32話 クラス替え
果樹園で襲われて二週間ほど経過した。
大きく変わった事があるとしたら、私はAクラスに移動したことだ。
先週、魔法が扱えるようになった事を担任の青年教師に報告したら、クラス替えが行われた。
無論、この神聖魔法については伏せている。
このキーシャでは、神聖魔法はとても重宝されている。
貴族の中でも扱えるのはごく僅かで、神聖魔法を扱える者は皆、教会に連れて行かれる。
半ば強制的に…。
私の場合、マーベルを救った時に封印が解放されて神聖魔法が使えるようになった。
15歳になれば、封印が解かれるようになって居たらしいけど。
恐らくこの世界では15歳が成人扱いになるから、母はその年齢に設定したのかな?
ただ、私が強引に封印を破った反動なのか、記憶の一部が欠落している。
とりあえずこの二週間でわかったことを整理しよう。
ついに私も神聖魔法とは別に魔法が扱えるようになった。
現時点では水と風の二つの系統が扱える。
具体的には水球や風球などの初級魔法だ。
多分この二系統の魔法は母親の遺伝を引き継いだのだろう。
亡くなった私の母は実はエルフだったみたいだし。
神聖魔法は父からだ…。
父は亡くなっている可能性がかなり高いけど、もしかしたら生きているのかもしれない
教会に行けば父に関する手掛かりが得られるけど、代償もかなり大きい。
もしも、神聖魔法が扱えることが教会にバレたら確実に私は囚われてしまう。
本当は父について詳しく知りたいけど、今は辛抱する時だろう。
まずは、神聖魔法についてもっと理解するのが先決かな。
五限の魔法薬学の授業が終わり、私はAクラスに戻る途中である。
魔法薬学は自分の好きな分野だから、するする頭に内容が入った。
魔法に関してもAクラスに入ったおかげで、このまま真面目に取り組めば上達していくと思う。
ちなみにこの世界には大きく分けて、火・風・水・土の四大元素を司る魔法がある。
それに加えて光・闇の魔法かな。
私の扱える神聖魔法は光系統に分類される。
あと、無属性や召喚魔法も種類としては確立されているか…。細かい魔法を挙げればキリがないけれど、一般的に広まっているのはこれくらいだろう。
召喚魔法は、精霊や使役した魔物が現れる。
無属性はあまり馴染みがないかもしれないが、魔力結界や身体強化とか分かりやすいかな。
そういえば母はエルフだったけれど、人族以外にもいくつかの種族がいる。
ざっくりだけど、エルフ・ドワーフ・獣人族・魔族などかな。
獣人族に関してはだいぶ一括りにしているけどね。
私達のいるミルタニア大陸では魔族以外の種族が暮らしている。とはいえ、どの種族とも人族は友好的な関係を築けている訳ではないない…。
一番の理由は奴隷制度が原因だろう。
だから、基本エルフは人里離れた森に住んでいるし、ドワーフは険しい山々に住処がある。
獣人族は何処にいるか、あまり知らない…。
魔族だけはミルタニア大陸にはおらず、魔大陸にいる。魔族だけは明確な敵対関係にあるからだ。
はるか昔、この大陸にも魔族はいたらしいが勇者様が一掃して、数は激減したらしい。
なぜ、魔族だけを敵視しているかと言うと意思疎通が取れるにも関わらず、あいつらは種族を問わずに無差別に襲うからだ。
ちなみに魔族と魔物は一緒の括りだが、違いがあるとすれば魔族は喋ることができるけれど魔物は基本的に会話することが出来ない。
私達はAクラスの教室に戻り席に着く。
予鈴が鳴って十分くらい経つとリリー先生が入室して、教壇に上がる。
「は〜い。今日の授業は特別に自習です〜。分からない事はクラスの委員長に聞いて下さい〜」
リリー先生はいつも通り教卓の横にある机に突っ伏して、寝る体勢に入った。
午後の六限目、今日最後の授業はリリー先生が担当だ。
この人が真面目に教鞭している姿は殆ど見たことない。
この感じなら、私が卒業するまで似たようなものだろう…。
何故、リリー先生が教師をずっとクビにならないのは不思議で仕方ない。
単なる噂だが、解雇されない理由は学院長と出来ているらしいからって、ツバキが言っていた。
んー。
もしそれが本当なら非常にけしからん先生だ。
ただ、リリー先生は男子生徒からはすこぶる評判が良い。
理由は単純だ。
はだけた格好で、校内を闊歩するから目の保養になるからだ。
顔が整っているから尚更、男子生徒には好評なのだろう。
ふと右隣を見ると、ツバキはうたた寝しているようだった。
小さな寝息が聞こえてくる…。
妹のネムと違って、ツバキは勉強がとても苦手だ。
どの教師が講義をしていても、寝ている事はザラにある…。
座学が苦手だから克服しようとは全然思ってないらしい。
「得意な実技をさらに伸ばしていけば、それで良いじゃん」
と本人は言っている。
Aクラスの一部の生徒から、脳筋と揶揄されるのも少し納得できる。
口に出したら悲惨な結末になるから、絶対に言わないけどね。
反対に左隣を見ると、黙々と何かを書いている眼鏡を掛けた男の子がいた。
確か名前は、ガリベイだったかな…。
まっさらな黒板には何も記入されていないから、板書してる訳では無いだろう。
このように、真面目に勉強している生徒もチラホラいる。
とは言っても、今日最後の座学がリリー先生だ。
さらに自習ときた。
クラスの半分くらいは仲の良い生徒同士で集まり、雑談を交わしてあっという間に時間は過ぎ去る。
私は真面目だから、当然一人で勉強しました。
うん…。
誤解はしないで頂きたい。
ツバキ以外に仲のいい人がいなかった訳じゃないからね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「すみません。お水貰えますか?」
グラスが空になったため、店主に声を掛けた。
「はいよー!」
私は今、『猿の宴』という宿の食堂にいる。
この場所は以前、私が編入前に利用した宿だ。
ミキサーをかける音が店内に響く。
甘い香りも漂ってきて、鼻口をくすぐる。
美味しそう!
イチゴの香りも混じっており、脳が危険信号を出している。
完成したのか、店主はニコッと私たちに笑ってこのテーブルに歩み寄る。
そして、丁寧にミックスジュースを二つ置いた…。
「新商品として出すつもりなんだけどよ、良かったら試飲してくれねえか?あぁ、水も一応もってくるからな」
マスターがにこやかな笑みを浮かべて尋ねてくる。
そういえば、以前この食堂に訪れた時も落ち込んだ若い青年に焼豚を大盛りをサービスしていたことを思い出した。
この店主はサービス精神が旺盛で、気さくな人柄のようだ。
「ありがとうございます!では有り難く頂きますね」
私は軽く頭を下げて、ミックスジュースを受け取る。
「サンキューな!おっちゃん!」
マーベルはⅤサインを右手で作り、お礼を述べた。
「坊主も二週間くらい、宿を利用してくれありがとな!」
「お、おう!」
マーベルは果樹園の騒動の日から今日に至るまで、キーシャに滞在していた。
「寮通いだから心配しなくても大丈夫だよ」
と伝えたが、この宿に居座っている。
「またあいつらが襲ってくるかも知れねえから近くに居たい。役に立てることは少ねえけど、盾になるくらいならオレでもできるからな。だからここから離れねえぜ!」
そんなことを言われたから、私も反論したが聞き入れてはくれなかった…。
結局はお互い妥協点を見つけて納得する形がこれだ。
マーベルはとりあえず、一ヶ月様子を見て何も無かったら、一旦じいじの所まで戻ると…。
この二週間は何事もなく平穏が続いている。
もしかしたら、ゾイの敵討ちで誰か襲ってくると思ったけどね…。
ゾイは捨て駒だったのだろう。
私はここの日替わりメニューを食べ終えた。
「明日はアレク様の屋敷に行くからね」
私はマーベルにそう言って、手に取ったミックスジュースを飲む。
「おう、屋敷に行くのはいいけど何かあったのか?」
「マリアさんに二人で屋敷に来てくれないかって、誘われたんだよね」
「そうか!内容とかは知ってるのか?」
「詳しいことは分かんない。マーベルに用があるのかなって思う。今回はあくまで私は付き添いのような気がする」
「おっけー!じゃ、明日一緒に聞いてみようぜ!」




