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36話 お祭り ②


 こんな狭い空間にアレク様と二人きりだ。

 

 何か話さないといけないと思いつつ、なかなか言葉が見つからない。


 窓の外を眺めていた私はこっそりアレク様を盗み見る。


 この外見はずるい。

 黒髪はとってもサラサラしているし、黒曜石のように輝く瞳を見つめると吸い込まれそうになる。

 スッとした鼻梁から視線を下に移すと、瑞々しい柔らかそうな唇もー。


 いかん。いかん。


 私には釣り合わないなのは分かっている。

 だけど、心のどこかで淡い期待を寄せている自分がいることに最近、気がついた。


 アレク様とあまり話す機会はないがこのように特別扱いされると意識してしまう。マリアさんが仮に仕組んでいたとしてもね。


 どうしてこんなに特別扱いしてくれるのですか?と。素直に理由を訊いたらいいんだけど、中々その一歩が踏み出せない。


 もし私が理由を訊かずに、今みたいに甘えていてもこの関係性は続くのだろうか?

 

「最近、調子はどうかな?」


 思い耽っていると、アレク様が優しい眼差しで尋ねてきた。

 

「はい!学園生活も慣れて、日々楽しく過ごしています!」


「それは良かった!学園で気になることや変わったことも起きてないかな?」


「いえ、特には…」


 アレク様は一瞬険しい表情を浮かべたけれど、かぶりを振って微笑んだ。


「ううん、何もないならいいんだ」


 うーん。

 もしかして、アレかな。

 編入してイジメられてないか、気にしてくれているのだろうか?


 幸い編入してから特にそういった嫌がらせはされていない。

 疎外感を感じる時もたまにあるけど、それは私が積極的にクラスメイトに話しかけていないせいだろう。


「あの、アレク様はお祭り好きですか?」


「うん。小さい頃から毎年お祭りに参加するくらいには好きだよ」


 アレク様が微笑して返答する。

 

 その笑顔も相まって、不覚にもキュンとしてしまった…。


 好き…。

 お祭りが好きなだけで他意は全くないはずなのだが、勝手に脳内変換しそうになる。


 だめだめ!

 私に乙女心なんて似合わないんだから!

 

 今までイチゴ一筋だったでしょ!

 少し優遇されたぐらいで調子に乗ると痛い目を見るんだから。

 そう自分に言い聞かせて、心を落ち着かせようとする。


 すると、タイミング良く馬車が停車した。

 

 良かった…。

 これ以上、密室に二人きりでいると良くない思考のループに入る所だった。


「ルリはお祭りに参加したことあるの?」

 

「いえ、無いです。…だから凄く楽しみです!」


 そうだ。

 アレク様を意識してしまうなら、お祭りを楽しむことに集中しよう。


 馬車の扉が開き、マリアさんが一礼した。


「今年はここから先、規制が入っているので停車しました」


「そうみたいだね。ここからは歩いて行こうか」


 アレク様が先に馬車から降りて、手を差し伸ばしてくれた。


「ありがとうございます」


 私はお礼を告げて、軽く手のひらを重ねて馬車を降りる。


 アレク様の手は私より一回り大きく、とても温かかった。

 見た目とは裏腹に手のひらには固いマメが幾つもあり、日頃から剣の修練をしているのも同時に窺えた。


「ルリは何か食べたいものある?」


「んー…」


 食べたいもの…。

 そうだなぁ。

 イチー。


「イチゴ飴の屋台はあそこに見えるから行く予定だからね?」


 どうやらお見通しのようだ…。

 他に食べたいものかー。


 屋台には何があるのかな?


「アレクは何か食べたいものはありますか?」


「んー。そうだなー。ちなみにルリは苦手な食べ物とかある?」


「特には無いかと。強いて言えば、カラ…。

 いえ、何でもありません」


 危うくカラマイタケと口を滑らすところだった。

 ここで魔草の名前を告げたら、アレク様に引かれていたかもしれない。

 

「とりあえずイチゴ飴買いに行こうか」


「お願いします!」


「私は馬車を屋敷に預けるので、お二人で楽しんできて下さい!」


 マリアさんはそう言ってこの場を離れようとした。

 ん…。


 あれ?マリアさん!!

 陰からサポートしてるはずでは!?

 三人でお祭りを楽しみながらフォローしてくれるんじゃないんですか!?

 

「マリア!屋敷に戻る前に、マーベルにお土産でも買って渡してくれないかな?」


「かしこまりました!」


 マリアさんは快く承諾すると、人混みの中に消えていくのであった。


 ちょっとマリアさん!!

 屋台で何か買うならその間は一緒に行動しても良くありませんか!?



  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「まずはここかな?」


 私はイチゴ飴を食べながら、アレク様に案内された屋台に目を向ける。


 大きな水槽の中に金魚が泳いでいた。


「毎年、屋台に来たら金魚すくいをするんだよね」


 金魚すくいって何だろう?


「お!アレク様!!いらっしゃいませ!!!」


 髭を生やした中年の男性がアレク様に声を掛けた。


「ジルさん、ポイを二つ貰えますか?」


「かしこまりました!」


 どうやら、店主とアレク様は知人のようだ。


 ジルさんは小箱からポイと呼ばれたモノを二つ取り出し、アレク様に差し出した。


 ポイと呼ばれたものは魔法薬学の授業で使用するルーペみたいな形状をしていた。

 ポイは木製のようだ。

 ルーペでいうとレンズのところには薄い円形の紙があったけれど。

 


「今年もアレク様が勝利するのですかね?」


「ああ、今日はマリアは不在なんだ」


 アレク様がこちらに視線を向ける。

 自己紹介をした方がいいだろう。


「初めまして。ルリと申します!」


 深く腰を折り、挨拶をする。

 雰囲気的に彼は貴族ではないと思うけど、もしかしたら商家かもしれない。


「私の名前はジルと申します。ルリ様、そんなに畏まらないで頂けますか?普段はフリージアの屋敷に仕える庭師なので」


 ジルさんは私を様付けしている辺り、勘違いしているだろうな…。


「いえいえ、私も貴族ではありません。平民ですので、そんな(へりくだ)る相手でもないので気軽に話して下さいね」


「そうだったんですね。凄く綺麗なので貴族様かと勘違いしちゃいました」


「あ、ありがとうございます」


「ルリから金魚すくいやってみる?」


 隣にいたアレク様が尋ねてきた。


 モノは試しだよね。

 コツを訊いてから挑戦するのもいいけれど、せっかくだし思ったようにやってみよう。


「はい!私からいきます!」


 んー。

 どの金魚にしようか?

 獲物が大きすぎるとすぐ紙が破れそう。

 とはいえ、小さい金魚も俊敏なやつが多い。

 

 アイツにしよう!


 獲物を決めた私はゆっくり水面にポイを滑り込ました。


 網の端っこでポイを引き上げるつもりだったが、小さな金魚はあっという間に私の包囲網を潜り抜けようとする。


 はやい!!

 けど、このルートなら!!


 すかさず私も金魚の後をつけて、壁に追い込むことに成功した。


 紙は少し破けている…。

 

 少し卑劣な手段かもしれないけど、木枠を使って狙おう。


 バレない速度で引き上げたらきっと大丈夫!


 そのままポイを私は剣を振るうように素早く取り出した。


 よしっ!!

 取れた!!!


 標的の金魚は無事に確保できた!

 アレク様の方を思わず見ると、苦笑交じりに拍手していた。


 ちょっと、ズルいですよね…。

 流石にアレク様の目は誤魔化せないか。


「初めての金魚すくいでこの個体はすごいですね!この金魚は小柄なんですけど、俊敏性はトップクラスですから、ほとんど捕れる人はいないんですよね」


「え!そうなんですか!?よかっー」


 ジルさんに目を向けると私は言葉を失った。


 ポイの紙が見事にジルさんに乗っかっており、水滴のせいなのか薄毛がより強調されていたからだ…。


「ジルさん本当にすみません!!!」


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