかった。
分かることがあるとすれば、マーベルと年は近いのかな。
それくらい。
「そんな不思議そうな顔をしないでよ。仮面を外したのはあれだよ?今から僕の屋敷に案内するから、正体を明かしたんだ。あれだったら、君の弟のマーベルも招待してもいいんだよ?」
この場でマーベルの名前が出ると思わなかった私は無意識のうちに剣に手を伸ばしていた。
「学園の敷地内で荒事を起こすつもりはないよ。だけど、キミがそんな態度に出るんならこっちも容赦しないよ。猿の宴に宿泊しているマーベルも危険な目に合うかもしれないけどいいのかな?」
そんなことを言われたら、私も素直に少年の言葉に従うしかない。
肩の力を抜いて、私は目の前の少年を睨んだ。
「じゃあ、今から屋敷に行くからついておいで」
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