25話 果樹園
A、Bクラスの合同試験も無事終わり、今日はネムとツバキの家に遊びに行く日だ。
私達は学園の坂道を下った花屋の前にいる。
隣にはネムとツバキもいて、馬車が到着するまで待機していた。
生徒は基本的に寮通いだ。
一部の貴族は自宅から登校している人もいるみたい。
そう言えば、アレク様も自宅から通っていた気がする…。
「なあ、ルリは馬車乗ったことあるのー?」
「んー、数回だけあるよ!」
ツバキの質問に答えて、私は手に持った空の手提げ袋に視線をやる。
何に使うのかな…。
一応持ってきたけど。
空の手提げ袋だから、買い物にでも行くのだろうか。
「手提げ袋二つもいるかな?」
「うん、あって損はないよ!」
私は不思議そうに呟くと、ツバキは力強く肯定した。
隣にいたネムも大きく縦に首を振る。
「そろそろ馬車が来てもおかしくないんだけど、迷ってるのか」
ツバキが眉根を寄せて呟いた。
同じ平民のはずだが、ネムとツバキは馬車を利用するみたいだ。
「ここから歩いて家まで行くには結構遠い?」
「まあ、歩いて半日くらいだから行けないことないけど、そうする!?」
ツバキは悪そうな笑みを浮かべて、聞き返してきた。
「半日は流石にきついかな…。後でお金払うね!」
三人で割り勘にしたら少しはお金が浮くよね…。
貧乏性の私は手に持った小銭袋を無意識に握る。
貴族は大抵、屋敷に専用の馬車があるのだが、庶民の私達には馬車など到底買えない。
とはいえ、徒歩だけの生活は不便過ぎるから、運賃を御者に払うと馬車に乗って好きな所に移動できるらしい。
つい先日、ネムから教えてもらった情報だ。
寂れたポッチ村で馬車を利用する事なんて無い。
学園に来てもこうやって外に出ることなんて基本なかったし、知らないのも当然だろう。
「ルリ!お金は払わなくていいよ、この馬車はうちで使用しているやつだからさ!」
ツバキは平べったい胸を誇らしげに張っている。
私もぺったんこだけど。
ん?
うちで使用している馬車…。
「え!?専用の馬車があるんだ!?」
少し勘違いしていたようだ。
庶民でも馬車を買えるみたい。平民でも届くってことはお値段もピンキリなのかなぁ…。
それからすぐに迎えの馬車がきた。
貴族の馬車に引けを取らない、立派な馬車が到着した。
うん…。
これから行く所は豪邸か屋敷に違いない…。
御者が降りて、私達に向かって深々とお辞儀をしてくる。
「ネム様、ツバキ様、大変お待たせ致しました。道が渋滞しており、遅れた次第です。そちら様にいらっしゃるのが本日のお客様でごさいますか?」
「うん、そうだよ!ネムのクラスメイトで、ルリって言うの!」
「左様でございますか。わたくしの名前はチャムと申します。ルリ様、本日はよろしくお願い致します」
ツバキが私の名前を紹介してくれると60代くらい男性がこちらを向いて、丁寧に挨拶をしてくれた。
執事の格好をしているし、どう考えても平民に接する態度じゃない気がする…。
「はい…!こちらこそ、今日はよろしくお願いします…!」
馬車に乗った私は落ち着きが無く、ソワソワしていた。
「ルリさっきから、なんか様子が変だけど何かあった?」
「そ、そうかな!?き、気のせいだよ」
ツバキがニヤニヤした顔で尋ねると、私は動揺を隠して答えた。
それもそうだろう。
さっきの2人のやりとりは確実に、主人と従者の関係だ。
ネムもツバキも平民しかいないBクラスなのに、何故か使用人が仕えている。
うん。
これは間違いない。
この二人は身分を隠した貴族だ。
「言いたい事があるなら私じゃなくても、クラスメイトのネムに話してもいいんだよ?」
私は隣に視線をやると、少し気まずそうにネムは顔色を伺ってきた。
ネム…。
きまずいのは私の方だよ。
今更、畏まってネムに話しかけるのは抵抗がある。
とはいえ、爵位のあるご令嬢に反感を買われるのも気が引けるよ…。
知らないふりを貫こうしたけれど、上手く言葉が見つからない。
悩んでいると、突然、ツバキが笑い出した。
目が点になっている私のことが余計に面白かったのだろうか。
ツバキは涙を浮かべて、むせながら謝罪してきた。
「ごめん、ごめん。本当は馬車が来る前に一言伝えたら良かったんだろうけど、どんな反応するか気になったんだよねぇ」
「ルリごめんね。ツバキがどうしてもドッキリしたいって言うからさ。一応、私は止めたんだよ?」
ネムも何故か申し訳なさそうな顔で、私に謝ってくる。
いまいち理解できていない私はツバキに尋ねた。
「どうして謝っているのかわからないけど、何か私されたっけ?」
とぼけたフリをして、二人の出方を窺う。ネムとは仲良くなったつもりだけど、相手は貴様様なのだ。
ツバキを直視出来ず、チラチラ視線を送ってしまう。
「ルリさ、私達のこと貴族だと思ってるでしょ!」
一瞬否定しようとしたけれど、素直に首を縦に動かし肯定する。
ネムが会話に加わって教えてくれる。
「ルリ、私たち二人とも普通に貴族じゃないから安心してね。ツバキも私も平民だからさ。馬車が遅れたのは偶然だし、執事のチャムが慇懃な態度で接してくれるのはいつものことなんだよね。だから、ごめんね」
「そうだったんだねネム…。心臓に悪いからドッキリは勘弁してほしいかな」
馬車を借りて、わざわざ御者にも一芝居頼んだドッキリなのか…。
危うく信じるところだったよ…。
安心した私は胸を撫で下ろし、ツバキを見やる。
「まあ、行ったらお礼にアレを沢山あげるから許してよ!」
アレってなんだろう…。
まあ、怒っている訳じゃないけど、ここは乗っかっておこう。
私は頬をプクっと膨らませて、鼻息を荒くする。
「何くれるのか教えてくれたら、許そうかな!」
「んー。じゃ許してもらわなくていいかもなー。それは行ってからのお楽しみだよ!」
ネムとツバキと仲良く談笑しながら、実家に向かうのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昨日ネム達の実家に行ったけれど、とても有意義な休日だった…。
私が勘違いしたから、二重の意味でドッキリを味合うことになったけど。
結局、馬車はツバキたちの屋敷の所有物だったのだ。
そして私はアレを沢山貰ってしまった。
そう。イチゴだ。
ツバキたちはイチゴの果樹園に案内してくれた。
思う存分私はイチゴ達と戯れ、たらふく食べてしまった。
空の手提げ袋に山盛りにして持ち帰ったのも言うまでもない。
あの二人には、いつか必ずこの恩を返そう。
屋敷に仕えて馬車馬のように働くのもアリかもしれないなと思うほどイチゴはおいしかった。
彼女達が裕福だったのは、フリージア商会の娘だったからだ。
当主は今三代目らしい。
昔からフリージア商会は、キーシャの重要な貿易の一端を担っている。
ちなみにキーシャの町がこんなに発展したのは、貿易が盛んに行われたからである。
先日、学園の図書館の本にそう記されており、ツバキ達の曾祖父さんの写真もあった…。
ある者は町の真ん中でフリージア商会が貿易のパイオニアだと、吹聴している。
宗教ともまでとはいかないものの、熱狂的な信者は教会に集まり神々に祈りを捧げている輩もいるらしい。
何を崇めているのか知るのが恐いからその後はネム達から訊かなかったけどね…。
ちなみに二人は学園で素性を公にはしておらず、フリージアの性は名乗らないまま、普通に登校しているみたいだ。
それはそうだろう。
フリージア商会の娘が学園に通っているのが公になったら、貴族から求婚されるのが目に見えている。
崇拝者が押し寄せてくる恐れもある。
素性を明かしてくれたのは嬉しい反面、どうして私に教えてくれたのだろうか?
アレク様といい、ネムやツバキも私を気にかけてくれるのは凄く嬉しい。
だけど今の私じゃ、何もお返しできないよ…。
いや、私が立派な冒険者になって、今貰っている恩を返したらいいのか。
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