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42話 野外演習 ③


 夜が明けて二日目の早朝。


 外で寝ることなんて中々無いから、あんまり寝付けなかったな。


 私はゆっくり立ち上がって周囲を確認した。

 ツバキはぐっすり熟睡しており、ナタリーからも寝息が聞こえてくる。


「ルリ、おはよう。起きるの早いね」


 声のした方を向くとネムが身体を起こしながら、話しかけてきた。


「そうかな?だったらネムも早起きだと思うよ?」


「たしかにね」


 ネムは苦笑しながら立ち上がる。

 寝ている二人を起こさないように洞窟の外に出た。

 冒険者は洞窟の外にある大木に寄りかかって、目を閉じている。


「Aクラスはやっぱり大変?」


 ネムが尋ねてくる。


「んー。Bクラスより学習意欲が高い子が多いから付いていくのに必死かな」


「ルリは勉強が得意そうだから、余裕って言うかと思っていた!この前はAクラスで一位取ったんだよね?」


「毎日、図書館で勉強しているからこの成績が取れただけで、全然余裕じゃないからね!」

 

 この間Aクラスの筆記試験があって、なんとか一位になれたのだ。

 それなりに勉強に時間は費やした。


「またまた、謙遜しちゃって!そういうことにしておくね!」


 ネムがわざとらしく納得した。


 一、二回聞いて全て暗記できるのなら、もっと時間を有効的に使ってます…。


「私も成績を落とさないようにしているから分かるけど、毎日勉強するのって大変だよね。ルリって実は宮廷魔術師を目指しているとか?」


「ううん。流石にそんな高い目標は掲げていないよ」


 宮廷魔術師。

 学園に通う平民の子からとても人気で尊敬されている職業だ。

 貴族じゃなくても宮廷魔術師になれるっていうのが人気の理由らしい。


 冒険者にはなりたいけれど、宮廷魔術師はそんなに魅力的とは思えないんだよなー。

 お金には困らないだろうが、王族の元で働くとなると色んなことを制限されそうで窮屈な思いをしそうだから。


「2人ともおはよう~。早起きだね…」


 ネムと話していると、ナタリーが会話に加わる。


「もしかして、ツバキも起きた?」


 私は目をこすっているナタリーに訊いた。


「ううん。いびきかいていたから、まだ寝てると思うよ!」

 

 ツバキはどうやら朝が弱いのかな?

 それとも昨日は先頭に立ってチームを引っ張てくれていたから、そのせいで疲れていたのかもしれない。


「それじゃ、ツバキが起きる前に朝ご飯の支度でもしておこっか!」


 二人に呼びかけて準備を始めた。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「めっちゃいい匂いがする!」


 洞窟の入り口付近でイノシシの肉を焼いていると、ツバキが涎を垂らしながら近寄ってきた。

 この肉は昨夕(さくせき)、ナタリーが手に入れてくれたものだ。


「おはよ!ぐっすり眠れた?」


 大きな欠伸をしているツバキに訊いた。


「だね!ルリが焼いてくれている肉さ、もう食べちゃっていい?」


「まだ肉は割とあるから、先に食べてもいいよ!」


「流石!ルリ料理長のお言葉に甘えて、お先にいただきまーす!!」


 ツバキが陽気な声でふざけて、手に取った肉にかぶりつく。


「起きてすぐにご飯食べれるの羨ましいなー!」


 ナタリーの言う通り、私もそう思う。

 どちらかといえば、寝起きはあんまり食欲が湧かない方だ。


「朝起きて時間ないときは逆につらいよ?おなか減っているのに食べれなくて、我慢しながら学園行くことになるからねー!」


「確かにそれは大変かもしれない」


 ナタリーが苦笑しながら相槌を打つ。


「今日はもちろんお宝取りに行く感じでいいよね!」


 ツバキは皆に視線を配ったあと、さらに肉を口の中に放り込んだ。


「うん!誰もケガもしていないし、お宝探しはしてもいいかなって思う!」


 私も賛成して、焼きあがった肉をみんなで食べた。

 朝食を済ませて、後片づけが終わると出発する。


「皆も周辺の警戒を怠らないでね!」


 先頭にいるツバキが注意喚起を促す。

 昨日は幸いなことに魔物は一匹も出現していない。

 とはいえ、今日は恐らく遭遇するだろう。



 生い茂った木々をかき分けながら一時間ほど進むと、拓けた場所に出た。

 誰かが手を加えたような土地のようだ。

 とは言っても、しっかり整えられている訳では無い。

 枝が乱雑に折られて積み上げられており、ボロボロの布切れが辺りに散乱している。

 折れた刀の残骸も地面に転がっている。

 恐らくここは…。


「皆、気を引き締めて!」


 ツバキが小さな声で指示を出す。


 この近くにはゴブリンが生息している可能性が高い。

 その場で周囲を観察していると、十メートルくらい先にある木の後ろからやつらが出てきた。

 

 やはり、予想は的中していた。

 三匹のゴブリンが姿を現す。


 背丈は一メートルくらいで、ズタボロの布切れを体に巻いている。

 緑の体色をしており、毛は一切は生えていない。

 不気味な黄色い瞳。鋭く尖った耳に、大きな鷲鼻が特徴的だ。


 魔物図鑑で知ってはいたけれど、実物は初めて見た。


「ルリはゴブリンと戦ったことはある?」


 後ろにいたネムが尋ねてきた。


「ううん。初めて…。ネムたちは討伐したことあるの?」


「私とツバキは何度か遭遇したことはあるかな?とは言っても、私は戦闘には加わっていないから討伐はした事ないけどね。ナタリーもゴブリンと遭遇するのは初めて?」


「いや、私もアイツらとは戦ったことはあるよ!」


「そうなんだ!とりあえず、ルリとネムは後ろで待機してて」


 ツバキが会話に交じって、私たちに指示を下した。


「うん…」


 私は了承して、正面にいるゴブリンたちを見つめる。

 いくら魔物とはいえ、二足歩行でじりじり歩く姿を見ると、どうしても人間の姿と重ねてしまった。

 実際は人とは異なる生き物だし、言葉を話したり聞いたりすることは出来ない。

 ゴブリンの最終形態、ゴブリンエンペラーなどは意思疎通が取れるらしいがそれはひとまずおいておこう。

 

 要するに私は怖気づいているのだ。

 ゴブリンは私たちを単なる獲物としか見ていないのに、私はアイツらを殺す覚悟が出来ていない。

 

「ルリ…。初めての冒険だったらしょうがないよ」


 隣にいたネムが震えている私の手のひらを優しく包む。

 

「魔物といっても生き物には違いないからさ。皮膚の色を覗けば、人間のような姿に近いから余計に心の整理が大変だよね。最初からアイツらを躊躇なく殺すことが出来る人の方が珍しいと思う」


 私は言葉は発していないけれど、心の中を覗かれたような台詞だった。

 ネムの言う通り私はゴブリンの命を奪うことに、ほんの僅かだけど抵抗がある。

 だけど…。


「ねえ、ツバキお願いがあるんだけどいいかな?」


「どうしたのルリ?そんなに心配そうな顔しなくても大丈夫だよ!私たちに任せて!」


 ツバキが私の不安を払拭するように力強く言った。


 私たちの方が人数的に有利だからなのか、ゴブリンたちは攻撃は仕掛けてこない。

 じっとこちらの様子を伺っている。


 このままツバキとナタリーに任せていれば、この場はすんなり解決するだろう。

 だけど、それで本当に私は冒険者になれるのかな?

 いや、厳しい…。かもしれない。


「この戦闘に参加してもいいかな?ここで立ち止まったら私の目指す道には辿りつけないだろうから」


 私は自分に言い聞かせるように口にした。


「ルリがその気持ちなら私は止めない!一緒に戦おう!」


「私が言えた義理じゃないんだけどさ…。斬る覚悟ないのに立ち向かえば、自分だったり、側にいる大切な人が傷付くことがあるから忘れないで」


 ツバキは一瞬ネムに視線を向けた後、ばつが悪そうに助言した。


「うん!肝に銘じる!」


「よし!それじゃゴブリンやっつけよう!!」


 

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