45話 暴露
ナタリーがこの場を立ち去って五分ほど経つ。
痛みに必死に耐えながら意識を集中する。
このままじゃ非常にまずい。
以前、瀕死のマーベルを治癒した時の感覚を思い出さないと。
四大魔法のように詠唱が出来ればいいんだけど、神聖魔法は分からない。
前回は無詠唱でどうにか発動することが出来たけれど、今回は上手くいくだろうか。
だけど、こんなところで命を落とすわけにはいかない。
全神経を手元に集中して、傷口を修復しているイメージを頭の中に浮かべた。
すると。
ほんの僅かだが手に魔力が宿り、淡い光が発生する。
良かった。
なんとか、神聖魔法は発動してくれたみたいだ。
少しずつ輝きが大きくなっていき、徐々に傷口が塞がっていく。
だが油断はできない。
自分の胸にナタリーの剣が突き刺さっているのだから。
神聖魔法はかなり魔力消費量が多いようだ。
体の中にある魔力がみるみる減っているのがわかる。
出血がほとんどなくなったので、私は自分の胸に刺さった剣をゆっくり抜いた。
再び、血が溢れてくるが私は心を乱さないまま、落ち着いて神聖魔法を維持する。
正念場だ。
ここを乗り切れば命を落とす心配はないだろう。
「ふぅ……」
ようやくナタリーに貫かれた胸の傷口が塞がった。
本当に危なかったな…。
心の底から安堵して、私は周囲を見渡す。
日はすっかり沈んでいた。
家の照明がついているわけもなく、神聖魔法の光もなくなっため部屋の中はほとんど真っ暗だ。
割れた窓ガラスの奥に街灯がチカチカ点滅しているだけで、他に明かりもない。
神聖魔法を使った反動か、だいぶ倦怠感がある。
幸い、意識を失うほどではないみたい。
とはいえ、この場からなるべく早く離れなければ。
あの二人が引き返してくるかもしれないのだから。
どうにか立ち上がれた私はその場を後にしたのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ナタリーの家にいた私はあの後、寮に戻ることにした。
自室に戻るのは不安だったから、ネムの部屋に訪れることにしたのだ。
ネムの部屋の前に辿り着いた私は扉をノックをすると、部屋の中からツバキが出てきた。
「あれ?ルリじゃん!こんな時間に珍しいね!どうしたの?」
「実はー」
「その怪我!!大丈夫!?今すぐ、診療室に向かおう!!」
ツバキは血相を変えて私の肩をがっしり掴んだ。
ツバキ…。
そんな、強く掴んじゃダメだよ。
仮に私が大怪我をしているんだったら…。
「落ち着いて!!大丈夫だよツバキ。とりあえず、部屋の中に入っていいかな?」
「う、うん。私の部屋じゃないけど、上がって」
部屋に上がるとネムと目が合った。
「ルリ…。服が血だらけなんだけど、大丈夫?」
私は驚かせないように落ち着いた声で言った。
「ツバキにもさっき話したけど、怪我はもう治っているんだ」
「う、うん…!?」
ネムはほんの一瞬驚いたけれど、点と点が繋がったような腑に落ちた表情になる。
「あのねー」
ネムたちに話の続きをしようすると、隣にいるツバキが割り込んできた。
「ねえ、ルリ!!なにがあったの!誰にやられたの?」
ツバキが必死に怒りを抑えながら尋ねてきた。
そんな彼女の姿を見て私は少し嬉しい気持ちになるが、ツバキには冷静になって貰わないといけない。
「実はさっきね、ナタリーと一緒に買い物行ったんだ。そのあと、家に案内されたんだけど」
「ナタリーの家に行ったんだ?寮じゃなくて?」
ネムが不思議そうに首を傾げた。
「うん。それで家に着いて少ししたらナタリーに後ろから剣で刺されたんだよね…」
「ナタリーはどこにいるの!!」
頭に血が上っているのか、ツバキは険しい表情で問い詰めてきた。
「わかんない。ただ、その場にはもう一人いて、金髪の少年とナタリーはどこかに行ったんだと思う」
「ってことは、金髪の彼がナタリーに命令してルリを殺そうしたのかな?」
「それは安直すぎない?ツバキの推測が正しいかもしれないけど、それならわざわざ少年は、現場に足を運ぶのかな?」
ネムの指摘に私も同感だ。
全く無関係とは言えないけれど、別の誰かが糸を引いている気がする。
ふと。
野外演習の時ナタリーとのやりとりが頭の中をよぎった。
『もしもの話だからね。もし、自分にとって大切な人が捕虜になっていたとして…。
その人を救うためには、悪事を働かないといけない場合、ルリちゃんならどうする?』
あの会話はをなぜあのとき私にしたのだろう。
もしかしてナタリーはー。
「本当は屋敷に連絡して、護衛をつけてもらった方がいいんだろうけど、今日はひとまず私の部屋で待機かな?」
「ルリのことが心配だから、私もこの部屋に泊まっていく!」
「二人にお願いがあるんだけど、このことはあんまり大事にはしてほしくないんだ。できれば穏便にこの件は解決したい」
「え、どうして?大怪我を負ったんだから、学園には報告するべきじゃないの?ナタリーは一刻も早く捕まえないと、違う犠牲者が出るかもしれないよ?」
ツバキは私の意見に反対のようで、険しい表情で抗議してきた。
その様子をみたネムが優しく宥める。
「気持ちも分かるけど、ルリの理由を訊いてからにしない?」
「まあ、それもそうかな…」
「ナタリーは人質を解放してもらうために、仕方なく私を刺したと思うんだ。野外演習の時、ナタリーとの会話で思い当たる節があってね…。だから、真相がわかるまでは内密にしておきたいんだ」
「そっか。ルリの気持ちはわかったよ。だけど、私はナタリーは許せない。どんな事情があったにせよ、ルリが刺された事実は変わらないんだから周囲に協力を仰ぎたい」
「私はルリの気持ち、尊重してあげたいな」
怒りを露わにしているツバキの横で、ネムは真剣な面持ちで私を見つめた。
「もしナタリーが何かしらの事情があってこうするしか道がなかったのだとしたら、彼女の話をまずは聞きたい。それからどうしていくか決めたいな」
「ルリがそうしたいんだったら、私は反対しないよ。だけど、一人で解決するのは得策じゃないから後ろからサポートはしたい」
「ありがとう、ネム。
自分事のように怒ってくれるのは嬉しいけど、ツバキもそれじゃダメかな?」
「まあ、ルリがそこまで言うなら勝手な行動は控えるね…。あまり気乗りしないけど、ルリがどうしてもって言うならしょうがないな。ちなみに、具体的にこれからどうするとか決めているの?」
「二人にはとりあえず、ナタリーが明日学園にくるか確認してほしい。それと、もし私を殺したいと思った黒幕が学園にいるのなら、普段とは違う事が起こる可能性が高いから気を付けて欲しいかな」
「分かった!私たちにナタリーのことは任せておいて。ただ、明日学校で何か起こるってどうして思うの?」
ツバキは了承したけれど、疑問に思ったのか不思議そうに首を傾げた。
ネムは逆に納得したように小さく頷いた。
この反応。
もしかしたら、賢いネムは察しているだろうな。
今から話そうとする内容についても、何か知っているのかもしれない。
「ねえ、ルリ。無理して話す必要はないけど、私たちに他にも話したいことがあるんじゃない?ツバキはすぐ感情的になるけど、口は堅いから安心してね」
ネムは優しく微笑んで、打ち明けやすいような雰囲気を作ってくれる。
「うん。実は二人には内緒にして欲しいんだけど大事な話があるんだ」
不審そうに眉根を寄せたツバキも流石に気付いたようだ。
「ねえ。私も怒って周りが見えてなかったから気付くのが遅れたけど、その傷って誰が治してくれたの?」
そうだ。
彼女たちに協力して貰うためにはこの秘密を打ち明ける必要がある。
もしかしたら、ナタリーたちは今頃、私の遺体を探しているのかも知れないのだから。
「実は私ね…。
神聖魔法が扱えるんだ。
大怪我を負ったけど神聖魔法で自分の身体を治したんだよね」




