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28話 巨漢の黒ずくめ


 私達は買い物を終えて、雑貨屋を出た。

 思いの外、長居してしまったけれど、私はこの後予定はないから特に気にする必要はない。

 一点だけ除けば…。


「マーベル、他に()()()行きたいところはある?」


「一個だけあるんだけどな。()()で行く方が楽なんだよな」


 うーん…。

 マーベルはさっきからずっと馬車で行こうって、一点張りだ。

 恐らく自分なりのエスコートで、私を連れて行きたいのだろう。

 


「行き先教えてくれたら、歩いてすぐ行けるかもしれないよ?」


 この店に長居した理由もこれが原因だった。

 マーベルに次行きたい場所を尋ねると教えてくれない。


「歩ける距離かもしれんねえけどな!馬車に乗っていこうぜ!」


 馬車はお金が掛かるし、歩いて行ける距離なら徒歩で行きたい。

 別にマーベルが馬車の手綱を引くわけでもないんだから、そこまで意地を張らなくてもなあ…。


「歩いて行けるところでも行き先は絶対教えてやんねえからな!」


「じゃあ、どうやってそこまで行くのよ?」


「馬車で行く!!それにオレも言いたいことがあるぜ!!ルリ姉もさっき買ったやつ、全然教えてくれねえじゃん!」


「これは村長に渡す時に一緒にあげるって言ったよね!」


 私はマーベルにあげるプレゼントを手に持っていた。


「だったら、今オレにくれてもいーじゃん!」


 今すぐこいつにプレゼントをあげてもいいんだけど…。

 頑なに態度を崩さない頑固なこいつに私も対抗していた。

 

 我ながら12才の子供に意地を張って情けないと思う…。

 結局、私はマーベルにプレゼントを贈る代わりに、目的地を聞きだした。


 どこか、見晴らしのいい丘に行くみたいだった…。

 どうしてそこまで隠していたのだろうか。

 まあ、行ってみたらわかるか。


 私は方向音痴ではないが、キーシャの街を歩くことが殆どないため全く土地勘がない。

 だけど、この道は見覚えがある…。

 そのままゆっくり馬車で寛いでいると、目的地に到着した。


 馬車から降りて御者にお礼を告げて、運賃を渡した。


 これくらいなら距離なら歩いて帰っても全く問題なさそう。

 ここから学園までは意外と近いからだ。


「ルリ姉、こっちこっち!」


 興奮気味にマーベルが私を呼んで、手招きをしてくる。

 多分あそこが一番見晴らしが良さそうだ。

 マーベルが木柵に身体を預けて、景色を堪能していた。


 私もマーベルの隣に移動する。


「イチゴの果樹園が見える!いいなぁー!!」


 思わず心の声が漏れてしまった…。


「ルリ姉!良くわかったな!本当はオレがあそこに連れて行って驚かすつもりだったのに…」


「…私の目は誤魔化せないよ!あれはどう見てもイチゴを育てているよ!」


 マーベルを傷つけないために咄嗟に誤魔化してしまった。


「すげえな……」


 当然、ここからイチゴの果樹園がわかるはずもない。

 あの場所はフリージア商会の果樹園だ。

 どおりでさっき見覚えのある道だと思ったわけだ。


 さっき馬車が通った道の最後のY字路。

 あそこを左に曲がると眼下に広がる果樹園に辿り着くのか。


 ここの果樹園はネムとツバキから沢山イチゴを貰った所でもある。


 前回遊びに行った時は貸切だった。

 普段は料金を支払ってイチゴ狩りが体験出来るスポットらしい。

 

「ルリ姉のイチゴ好きはやっぱり健在だな」


「かもしんないね」


 私が苦笑して答えると、マーベルが木柵に身を乗り出した。


 「危ないから降りなさい」


 と叱ろうとしたけれど、マーベルの雄叫びが辺り一帯に響いた。


「大人になったら、これくらいでっけえいちご畑、絶対手に入れてやるからなー!」


 やっぱりおバカなマーベルは変わらない…。

 そういうところ嫌いじゃないよ。


 わざわざ大声で叫ぶ必要はなかったと思うけどね…。

 なんとなくだけど、マーベルが私を大切にしたい気持ちは伝わったかな。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ルリ姉はイチゴ大好きだから一杯持って帰ろうぜ!」


「そうだね!」


 私とマーベルがイチゴの果樹園に向かって歩いていると黒づくめの巨漢が現れた。


 もしかして…。

 以前、私はアレク様の屋敷で遭遇しているやつと一緒かもしれない。


「おい、クソガキ。イチゴ畑が欲しいのか?」


 巨漢が笑いを堪えながら口を開く。


「おまえ誰だよ!」


 マーベルは警戒した面持ちで叫ぶ。


「俺様の名はゾイ…。

 名前くらい知っておきたいよなあ…ルリ」


 マーベルの問いかけに答えるというより、私に向けて名乗った感じだった。


「どうして私の名前を知ってるの?」


「さあな。それより大切なガキをこの手で殺した時、お前は俺様を楽しませてくれるのか?」


 私は一歩後退り、マーベルを背中に隠すとゾイに言い放つ。


「貴方のような野蛮なごろつきに、マーベルは殺させない!」


「それを決めるのは俺様だろう。生かすも殺すもな」


 背中越しに隠れているマーベルは、ゾイに向かって吠える。


「もし、オレがお前を打ち負かしたらルリ姉から手を引けよな!」


「もしお前が負けたら、俺様は何が貰える?」


「なんでも言うことを聞いてやる!」


「そうだなぁ…」


 無謀すぎる挑戦を提案したマーベルを私はキッと睨む。


「ああ、いいぜ!呆気なく殺すより、いたぶって殺す方が小娘の絶望した顔も拝めそうだしなぁ」


「マーベルそんな事しないでいいから、逃げなさい!」


「ルリ姉、これは男と男の闘いだ!」




「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるのっ……!」


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