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37話 お祭り ③


 金魚すくいは四回した。

 結果は惨敗だったが…。

 初めにチャレンジしたあの一匹しか捕まえることは出来なかった。

 

「アレク様は金魚すくいが得意なんですね!」


「毎年しているから自然と上手くなったのかもしれないなー」


 私が持つ透明の袋には、全部で十匹の金魚が泳いでいる。

 自分が捕った金魚を含めて。

 アレク様は貰ったポイ一つで、これだけの数だ。

 さっきアレク様から聞いた話だが、この金魚は別邸にある水槽で管理するらしい。


 二人で横に並んで歩いていると、香ばしい匂いが漂ってきた。



「アレク様!あれを食べてもいいですか?」


 串焼きの露店に指を差して尋ねた。


 何故、串焼きにしたのかって?

 他の通りにも屋台は沢山あるのに、アレク様は何故かここを二往復していた。

 それに何度も串焼き屋を凝視していたからだ。


「ルリもやっぱりあそこの串焼き気になる?ちょっと列が長いけど、二人で並ぼうか!」


 アレク様がとても嬉しそうに話しかけてくる。

 予想が当たっていたので私もついニヤけた。


「いえ、私一人で並ぼうかなって思います。そこのベンチが空きそうなので、アレク様は座って待っててくれませんか?」


「じゃあ、そうしようかな?ありがとう」


 本当は二人で一緒に話しながら待ちたかったけれど、アレク様とあの列に並ぶのはとても抵抗があった。


 行列の中にキーシャ学園の生徒が数人いるのも理由の一つなんだけど…。

 火力が強いのか、屋台の前は煙がすごいのだ。


 頂いたドレスを着用している私が並ぶのもアレかもしれないが、アレク様は白色スーツだ


 だから私は列に一人で並んで待機する。

 幸い、列に並んでいる生徒達は私とアレク様の存在には気付いてなさそう。

 あの美貌だから目立つと思ったけど、人で溢れ返っているおかげなのかバレないようだ。


 

 最前列に来ると、屋台のおじさんが尋ねてきた。


「お嬢様ちゃん。串焼きは何本いるのかい?」


 思った以上に串焼きは大きい!

 握り拳一つくらいの肉を四等分したサイズ感だ。

 一本ずつでも満足出来そうだけど、アレク様の嬉しそうな顔を見ちゃったからなー。

 


「三本下さい!」


 余った一本は二人で半分ずつ分けてもいいよね!

 


「はいよ!!」


 無事に注文することが出来たので、列からズレてアレク様の方向に目を向けた。

 丁度、人垣が割れてベンチに座っているアレク様と目が合う。


 ただ、目が合っただけなのに胸の奥がキュンとする。

 まるで、恋している乙女ではないか…。


 四ヶ月前に出会った頃と比較したら、心境の変化は大きいようだ。


「お嬢ちゃん!出来たよ!!へい、お待ち!」


 すぐに串は焼きあがったようだ。

 並んだ時間も十分くらいかな?

 思いの外、時間は掛かっていないし良かった!

 火力が強いから回転率がいいのかもしれない。


「ありがとうございます!」


 おじさんから串焼きを受け取り、お代を払う。

 炭火でこんがり焼かれた鶏肉が胃袋を刺激してくる。

 アレク様もきっと楽しみしているに違いない。

 喜んでくれたら嬉しいな。


 人混みをかき分けてアレク様の元へ向かう。


 あれ?

 誰だろう?


 ベンチに座っているアレク様は誰かと会話しているみたいだった。

 後ろ姿のため顔は確認できないが女性のようだ。

 背丈は170センチくらいで、金色の髪はカールが巻かれている。

 深紅のドレスを身に纏い、派手な装飾品をつけているためなんとも近寄がたい。


 どうしよう…。

 少し待とうかな?

 けど…。

 冷めないうちに串焼きは食べてもらいたいな。


 面倒事に巻き込まれませんように…。


 私は勇気を出して近寄り、アレク様に声を掛ける。


「アレク様!お待たせしました!」


「おかえり!買いに行ってくれてありがとう」


 金髪の女性が振り返り、私を見つめる。


 とても整った顔立ちだ。

 どこかのお姫様みたい…。

 険しい表情をしていなければ、もっと綺麗なのに…。


 彼女は鋭い視線で私を射抜くと、(いかめ)しい声で話しかけてきた。


「なにか御用かしら?」


「そのアレク様に串焼きを渡したくてー」


「誰が焼いたモノかわからないのに、ソレをアレク様にあげるですって?」


 彼女は語気を荒げて、私の声を遮った。


「はい…」


「ゼシル、それは私が頼んだモノだから責めないで上げてほしい」


 アレク様はすかさずフォローしてくれたが、彼女は憤りを隠せないようだ。

 

 ん?

 ゼシル…!?


 面識はないけれど、最近どこかで聞いたような気がする…。

 あぁ…。


 以前、『猿の宴』で食事をしている時だったかな?

 カウンターに座り、執事の恰好をした青年が愚痴をこぼしていたのを思い出す。

 その日、アレク様の屋敷にゼシルお嬢様が訪れるから、そのせいでげんなりしていたはずだ…。


「そんなことをおっしゃらないでくださいませ!(わたくし)はアレク様のお身体を案じて申しただけで御座います」


「仮にそうだとしても、物のいい方はあるだろう」


 アレク様は嘆息して、ゼシルを優しく宥める。


「そうかもしれません…(わたくし)も言い方が悪かったかもしれませんわ」


 ゼシルは自分の非を認め、アレク様の腕にしがみ付く。

 勝ち誇ったような顔を私に向け、ほくそ笑んだ。


 意外とゼシルは従順な性格をしているのかもしれない。

 アレク様の言うことに関しては…。

 想像していたよりかはマシか。

 もう少し面倒なタイプだと思っていたから、ホッと安堵する。


 アレク様は私と目が合うと顔をわずかに歪め、ゼシルの腕を振り払った。


 それが気に食わなかったのだろう。


「わざわざこのような下賤な村人から頂く必要はありませんわ。(わたくし)のお屋敷で今朝解体した牛のステーキを食べるのはいかがですか?」 


 いい性格をしている。

 このお嬢様は…。


 典型的なお貴族様で、自分の言う通りにならなければすぐへそを曲げるようだ。


 別に見下されるのは構わないが、そんなにこっちを睨まないで欲しい。

 振り払ったのはアレク様の意思で、私の気持ちは関係ないのだから。


「ルリ、串焼きを二つくれないかな?」


 ゼシルの問いかけには応じず、私に尋ねてきた。

 串焼きを渡すと、アレク様はゼシルに優しく微笑んだ。


「ステーキは今度、屋敷に行った時にご馳走になるから今日はコレでもいいかな?」


 敵意丸出しのお嬢様は私を一瞥すると、アレク様の手に持っていた串焼きを叩き落した。


「今日は食欲がないので、結構ですわ」


 ゼシルは語気を荒げて言い放つと、踵を返して去っていった。


 勿体ない…。

 串焼きが一本無駄になってしまった。


「本当にごめんね。こんな思いをさせてしまって…」


 アレク様は地面に転がった串焼きを拾い謝罪する。


「いえ、私は気にしていませんから」


 と返事はしたけれど、一口もつけられていない串焼きを見ていると無性に腹が立ってきた。

 食べ物を粗末にする輩は許せない。


 あのお嬢様とは仲良くなれそうにない。

 これ以上関りがないことを祈ろう。


「彼女も同じ学園に通っている生徒だから気を付けてね。貴族だから関わることは少ないけど何かあったら教えてね?」


「分かりました!何かあればよろしくお願いします」

 

 

  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「だいぶ疲れてるね」


「う、うん…。流石に昨日はきつかったな」


 疲労困憊の様子で登校したツバキは椅子に座るや否や、机に突っ伏した。


「ルリはお祭りは楽しめたの?」


 ツバキの声は少し枯れている。

 昨日のお祭りでのどを酷使したのだろう。


「うん、楽しかったよ!」


 ゼシルと遭遇していなければ、もっと気持ちよくお祭りを堪能できたはずなんだけどね…。

 あのお嬢様が立ち去った後は、いくつか屋台や露店を巡った。

 途中で小雨が降り始めたから、ニ時間くらいでマリアさんが迎えに来てくれて寮に帰ったけれど…。

 

 私は右手の小指に嵌められたシルバーの指輪を見つめた。

 真ん中には小さな瑠璃色に光る石も埋め込まれている。

 

 これは昨日、アレク様が私に贈ってくれたモノだ。

 焼き鳥のお詫びにくれた品だ。


「ルリの綺麗な瞳と一緒の色だから似合うと思う!」

 

 と、嬉しい言葉も一緒に添えられて露店で購入してくれた。


 思い出すと胸が熱くなる。


「ルリ…。一人でニヤついて気持ち悪いよ!」 


 いつの間にか机に突っ伏していたツバキが起き上がっていた。


「そんな顔してた!?」


 どうやら思った以上に浮かれているのかもしれない…。

 

「そっかぁー。昨日、そんなに嬉しいことでもあったんだ!?何があったの!?」


 ツバキが立ち上がると、ニタニタした顔で私に詰め寄ってきた。


 先ほどまでの疲れが嘘みたいに、ツバキの表情は晴れやかになっているのは良いこと何だろうけど、

 両手をモミモミしながら近付いてくるのは辞めて欲しい…。

 恥ずかしくなった私は、


「何もないよ!」


 一言告げて、今度は私が机に突っ伏したのであった。

 

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