26話 ルリ姉の元へ
《マーベルside》
ルリ姉がこの村から去って三ヶ月が経つ。
オレはルリ姉が旅立つ日、見送りを拒んでじいの家に引き籠った。
振り返ると情けねえと自分で思うけどな…。
あの時は、快く背中を押す事なんて出来なかった。
今でもルリ姉の学園生活を応援できるかと言ったら、微妙な所だ。
けどな、時間が経ったおかげでちょっと冷静になることができたと思う。
こんな喧嘩別れのような感じで、ルリ姉と疎遠なるのはイヤだ。
三人で花火をした日、自分に誓ったはずだ。
オレはルリ姉の敵になるやつから守ってみせると。
家族として認めてもらうって。
まだまだ道のりは遠いけど、へそを曲げたままじゃカッコ悪いしな。
「なあ、じい」
「なんじゃ、マーベル」
「ルリ姉の所に遊びに行ってもいいか?」
「もちろん、構わんぞい」
ジイの許可も降りたことだし、早速キーシャに向かうとするか。
と意気込んだオレだが、そもそもキーシャへの道のりがわからなかったぜ…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
学園の門を出るとすぐ真横に、見覚えのある馬車が停車していた。
アレク様がいつも乗っている馬車だ。
窓ガラスが朝日を反射して、視界が少し眩しい。
学園の外に出たのは、ネムとツバキの家に遊びに行った時以来だろう。
基本的に空いた時間は図書館で書物を読んだり、授業で習った勉強を復習をしていた。
身体が鈍るのも嫌だから、訓練場の端っこで身体を鍛えたりする日も設けているけどね。
だから予定がない限り、学園の外に出ることはなかった。
馬車の方から物音が聞こえてくるので、そちらに意識を向ける。
アレク様の馬車から、マリアさんが降りてきた。
「ルリさん、お久しぶりです!」
「はい!三ヶ月ぶりですかね。編入の時はお大変世話になりました!」
編入してからはアレク様やマリアさんと話す機会はほとんどなかった。
お互い避けていた訳じゃないけれど全く交流がなかった。
貴族と平民だし。
向こうもわざと距離を空けてた訳じゃないと思う。
多分…。そう信じたい。
「いえいえ、ルリさんが学園生活を満喫しているようで何よりです!」
「はい!キーシャ学園に来れて良かったです!」
そもそもこの学園は、平民と貴族は校舎も寮も別々になっている。
意図的に会おうとしないと接点がない。
偶然を装って接触できる場所といえば、学園の門くらいだろうか。
とはいえ、私も門で立ち尽くしてアレク様を待つ訳にはいかない。
時間を無駄にするのは嫌だしね。
学園に編入してからは勉強や訓練に没頭していた。
それも重なりアレク様やマリアさんとは最近、関わり合いが途絶えていたのだ。
「ルリさんが学園の外に出るなんて珍しいですね」
「はい。先日、村長から手紙を受け取り確認したら、マーベル達がキーシャに遊びに来るって書いていたので…」
そう。
マーベルがここに遊びに来るらしい…。
「なるほど!もし良かったら馬車に乗って送っていきましょうか?」
マリアさんに期待した眼差しで誘ってもらった。
けれど、私はお辞儀をして申し出を断る。
「いえ、街もあんまり散策したことないので今回は歩いて行こうと思います」
「そうなんですね…」
明らかにマリアさんは落胆しているけれど、アレク様に迷惑かけるのも遠慮したい。
「あの、魔女の館って呼ばれているお食事処をご存知ですか?」
「知っていますよ。地図があるので良かったら、目的地に印をつけてお渡ししましょうか?」
一応、目的地まで地図で確認したけれど、現地人から教えて貰えるのは心強い。
「助かります。地図は持っているので印だけお願いしてもいいですか?」
「わかりました!」
「ちなみにマリアさんはアレク様を待っているんですよね?」
「はい。アレク様と……ゼシルお嬢様を………」
急に会話を中断するマリアさん。
ゼシルお嬢様…。
どっかで聞いた覚えがあるような、無いような…。
んー…。
あぁ、そういえば。
編入前に私が別邸に宿泊するとき、貸切を要望したお嬢様かな…。
マリアさんはゆっくり近付いてきて、いきなり私の両肩に手を置いた。
やけに握る力が強い…。
そんなに痛くはないけれど。
すると、マリアさんは真剣な面持ちで私の名前を叫んだ。
「ルリさん!」
「な、何でしょうか?」
マリアさんは鼻息を荒げおり、目を合わせるとギンギンになっていた。
様子が変だし、少し怖いです…。
何をそんなに意気込んでいるのだろうか。
「ルリさんだけでも、この馬車に乗って頂けませんか?」
さっきも同じ聞いた台詞を聞いたような気がする。
よほど私に乗って欲しいのかもしれない…。
私の勘だけど、ゼシルお嬢様は厄介なタイプの女性なのかもしれない。
触らぬ神に祟りなし。
マリアさんには申し訳ないが、私もここは早くお暇させてもらおう。
「お気持ちはとても嬉しいのですが、アレク様以外にも相乗りする方がいるのですよね。であれば今回はご遠慮します」
「そうですよね…無理を言ってすみません」
マリアさんは風船が一気に縮んだかのように、しゅんと縮こまる。
落ち込む姿を見たことで、私も少しばかりの罪悪感が込み上げてきた。
別にマリアさんの事が嫌いな訳じゃないし、ただ私がゼシルお嬢様と関わらないようにしただけである。
「また機会があれば是非乗せて下さい!」
私は蹲ったマリアさんを放置して、マーベルと村長がいる魔女の館に目指すのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あそこが目的地のようだ。
木製の看板に黒い太文字で『魔女の館』と表記されている。
ここはとても美味しいと評判のお店だ。
ただ、入り口の真横にある怪しげなテントが店内へ入りずらくさせていた。
テントの出入口にも、板材に汚い字で何か記されていた。
なんて、書いてあるんだろう…。
近くに寄って確認する。
血のように赤い文字で、『こちらが魔女の館です』と同様に書かれていた。
二つ魔女の館があるんだ…。
後者の方は胡散臭すぎる…。
そういえばクラスメイト達が、こんな事を言っていた…。
「魔女の館って、料理は凄く美味しいんだけど、入口の、アレがちょっと不気味だよねぇ」
「わかる、わかる!アレがあるから行列にはならない
んじゃない!」
「私並ぶの苦手だから、アレがあるから逆に助かっているかな」
アレって多分、この不気味なテントの事を指しているのだろう。
所々テントには穴が空いてるし…。
私も同感だ。
これって魔女の館(立派な方)の営業妨害にはならないのかなぁ…。
マリアさんの目印のお陰で、迷わずここまで辿り着けた。
マーベル達との待ち合わせの時間には、まだまだ余裕があった。
んー。
少しだけテントの中を覗いてみようかな。
暇だし、ちょっとだけ気になるし…。
怪しかったら逃げればいいしね!
穴から覗けないかな?
いけるかも…。
恐る恐るテントの穴から、中の様子を窺う。
老婆が椅子に腰を掛けて、テーブルに置いてある赤い水晶玉を大事そうに撫でていた。
だよね…。
そんな気がした…。
期待を裏切らない光景だったので、そっと立ち去ろうすると老婆と目が合った…。
「そこのお嬢ちゃんこちらにおいで。タダで占ってあげるから?」
あぁ。
覗いていたのがバレてしまった…。
老婆がいかにも怪しい、売り文句で誘ってくる。
気配に敏感なのかな。
テント越しだからで私の姿は見えないはずなのに。
「いえ、お金を持ってないのでまた今度にします」
覗き穴から離れて、大きめの声で伝えた。
この断り方が不味かったのかもしれない…。
「タダじゃ嬉しくないのかい。最近の子はワガママで困るの。お金あげるからこっちに来るんじゃ」
余計にそっちに行くのが憚られるよ…。
お金を受け取って占ってもらうとか、後でどんな悪事を強要されることやら…。
踵を返そうする私に老婆が問いかける。
「このまま立ち去ってもいいのかい?親しい人と仲違いした状態だろう?」
一瞬足が止まり、マーベルの顔がよぎった。
「わしゃの話をチラッと聞いてみな。騙されたと思って」
誰にでも当てはまりそうな内容だけど、実際にマーベルとは気まずい別れ方をしたのは事実だ。
「別にお主を取って食ったりはせんから、安心するがよい」
チラッと周囲を確認する。
マーベル達の姿は見えない…。
まだ二人は来てないようだし、ちょっとだけ暇を潰そうかな。
もしかしたら、仲直りの糸口が掴めるかもしれないもんね。
「では…少しですけど、占いをお願いします…」
私はテントの中に入る。
「よかろう。ここに座って目を瞑っておくれ」
老婆の指示に従い、椅子に腰を下ろす。
鳥の巣みたいな白髪が気になる…。
新手のパーマと思い込めばいいか。
ゆっくり目を閉じた。
もしも鳥の囀りが聞こえたら、思わず笑ってしまうかもしれないけど。
「手を差し出して、赤い水晶に翳すのじゃ」
「わかりました」
手を翳してから、目を瞑るのでは駄目だったのかな…。
口には出さず、自分の勘に任せて手をゆっくり前に差し出す。
すると手のひらに水晶の感触がした。
水晶は人肌のように温かい。
鳥が抱卵するように老婆が温めたのかな…。
流石にそれはないか。
数分、手を翳していると老婆に楽にしてよいぞと告げられた。
瞼を開けて、姿勢を正して老婆を見つめる。
どんなこと言われるのかな?
「お主はこれから大変な試練が、いくつも待ち受けておるだろう。
残念ながら、これは運命じゃ…。
勿論、逃げる道もあるが、それを選ぶと確実に大切な人を失うだろう」
大袈裟過ぎる内容で、冗談に聞こえる台詞だ。
しかし、老婆は真剣な表情で揺るぎない瞳でこちらを見据える。
「私はこれからどうしたらいいですか?」
聞き流しても良かったのだが、つい私は質問を投げかけてしまう。
老婆は首を振り、優しい声音で答える。
「それは自分自身で決めるのじゃ。わしゃに出来ることは、お主にはこれから険しい道のりが沢山待っているとしかいえぬ」
「そう…ですか…」
「助言とはちと違うのじゃが、わしゃがお主に言えることがあるとしたら……定められた宿命から目を逸らさず、立ち向かうことがいいのかもしれぬな」
定められた宿命…。
村人の私に何か大きな試練がやってくるのだろうか。
ニコッと微笑んだ老婆が私の背中に視線を向ける。
すると、聞き慣れた懐かしい声が聞こえた。
「婆さんや、次はこんな所であこぎな商売をしておるのかのう」
声の方に向くと村長が髭をさすって、老婆を眺めていた。
この人って村長の知り合いなの!?
もしかして、集合場所ってここだったのかな…。
「よぉ、ルリ姉!久しぶりだな」
村長の隣には、頬をかいているマーベルの姿が映った。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
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