29話 ゾイの急襲
「ほら、お前も武器を使え」
ゾイは鋭利なダガーを私の足元に投げつけた。
わざわざ武器を与えてくれる。
余程、腕に自信があるのだろう。
若しくは、私達を徹底的に叩きのめすことで絶望感を与えたいのかもしれない。
背中の後ろにいたはずのマーベルはダガーを拾って、私の前に歩み出る。
「マーベル馬鹿な真似はよしなさい!」
「ルリ姉はオレが絶対に守るぜ!!」
このままだとアイツに殺されてしまうだろう。
真正面から立ち向かうのはあまりに無謀すぎる。
「さっきのY字路を左に進むと果樹園があるの。その先に屋敷があるから、助けを呼んできて!」
私はマーベルに指示を出す。
とりあえず、マーベルには戦闘を避けてもらいたい。
幸いここはフリージア商会の敷地だ。
前回ネム達の屋敷にお邪魔した時、五人くらい護衛の人がいた。
何人かここまで来てくれたら、この危機を打開できるしれない。
「だったら方向音痴のオレより、ルリ姉が適任だな」
こういう時に限ってマーベルはもっともらしい理由を述べて、私の提案を受け入れない。
割と真っ当な主張をしているけれど、ここは私も引き下がる訳にはいかない。
「なあ、ルリ姉…」
「あんたの方がスタミナあるんだから、呼んできなさい!」
お互い本気で走って競争したことは無い。
どちらの方がスタミナがあるのかは知らないけど、私もマーベルの説得を試みる。
「ルリ姉は、こいつを斬る覚悟はあるのか?」
私は言葉に詰まった。
…………。
あいつを殺すだけの覚悟が果たして、今の私にあるのだろうか…。
前回、屋敷に襲撃されたことがフラッシュバックする。
ここに華奢な黒ずくめはいない。
会話で時間稼ぎは出来ないだろう…。
私が瞬殺されたら、マーベルはきっとすぐに追いつかれてこいつに殺されてしまう…。
だとしたら私がこの男を殺す覚悟で、ぶつかって行くしか無いのだが…。
マーベルがこちらに振り向いてニコッと笑う。
「ルリ姉、そんな恐い顔しなくて大丈夫だぜ!」
「…私がー」
「さっき、ルリ姉に貰ったこれがあるからな…。オレはあいつを倒して守ってやるからな!」
私はマーベルの小さな手に嵌められた、灰色のグローブを見つめる。
先ほど、私が雑貨屋で購入した品だ。
馬車の中でマーベルに贈ったプレゼントでもある。
そのグローブを付けても、いきなり強くなる訳がない…。
私が騎士に攫われたことがきっかけで、マーベルは必死にトレーニングをやり始めた。
師匠がいるわけでもなく、独学だけどね…。
雑貨屋でマーベルの手のひらを見た時、思ったのだ。
私が村を離れてからさらに、マーベルはがむしゃらに真っ直ぐ訓練していたのだと。
血豆やタコ、無数にできたキズが物語るほどには…。
少なくとも、この三ヶ月私がいないところで、マーベルは自分を変えるための努力をしたのだろう。
だけど、それでもアイツに敵う訳がない。
非常に酷な話だが。
「ああ、そうだなあ。もし俺様に一太刀でもいれたら、大好きなお姉ちゃんを逃してやっても構わないぜ!」
ゾイはマーベルにいやらしい笑みを浮かべて呟くと、ゆっくりした足取りで近寄ってくる。
嘘をつくな。
そんな甘い言葉に騙されない。
逃すはずが無いだろう。
こんな奴の言葉、信じる方がバカだ。
「言ったからな!その時は約束守れよ!」
ダガーを握りしめたマーベルが強く地面を蹴る。
マーベルがいきなり飛び出すとは思わなかったから、引き止めようと伸ばした手は空を切った。
「うぉおおおりゃああああ!!!!」
マーベルは精いっぱい声を張り上げながら、突っ込んでいく。
自分を鼓舞して、恐怖を吹き飛ばそうとしているのかもしれない。
ゾイはマーベルが間合いに入ると、すっと剣を振り下ろした。
力なんて全く入れてないのが伝わってくる。
そもそも2倍近くの身長差があり、体重も含めて何もかも違う。
魔法が使えたら話は別だが、単純な力比べで勝てる訳がない。
マーベルの握ったダガーはあっさり叩き落とされ、そのままマーベルの肩にあいつの刃が刺さった。
「うぅっっ」
マーベルの呻き声が聴こえる。
私は瞬時に走り出した。
策も何もない。
マーベルが先に殺されそうになるのなら、ダガーを拾って立ち向かうのは私の方だったのだ。
躊躇するべきでは無かった…。
「ルリ姉、来るな!!!これはオレの闘いだ!」
必死の形相で叫ぶマーベルはいつの間にか、振り落とされていた筈のダガーを拾っていた。
ゾイは追撃をしない代わり、ニヤついた笑みを張りつけている。
マーベルの肩から溢れ出る真っ赤な血は腕へと流れ、そして指先に辿り着く。
馬車の中であげた灰色のグローブは血で染まり、滴った血液が地面に落ちる。
あの出血量だったら、まだ致命傷ではないかもしれない…。
けど、あれ以上攻撃されると命の危険がある。
私の為にどうして、ここまで身体を張ってくれるのだろうか?
私が立ち向かうのは……。
マーベルには家族がいるからだ。
血の繋がった本物の家族が。
マーベルには父もいるだろう。
遠く離れていてもね…。
だからマーベルがここで命を落とす必要なんて一ミリもないし、死んだらダメだ。
「ルリ姉、止めろ!来るんじゃねえ!」
マーベルの声を無視して、私はゾイに向かって走る。
巨躯なゾイは軽々とマーベルを蹴り飛ばした。
ゾイはこちらに視線を向けて、醜悪な笑みを浮かべる。
「お前が出しゃばらず、大人しく静観していればなぁ…。もしかしたら、このガキが一太刀、俺様に入れれていたかもしれないぜ。そしたら、逃すつもりだったのになあ」
見え透いた嘘をよく吐けたものだ。
逃すつもりなんて、これっぽっちもないくせに。
ゾイは私が間合いに入ると剣を振るう。
マーベルの時より振り下ろす速度が明らかに早い。
私は紙一重で交わすと、巨漢の鳩尾目掛けて鋭い拳を放つ。
硬っ!
全然手応えは無かった。
それどころか逆ににこちら拳の方が砕けそうになった。
頑丈すぎるでしょ!
生身の身体とは思えない。
「身体強化するまでもなかったな」
呆れた口調でゾイが耳元で囁くと、私のお腹に強い衝撃が走る。
お腹を殴られたと気付いた時には、地面に蹲っていた。
「お前はこのガキが死ぬ様をそこで眺めていればいい」
ゾイは地面に転がったマーベルに向かって歩く。
「ま……ま、待ちなさい」
お腹の痛みを我慢して声を振り絞る。
ゾイの歩みがピタッと止まった。
何故か分からないけど、ゾイは私の言った事を聞いてくれた。
マーベルから私に進行方向を変え、近付いてくる。
「そんなにこのガキの死んでいく姿見たいのか?だったら近くに連れて行ってやる」
本当にこいつはマーベルを殺すつもりのようだ…。
私は引き摺られて、マーベルの真横にきた。
「ルリ姉、ごめんな」
謝るのはこちらの方だろう。
正直に村長とマーベルに話していたら結果は違っていたのかもしれない。
勝手に自分で判断して、一人で抱え込んだのが間違いだったのだ。
ゾイはマーベルの胸ぐらを掴んで、無理やり立ち上がらせる。
「弱すぎて笑えもしねえ。そんなんじゃ、愛しいお姉ちゃんも守れるわけねえよなぁ」
「だ、だまれ!」
「自分の弱さを恨むことだな。あばよ」
ゾイがマーベルに告げて、剣を振り上げようとしたした瞬間、
「遅くなってすまなかった」
アレク様が急に現れて、ゾイを軽々と吹き飛ばした。
吹き飛んだゾイは木にぶつかるが、すぐ立ち上がる。
「アレク様…!?」
「ここは私が引き受けるからマーベルを連れて逃げてくれないか?」
何故、アレク様がここに現れたのか分からないけど危機的状況に陥った私達を助けてくれた。
「わかりました!」
私はお腹を抑えて立ち上がる。
痛みはあるが、どうやら動けそうだ。
マーベルを見やると、かろうじて意識はあるみたい…。
だが、その場から一人で立ち上がり動くことは厳しいようで手助けが必要のようだ。
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