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35話 お祭り①


《ギイルside》


「あれ?貴方の弟さんは隣にいないのね?」


「弟なんていないけどねぇ」


 いるとしたら、あの忌々しい兄さんだけだ…。


 アニキアニキと(うるさ)かったゾイは死んだ。

 あいつは殺されてしまったが、アレクが憎いとは思わない。

 ゾイは命令を無視するし、そんなに使える駒じゃなかったしな。


「そんなことより。ルリが学園に入ってもう四ヶ月が経つよ?何か得られたかい?」


「そうですわねぇ。最近はAクラスに移動したことくらいかしら」


「そっかぁー…。あのお方が望む姿に近付いたってことかな?」


「まあ、何でもいいですわ。しがない村人なんて興味ありませんわ」


 まあ、ゼシルはルリのことなんて眼中にないだろう。

 こいつはアレクと結ばれることしか考えていないからな。


「それより私はこのまま貴方に協力すれば、本当にアレク様と婚姻を結べるのかしら?」


「そうだよ。ボクが王になれば簡単に取り計らえるんだからさぁ」


「そんな上手くいくとは思えないけど、情報を提供するだけでいいのならこのまま協力はするわ」


「そうだねぇ。キミはアレクと結ばれる運命なのだから」


 ゼシルは顔を赤く染め、悶える。


「そうですわ。あぁ、早くアレク様に会いたい…」

 

 なんて愉快な奴だろう。

 もしアレクが地に落ちた時、キミはどんな表情を浮かべるんだい?

 ゾクゾクするよ。


 とはいえ、今アレクを陥れたら計画が水の泡になるからしないけどねぇ。

 

 ひとまず君は僕の手足になって存分に動いてもらおう。

 


  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 お祭りの前日の夜。

 綺麗に梱包された紙箱が届いた。

 綺麗なドレスと一通の手紙も添えられて。


 家紋からしてアレク様からの贈り物だ。

 

 手紙の中身を確認すると、九時に学園の門に集合らしい。

 

 前に頂いた手紙は達筆だったけれど、今回は滑らかで少しだけ筆跡が違うような気がした。

 まあ、いっか。

 

 読み終えた紙を折り畳み、ドレスを手に取り広げた。


 あ!

 このドレスは以前、マリアさんに貰った青いドレスと一緒だ。


 パーティーのとき着用していたドレスは、襲撃された時に処分された。

 階段から転がった時、盛大に破れてしまったらしいから。


 もしかして、マッキュさんのお店でまた同じ商品を購入してくれたのかな…。

 とても高価で、庶民には手が出せない代物なのに。

 村長から受け取ったあの金貨を使えば買えるけど、あんな高い商品をホイホイ買う度胸はない。


 明日はアレク様に楽しんでもらえるように頑張ろう!

 具体的に何をすればいいか分からないけど…。



 今朝登校したらみんなお祭りのことで盛り上がっていた。


 キーシャでは年に一度、ブドゥー祭りが開催されるらしい。

 祭りの由来は果物の葡萄(ぶどう)だとツバキが言っていたっけな…。

 ちなみに葡萄はこの街の特産品でもあり、他国との貿易では群を抜いて輸出されているようだ。


 この間、フリージア商会の果樹園でイチゴ狩りをしたけど…。

 ツバキ達曰く、あそこよりも遥かに大きな果樹園で葡萄を管理しているらしい。


 ツバキとネムは明日から実家の手伝いをしないといけないみたいだから、朝からゲンナリしていた。

 二人とも頑張ってね…。


 

  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 

 デート当日。

 ドレスに着替えて私は用意を済ませた。

 鏡の前で最終チェックを行う。

 

 メイクもばっちりしたし、忘れ物もないよね。


 待ち合わせの時間よりもだいぶ早めに部屋を出て、学園の門に向かった。


 廊下には生徒がチラホラ見える。

 恐らくこの子達も今からお祭りに行くのだろう。


 私は普段より歩くペースは遅い。

 あまり履き慣れないヒールだからだ。

 まあ、ハイヒールじゃないし…。

 そこまで問題はないだろう。


 実は今履いてるヒールは、屋敷に襲撃された時に履いていたものだ。


 あの日、ギイルと名乗った小柄の男から逃げる時、私は裸足になっていた。

 幸いヒールは無傷で、さほど汚れも付着していなかったから大切に使っている。


 マリアさんが、

 

「ドレスと一緒にこの靴は破棄しますか?」 


 と訊いてきたけど、靴は状態がとても綺麗だったので捨てれなかったのだ。

 使える物をすぐに捨てるのは勿体無いしね。



 学園の門に辿り着くと、女の子の集団が目に入った。

 十人くらいだろうか?

 Aクラスの子も数人いるけど、大半はBクラスの子達みたいだ。

 貴族の人達は居ないみたい。


 あの子たちに共通しているのは皆、顔を赤らめて一点を見つめている。

 視線の先にはメイド服のマリアさんとタキシードを着用したアレク様がいた。


 だよなあ。

 そんな気はしたけどね…。

 集合場所が門だったから、もしかしたら人だかりができているかもとは思ったけど。

 やはり、三代公爵のアレク様は人気のようだ。


 ゆっくり歩きながら、私はアレク様がいる馬車に向かう。


「きゃ!今、アレク様が笑ったわ!」


「え、嘘!!見てなかった!」


「確かに笑ったわ!!!」


 集団の中にいる女の子たちが騒いでいた。


 さっき私もアレク様と目が合って、微笑んでくれた気もしたけど…。


「ホントよ!私に向かってニコッと笑ってくれたわ」


「いや、あんたじゃ無いわ!ワタシに対して笑顔を向けてくれたのよ!!!」


 私も目が合いましたとは言わない方が身のためだろうな。


 女の子達は目に見えない火花をバチバチ上げて、言い争っている。


 うう…。

 あそこを通り抜けるのは勇気がいるな。

 気のせいか、お腹が痛くなってきた…。


 一度、トイレに戻ろうかな?

 門の広場に備え付けれた時計を確認する。


 時間には余裕はあるし、待ち合わせの時間まで二十分はある……。

 踵を返そうけれど、ふと疑問が()ぎる。

 

 果たして二人はいつから待っていたのだろうか?


「ねえねえ、誰か待っているのかしら?」


「あそこに十分いるってことは待ち合わせをしてるんじゃないの?」


「誰か声かけてみる?」

 

 本人に訊かなくても、彼女達が教えてくれた。

 もし、私が待ち合わせ時間ぴったりに来ていたら、三十分も待たせていたことになる。


 ヒールのことを考慮して、早く部屋を出て良かった!

 

 私はマリアさんに向かって鋭い視線を送った。

 タイミングよくマリアさんと目が合うと、こちらに手を振ってくれた。


 マリアさん手を振っちゃダメだよ…。


 案の定、平民の彼女達が一斉にこちらに振り向いた。


「あ〜。ルリちゃんだ…。勝ち目ないなぁ…」

 

「なんだ、やっぱりかぁ〜!そんな気はしたけどさ…」


「アレク様と仲良くなりたいなら、まずはルリちゃんと仲良くならないといけないのか!」


「チッ!シネヨ」


 女の子は口々に胸の内を吐露する。



 約一名だけ恐ろしい単語を口にしていたようだけど、聴こえないフリをしよう。

 三人目の発言も多少、引っかかったけど、最後の子に比べたらマシか。


 あまりこの子たちとは交流は無かったけれど、Bクラスにも所属していたから、顔と名前を覚えていたようだった。


 彼女達を通り過ぎる時、チラッと横目に見る。


 ほとんどの生徒は羨ましいそうに私に視線を向けてくるが、一人だけ明らかに殺気の籠った視線が混じっていた。

 

 よく見ると歯軋りしているし、頬もぴくぴくしていた。


 そんな目で私を見ないで…。

 怖いから!!


「ルリさん、おはようございます!」


 馬車の元に辿り着くとマリアさんがニコッと挨拶してきた。


「珍しいね、ルリが遅刻なんて。もしかして昨日の夜眠れなかった?」


 遅刻…?

 もしかして時間、間違えたちゃったのかな?


「おはようございます!いえ、ゆっくり眠れたのですが…。そう言えば、集合時間って何時ですか?」


「八時半かな?」


「…え?そうだったんですね」


 私はジト目でマリアさんを見つめた。


「マリアに手紙は書いてもらったけど、もしかして、九時集合って書いた訳じゃないだろうね?」


 眉を寄せたアレク様がマリアさんに問いかける。


「え〜。ハッキリとは覚えていませんが、もしかしたら記入ミスしたのかもしれませんね!?」

 

 マリアさんは全く悪びれた様子は無かった。

 この反応。

 明らかにわざと時間をずらしたのだろう。


「どうして、こんな事をしたんだい?」


「正直に言うと…。アレク様のパートナーはルリさんって周囲にアピールしたかったからですね」


「次からやっちゃ駄目だからね。ルリが困るかもしれないんだから」


「かしこました!」


 アレク様には見えない角度でマリアさんはウィンクをして、頭をこちらに下げてきた。


 やっぱり、反省していないです。

 この人。


 次から待ち合わせをする時は、アレク様と直接やりとりした方がいいかもしれないな。

 


「ルリ、お先にどうぞ!」


 アレク様にエスコートされて、馬車に乗る。

 

 ん…。

 …。

 はっ!

 

 アレク様も乗り込み、扉がゆっくり閉まった。


 他にこの馬車に乗る人もいないのだから、当然扉は閉まるよね。

 マリアさんは馬車の手綱を握るわけだし。


 二人きりの空間になった私は緊張して変なことを口走ってしまう。


「本日は、よ、よろしくお願いします」


「よろしくね?」


 アレク様が不思議そうに首を傾げて笑った。


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