34話 デートのお誘い
《アレクside》
「はい…。私が六才の時、自分の命と引き換えに亡くなりました」
ルリは悲しみを帯びた細い声で告げた。
やはり、そうか。
ルリの母親はエルフだったのか。
あまり信じたくはないけれど…。
「ルリの母親はエルフなんだよね?」
念の為、ルリに確認する。
「はい…。そうです」
母親がエルフということは、ルリは必然的にハーフエルフということになる。
それはだいぶまずい…。
この町キーシャでは、混血は迫害されてしまうから。
「ルリの母親がエルフだと知っているのは他に誰かいるかな?」
「いえ、誰も知らないと思います。もしかしたら、村長は私の母がエルフだと認知してるかもしれませんが…」
「なるほど」
「ルリ姉、まじかよ!」
ルリの横に座っているマーベルは盛大に目を見開き、驚嘆している。
どうやら、マーベルも初めて知ったらしい…。
ルリも苦笑して、視線をマーベルに移した。
「ってことはルリ姉がハーフエルフってことか!?」
「このことは絶対に誰にも言っちゃダメだからね」
私は強い口調で二人に忠告する。
ルリは自覚があるみたいで頷いているけれど、マーベルは不思議そうに首を傾げた。
「お、おう!秘密にするけどよ、どうしてなんだ?」
ルリは少し呆れた様子でマーベルに説明する。
「この街、キーシャではクリセイル教会の力がとっても大きいの。だから、人間と他の種族との間に生まれた子は迫害される対象になるの…」
「全員がそうとは限らないけど、この街に住んでいるキーシャの人々は他の街の住人より差別意識が相当強いのは確かだね」
クリセイル教会は三大公爵家以上に権力を持っている。
二年前、アファエル・キーシャ国王がお身体を崩されてからは特に…。
クリセイル教会は秘密主義の部分もあり、私も内情はあまり知らない。
ただ最近は荒事にも手を染めていると噂もあり、不穏な空気が流れている。
「そうなのかよ!!」
「うん。だから学園を卒業したら、この街から離れた方が安全だと思う」
個人的にルリには傍に居て欲しいけれど、この国でずっと過ごすのはリスクが大きい。
クリセイル教会が方針を変えない限りは…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アレク様の屋敷から出ると、徒歩で『猿の宴』に向かっている。
この宿屋は屋敷の門から二、三分で着く距離だ。
「ねえ、マーベル?」
「ん?何か言いたいことでもあるのか?」
本音を言えば、ポッチ村に帰って村長と平穏に暮らして欲しい。
私の近くにいたら危険なことに巻き込まれるかもしれないからね…。
村に戻って、村長と平穏に暮らして欲しい!
説得しようとしても、きっとこいつは私の意見を突っぱねるだろうな。
「あんまり無茶はしないでね」
だから、今はマーベルを止めたりはしない。
私が神聖魔法を極めて、どんな大怪我でも治せるようになれば少しは安心できる筈だから…。
とは言っても、あれ以降神聖魔法がうまく使えないんだよな…。
代わりといえばアレなんだけど、初級魔法は扱えるようになったけどね。
「ルリ姉もそんなに心配しなくても大丈夫だからな。それより、自分のこと気にしとけよな。また襲われるかもしんねぇんだからよ!」
「そうだね…」
アレク様の屋敷が襲撃された時、ゾイとは別にもう一人小柄な男がいた。
もしかしたらそいつがまた襲ってくるかもしれないか…。
マーベルの言う通り自分の身を案じた方がいいだろう。
その事も気にしないとダメなんだろうけど。
今日はそれよりも私を牢屋に入れた騎士が実は叔父だったことの方が衝撃的だった。
マーベルを指導して空いた時間があれば、ロイに母の事を訊いてみよう。
そしたら、なにか父のことについてもわかるかもしれないからね。
「見送りはここでいいぜ!宿に着いたし。馬車で学園に戻るにしても用心しろよ!じゃあな!」
気付いたら『猿の宴』に到着していたようだ。
「またね」
マーベルと別れた後、屋敷の門に停めてある馬車まで戻ってきた。
「ルリさんお帰りなさいませ。どうぞお乗り下さい」
マリアさんに促されて馬車に乗る。
「詳しい内容はアレク様から伺っておりませんが、私に出来ることがあればお力添えしますから、気軽に言って下さいね」
「ありがとうございます」
マリアさんの様子を見る限り、私やロイ叔父さんの関係性については聞かされていない可能性が高そうだ。
無闇に口外するような人じゃないと思うけど、私もロイが叔父であることは喋らない方がいいだろう。
亡くなった母がエルフと知ったら、ロイの正体がエルフだと知られてしまうからね。
必要ならばアレク様が直々にマリアさんに説明するだろう。
「そういえば、マーベルが訓練することになったのはご存知ですか?」
「はい!マーベルさんの件は先程、アレク様から教えて頂きましたよ!私もできる限りお手伝いさせてもらいますね」
この事は共有されてるみたいだった。
それはそうか。
これからマーベルはこのお屋敷の人達に面倒を見てもらうことになるからね。
「不束者の弟でご迷惑をお掛けすると思いますが、よろしくお願いします!」
「勿論です!」
私も色々と恩があるし、マーベルも屋敷の方々にお世話になるからなー。
何かお返し出来ないだろうか?
「マリアさん、私に何かして欲しいことはありますか?」
自分から何か差し上げれるモノがあれば質問なんかしなくていいだけどね。
金銭もいいかなと思ったけど、一度編入の際に濁されたし。
あまり受け取りたくないのかもしれない。
「そうですねー」
顎に手を置いて思案顔になったマリアさんだが、パッと何か閃いたようだ。
「来週、このキーシャでお祭りがあるのはご存知ですか?」
「いえ!知らなかったです!」
私は学園に引き篭もりだし、街のイベントはあまり気にしないから初めて知った。
「私の方からアレク様には伝えておくので、お二人でお祭りに行っては頂けませんか?」
「は、…ゴホッ、ゴホッ」
私は咳払いをして誤魔化したけど、危うく「はい」と即答するとこだった。
二人でお祭り…。
恋愛に疎い私でもなんとなく分かる。
世間ではこれをデートと呼ぶのではないだろうか?
キーシャのお祭りにアレク様と二人で行くのか。
一緒に行きたいなと思うけど、アレク様はどうなんだろう。
本人がいないのに話を進めるのは少し気が引ける…。
「私なんかでいいのでしたら喜んでお受けしますが、アレク様はよろしいのでしょうか?」
「はい!」
満面の笑みでマリアさんは返答する。
「もし、何かあれば私がこっそり陰からサポートしますので!」
陰からサポートしてくれるのは心強いけどなぁ…。
「もしかして、本当はアレク様とお祭りは嫌でしたか…?」
辛そうな表情を浮かべたマリアさんが上目遣いでこちらを見てきた。
そんな顔で見つめないで下さい…。
私が悪いことをしている気持ちになるので…。
「いえ、行きたい気持ちはあります。ただ、本人が居ないところで話を進めるのはちょっと…」
「でしたら、ご安心下さい!アレク様から許可は頂いておりますので!」
それなら安心か。
「分かりました!お祭りに行きます!」
私は即答する。
「ルリさんの不安を払拭するためならば!わたくしの首を掛けましょう!」
「いえ!大丈夫ですから!!」
そこまで身体を張らなくても大丈夫です。
マリアさんが居なくなった方が、アレク様に多大なご迷惑をかけるのですから…。
どうして、私がアレク様と関わるとマリアさんはこんなになっちゃうのだろうな?
まあ、嫌な気分にはならないし、そこまで言われるとちょっぴり嬉しいからいいけどさ。
「あ!そういえば、寮のお部屋を教えてくれませんか?」
それくらいならお安いご用だ。
「A寮の二階のB号室です」
「ありがとうございます。お祭りは今週の日曜日にあるのでお願いしますね」
日曜日か。
忘れないように帰ったらメモしておこう。
ちなみにこのミルタニア大陸では一年は365日あり、四年に一度うるう年がやってくる時だけ366日になる。
一年は12ヶ月で区切られ、一ヶ月はおよそ30日前後くらいだ。
一日ごとに、月・火・水・木・金・土・日のサイクルがありそれを一週間と呼ぶ。




