40話 野外演習 ①
「皆さん、こちらに集まってグループごとに整列して下さい!」
Bクラス担任のルッソ先生が生徒達を呼びかける。
リリー先生の姿は見当たらない…。
カビラの森に到着した私達は、これから二泊三日の野外演習を行う。
生徒たちは縦一列に並び、私は一番後ろに並んだ。
他のグループを観察すると、大体五〜六人くらい編成でチーム数は七つあった。
「事前に野外演習についてお話はしましたが、皆さんにはカビラの森に三日間滞在してもらいます。そして、地図に記されているお宝を持ち帰って頂くのが今回の内容となります!」
ルッソ先生が説明をしていると、私の後方に二十代半ばくらいの青年が列に加わる。
今回の演習には各グループに一人ずつ、冒険者が同行してくれるみたいだ。
それもそうか。
大半の生徒は魔物が出る森で野営をした事など無い訳だし、格上の魔物と遭遇した時を考慮したら妥当な判断かもしれない。
私達で必要なものは調達しないといけないと思うけど、冒険者が同行してくれるだけで安心感が違う。
「質問がなければ始めますね!準備の方はよろしいですか?」
私は手元にある地図を軽く広げる。
スタート地点は恐らくここかな。
地図の上部にバツ印が付いているのがお宝の在処だろう。
「皆さんのご健闘をお祈りします!それでは、スタートです!」
ルッソ先生が大きな声で言い放つ。
他のグループの様子を伺うと、森の中に次々と入って行く。
あっという間に私達のグループだけ取り残された。
私は振り返り、冒険者に挨拶を行う。
「ルリっていいます。これから三日間よろしくお願いします!」
「よろしくね!僕の名前はサトル。他の皆にも軽く挨拶していいかな?」
「分かりました!」
私たちは円陣を組んで軽く自己紹介を済ませた。
予想していた通り、冒険者のサトルさんは基本的には傍から見るだけのようだ。
大怪我を負いそうな時は手を差し伸べてくれるみたいだが、それ以外は生徒達で問題を解決してほしいとのこと。
サトルさんに訊いたらこの演習に於いて、学園側から特に指示がある訳では無いらしい。
ということは、グループによっては冒険者が手厚くサポートしてくれる所もあるのかもしれない。
だとすれば、いいな…。
少し羨ましい。
私としては冒険者の心得が少しでも身に付けばいいなって思っているから、助言を貰いながら森の中を探索したい。
自分達で色々考えることも大事なんだろうけど、先人の知恵って言葉があるように、有能な人から知識や技術を教わることも大事だから。
まあ、乱暴で高圧的な態度をとる冒険者じゃないだけマシか…。
本当に困ったときは、サトルさんは助けてくれそうだし。
「とりあえず真っすぐ進んでみる?」
「そうだね」
ツバキが私達に尋ねると、ネムが同意する。
「暗くなる前に寝る場所も確保したいから、移動はしたいよね」
私もナタリーの意見に賛同だ。
お宝を探し出すことも大切だけど、寝床を見つける方が優先度は高いだろう。
ツバキと目が合うと私は首を振って、同意する。
「うん。反対意見も無いみたいだし、このまま真っすぐ森を進んでみるね!」
そして、二時間ほど森の中を歩くと視界の右側に小川が見えた。
「お!!あそこに川あるじゃん!少し休憩しない?」
先頭を歩いていたツバキが振り返る。
「そうだね。ネム達も休憩を挟んでいいかな?」
ナタリーも一休みしたいようだ。
私は頷いて二人の後に付いて行く。
体力的にはまだまだ余裕だけど、皆とペースは揃えないとな。
スタート地点から一度も魔物と遭遇してないから、体力が温存できているんだけど。
そのまま小川に近付いて、私は周囲に魔物がいないことを確認する。
水場は魔物が寄って来る可能性が高いからね。
ナタリーがツバキを見て苦笑する。
「ルリもツバキみたいに、足だけでも水に浸かってくれば?気持ち良いと思うよ?」
十月とはいえ、まだ暑い日が続いているから足だけでも水に浸かればサッパリするだろうな。
後ろにサトルさんが控えてくれているけど、ここは自分達で警戒しないとね。
「確かにツバキを見てたら気持ち良さそうだなだけど、魔物が寄ってきたらアレだから遠慮しとく」
「そっかぁ。絶対とは言い切れないけど、近くに魔物は居ないと思うよ?」
「え?そうなんだ!?」
「うん。魔力感知で捉えれない奴がいたらわからないけど、今のところ網には掛かっていないから大丈夫だと思う。この辺りに強敵は出てこないだろうしね」
それは凄く助かる情報だ。
魔力感知で外敵の位置を特定できるのはとても心強い。
私はまだ習得出来ていないからな。
魔力感知とは他者の位置や存在を特定するための魔法だ。
無属性に該当する魔法で、四大元素の適正が仮に無くても扱える。
とはいえ、中級魔法に分類されるためそれなりに魔力量が必要な筈だ。
ナタリーは魔法が得意なんだろう。
魔力の総量は生まれた時点である程度、決まっているらしい。
けれど、魔法を使用しないと容量は増えないそうだ。
例えるなら筋肉に近いのかな。
筋力はトレーニングをすればするほど、目に見えて大きく成長していく。
一朝一夕で身に付く訳では無いところは、筋肉も魔力も一緒だ。
まあ、中には何もしなくても魔力が増えることもあるみたいだが、大抵は地道に修練を行い魔力量を底上げする。
その点に関しては、私も例外なのだろう。
過酷な訓練は全くしていないのだが、母親のエルフ遺伝のお陰なのか、魔力量はぐんぐん上昇しているからだ。
実際に計測した訳じゃないけど、恐らく平民クラスの中ではトップクラスの魔力量だと思う。
「二人ともこっちにおいでよ!」
ツバキが手招きしてくるので、私も川に向かって歩く。
ナタリーが魔法感知を使用しているから、魔物に突然襲われることはないだろう。
一歩踏み出せば川に入れる距離まで近付いたので、私はゆっくり屈んで、水を両手で掬った。
ひんやりとして気持ちいい。
そのまま掬った水を口元に持って行き、飲んでみる。
「ルリ、お腹壊しちゃうよ?」
ツバキが心配そうな表情で尋ねてきた。
確かに川の水を直接飲むと、腹痛を引き起こす恐れがある。
「大丈夫!川の水を飲んでお腹を下したことないし、私の足元に生えているツクミソウがあるから、そこまで心配する必要はないかな」
「ツクミソウ?」
ツバキは不思議そうに首を傾げた。
私は足下に生えている魔草を引っこ抜く。
手に取ったツクミソウを腰の高さに掲げた。
「この青みがかった草がツクミソウっていうんだけど、腹痛になった時に飲めばすぐにお腹の痛みが治るんだよね」
「へえ、そうなんだ!?ってことはそのツクミソウが胃薬の代用になるってこと?」
「うん。もしもこのメンバーの誰かがお腹崩したらこれを使うといいよ!」
私は鷲掴みしたツクミソウを揺らす。
「流石!ルリと一緒のグループになって良かった!!この森で過ごす三日間は大変かもって思っていたけど、以外と楽勝そうだね」
ツバキは大袈裟に褒めてくれるが、少し恥ずかしくなった私はネムに視線を向ける。
「私もツクミソウは聞いたことあるけど、これが胃薬の代わりになるんだね…。ルリはどこで知ったの?」
座学が得意なネムもこの事は知らなかったみたいだ。
凄くマイナーな魔草だったのだろうか。
「うーん。ポッチ村の時に自分の身体で試したから知っているのかな…」
「そっか。ルリって意外と好奇心旺盛なんだね…」
ネムは目を丸くして感想を述べる。
「かもしれない…」
ツクミソウって呼ばれているのはつい最近、学園の図書館で知ったんだけどね…。
私がポッチ村で採取していた時はゲリナオシって呼んでたからな。
村長がそう言っていたから疑わずに信じていました…。




