41話 野外演習 ②
<ナタリーside>
明日は野外演習だが、私は学園の門を抜けてとある場所に向かっている。
本当はあんな所なんか行きたくないのに…。
けど、大切な姉が囚われているから一人で逃げる訳にはいかない。
何故、こんな目に合わなければいけないのだろうか。
路上に停まった馬車が視界に入る。
馬車の真横を通り過ぎるとき、窓ガラスに私の顔が映る。
「はぁ…」
自分で言うのもアレだが、ひどい顔だ…。
学園を出て、三十分くらい徒歩で移動すると目的地に到着する。
私は門の前に立っている年配の兵士に声を掛けた。
「ナタリーです。ゼシルお嬢様にご報告があって参りました」
兵士は軽く会釈して、すぐに開門してくれた。
本来なら、検査を行って許可が下りてから敷地に入るんだけど…。
ここを訪れるようになって三か月ほど経つと、検査が省かれるようになった。
毎日この屋敷に訪れているから手間になったのかもしれない。
敷地にいる使用人が私の存在に気付く。
視線が合うと、気まずそうに目を逸らされた。
そのまま使用人はどこかに駆けていく。
恐らくだが、ゼシルに報告しにいったのであろう。
そのまま屋敷の入口で少し待機していると、ゼシルが視界に入った。
私はいつものように土下座の体勢になる。
「今日は報告に来るのが少し遅いわね」
ゼシルは冷ややかな声で告げると、私の背中を踏みつけた。
ヒールが肉に食い込み、痛みが走るけれど、グッと堪える。
これくらいの痛みどうってことない…。
姉さんの方がもっと過酷で、惨い仕打ちされている筈なのだから。
「ルリに関して、何か掴めたかしら?」
「いえ、特にこれとー」
先程より、鋭い痛みを感じた私は言葉に詰まった。
いつもより踏む力が強い。
機嫌がすこぶる悪いみたいだ。
もしかしたら、気に障ることが最近あったのかもしれない。
私が理由で機嫌が悪い場合は必ず直接言ってくるし…。
「まぁ、いいわ。明日行われる野外演習でルリに仕掛けてくれたら、それで構わないわ」
「具体的に私は何をすればよろしいのでしょうか?」
「ルリを殺して頂戴。犬のあなたには造作もないことよね?首を噛みちぎれば良いのだから」
「…。かしこまりました」
こみ上げてきた怒りをぐっと堪えて、返事をする。
わたしは犬ではない。
れっきとした狼の獣人だ。
姉が捕虜になっていなければ、お前の首を噛み殺してやるのに。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ナタリーは翳りのある表情を浮かべている。
「体調でも悪いの?」
気になった私は尋ねた。
「ううん、少し考え事してだけだよ」
かぶりを振ったナタリーは軽く微笑んだ。
「そっか。もし気分が悪くなったら遠慮なく言ってね」
見た感じ体調は悪くなさそう?
ということは、精神的に何か辛いことがあったのかなー?
「そうする!あのさ、ルリちゃんに訊きたいことがあるんだけどいいかな?」
「いいよ。私に答えれる事であれば!」
なんだろう。
ナタリーは真面目な顔になって私を見つめる。
「もしもの話だからね。もし、自分にとって大切な人が捕虜になっていたとして…。
その人を救うためには、悪事を働かないといけない場合、ルリちゃんならどうする?」
うーん。
悪事を働くか…。
思ったより、難しい質問だな。
人によって善悪の基準は違うし、絶対に正しい答えはないと思う…。
「ちなみに、どんな悪さをするの?」
「んー…。そうだな…。あんまり自分と関わり合いがない赤の他人を傷付けるとか?」
「つまり、見ず知らずの誰かを殴ったり蹴ったりして怪我を負わすってことかな?」
「まあ、そんな感じだね」
なるほど。
わりと際どい質問だな…。
軽く逡巡して、私は考えことをナタリーに伝える。
「人質を取った人物と交渉が出来たら一番良いんだけど、どうしても無理なら…。私は人質を優先するために誰かを殴るかもしれないかな。実際その立場になってみないとわからないけどさ!」
「もしも、相手を殺さないといけなかったらどうする?」
「それは、難しい質問だね…」
「そっか!…。なんか、変な事聞いてごめんね」
「ううん、大丈夫だよ」
選択の余地が無ければ人質を優先するか…。
さっき自分で口に出したけれど、私は非情な人間だよな。
流石に見ず知らずの人を殺めるとかであれば、話は変わってくるけど。
例えば、悪党が盗んだ物を取り返してこいって命じられたら、私は素直に応じてその悪党を懲らしめるだろう。
悪党って条件はズルいか。
まあ、もしそうなったらその時考えればいいのかな…。実際の状況も分からないのにアレコレ考えてもしょうがないよね…。
「ねえねえ、さっき川で捕った魚でも食べない?」
ツバキがグループのメンバーに尋ねた。
「そうだね。丁度。お昼時だしいいと思う!」
私はツバキの提案に賛同した。
軽く食事を済ませた私たちは次の目的地について話し合い始めた。
「今日寝るところは明るいうちに見つけたいよね」
ネムが発言すると、ツバキも同意した。
「そうだね!暗くなる前に寝床は確保したいよね。なんかいい案ある?」
「雨風が凌げるところがいいよね。この中で土属性魔法が使える人いるかな?」
私はみんなに問いかける。
土属性の魔法が扱える場合、自分たちで簡易的な寝床を作れるからだ。
「私は火魔法がメインだから使えないかな。ネムも風魔法しか使えないし。ナタリーは?」
「申し訳ないけど、無属性魔法は割と得意だけど、四大魔法は苦手なんだ。ごめんね」
ナタリーは困り顔でツバキに返答する。
「ルリも土魔法は使えないよね…」
ツバキが肩を落としながら呟いた。
「ごめん…。風と水魔法が少し使えるだけで土魔法の適正は無いだ…」
「だよねえ…。ん?ルリって二種類の魔法が使えるんだっ!」
「う、うん」
「うそ…。めちゃすごいじゃん!」
ツバキは目を丸くすると、その後私の肩を掴んで褒めてきた。
ネムとナタリーも驚嘆している。
「模擬戦で魔法はまだ使使ってなかったもんね…りどっちも初級魔法が少し使えるだけで、大したことは出来ないよ」
私は軽く謙遜したけれど、それでもツバキは称賛してくる。
「三大貴族とか王家に連なる者なら複数魔法がつかえても不思議じゃないけど、平民の生まれで扱えるのは凄いことだよ!」
やっぱり、二種類も魔法が扱えるのは珍しいことらしい。
母がエルフだったからその遺伝を引き継いだのだろう。
「とりあえず、洞窟みたいなところを探すのでいいんじゃないかな?」
私は少し恥ずかしくなったので、さっきの話題に戻した。
「そうだね。お宝の方向に向かいながら、良さそうな寝床があればみんな教えて!」
ツバキはそう言って歩き始めた。
そのまま二時間くらい歩くと小さな洞窟を発見する。
「あ!いいんじゃない?そのまま洞窟の中に進むからみんな付いてきて!」
ツバキの指示に従い、他のメンバーも後ろを付いていく。
火魔法が使えるのはこういう時、便利だな。
ツバキの手元から淡いオレンジ色の光が放出されている。
そのおかげで洞窟内は明るい。
少し歩くとすぐに行き止まりになった。
洞窟の長さは十メートルも無いだろう。
骨の残骸があれば魔物の住処の可能性も高いけれど、足元を確認しながら歩いていたが何も落ちていなかった。
「この洞窟を寝床にするのでいいんじゃないかな?」
「そうだね。ナタリーもルリもそれでいいかな?」
「いいよ!」
私はネムに同意して洞窟を出た。
軽く見回すと夕日が木々を照らしている。
日没までに寝床が確保できたのは良かった!
「近くに山菜があったからナタリーと採取してきていいかな?」
「もちろん!」
ツバキに確認すると、あっさり承諾してくれる。
全く会話に加わらないがそういえば冒険者のサトルさんもいた。
青年は私たちに付き添ってくれるようだ。
もし私たちが遭難した場合、洞窟に戻れるように手助けしてくれたらいいな…。




