24話 編入生
《ネムside》
7月上旬。
編入生が加わる、一週間前の出来事だ。
リリー先生から、このBクラスに編入生が入ってくると告げられた。
貴族のクラスだと編入は割と当たり前にあるらしいが、平民がこの中途半端な時期に編入してくるのは、あまり前例が無い。
理由は至ってシンプルだ。
平民は金銭的に厳しい、その一言に尽きる。
学期の途中に編入する場合は身分に関係なく、奨学金の制度は使えないからだ。
それもそうだろう。
毎年キーシャ学園は平民、貴族を問わず定員オーバーになるのだ。
仮に簡単に編入できる仕組みがあるのなら、入学時に頑張った生徒達や保護者から不満の声が上がるのは目に見えている。
だからこそ、魔法も使えないBクラスに、編入生が突然来ると知らされた時は驚愕した。
一週間後、ルリって女の子がBクラスに登校してくる日。
あまり噂話は信じないけれど、先週、編入生に関する会話が偶然耳に入ったことを思い出す。
「ねえねえ、聞いた?編入生してくる女の子、実は公爵家時期当主のアレク様からの推薦なんだって!」
「え、それ本当!?確か、キーシャ三代公爵家の一人息子で、しかも第一王子の幼馴染だっけ?」
「そうそう!アレク様に気にかけて貰えるなんて、そのルリって女の子、羨ましいなー」
「つまり、将来的にはアレク様に嫁ぐかもしれないってことかな?」
「それは流石に飛躍しすぎじゃない?」
などと、昼休みにクラスメイトの女子達が熱心に会話を繰り広げていた。
何故、彼女達がそのような情報を知っているのは不思議だけれど、編入生の子は裏口入学らしい。
私も貴族の生まれではないし、一応平民である。
キーシャ学園の生徒であれば三代貴族の名前は全員覚えてるのは言うまでもない。
勿論、私もアレク以外の残りの侯爵家の名前もしっかり把握している。
まぁ、よっぽどのおバカさんか、世間知らずの田舎者でなければこれくらいは知っている…。
「ここがBクラスだからねー」
毎度お馴染みの、酒焼けで枯れている声が廊下から聴こえた。
廊下側の最前列の椅子に座っていた私は教室の入口に注目する。
すると、リリー先生と噂の編入生が一緒に教室に入ってきた。
水色の長髪で、160センチくらいの女の子。
瑠璃色のぱっちり二重で、鼻筋もしっかり通って可愛い顔立ちをしている。
いつも酒に溺れているリリー先生は投げやりの態度で彼女に告げる。
「適当なところ座っていいからね」
編入生の彼女は一瞬ポカンとした表情になるけれど、すぐに言葉の意味を理解したようだ。
けれど、彼女は困惑したまま、その場に立ち尽くしていた。
そんな曖昧なこと言われても、何処に座っていいかわからないよね…。
編入生が気の毒だ…。
普段は自分から声をかけることはあまり無いのだけれど、困っている彼女を見兼ねた私は手を差し出すことにした。
「リリー先生はいつもあんな感じだから気にしないでね。あ、私の名前はネムって言います」
その後、ルリと名乗った彼女に空席の所を教えた。
ルリが着席すると、私は左隣の空席に視線を向けると小さく嘆息した。
今日も金髪の元貴族様は遅刻のようだ…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
《ネムside》
ルリが編入してから二か月が経過した。
私がBクラスの中で、一番ルリと親密になっていると思う。
噂の影響は中々大きかったんだね…。
ルリはアレク様の推薦された人って認識されていたから、他の生徒達は一定の距離を保っていた。
私も姉のツバキに頼まれていなかったら、こんな積極的には話し掛けてはいなかっただろう。
興味自体は私もあったけれどね…。
昼休み、私はクラスの中でルリとゆっくり食事をしていた。
卵パンを咀嚼して飲み込んだ後、ルリに尋ねる。
「そういえば、この学園に来る前はどこに住んでいたの?」
編入してからこの手の質問はしなかった。
何故なら、私も住んでいた所は訊かれると困るからね。
クラスメイトたちに尋ねられても、私はいつもはぐらかしていたのだ。
ただ、今回はルリになら打ち明けてもいいと親からも承認を得た。
「ポッチ村って呼ばれるところにいたよ」
「そうなんだ!」
んー、もしかしてあのポッチ村かな。
昔、大災害があって辺境の土地になってしまった小さな村らしい。
何故、その村だけに大災害が発生したかは不明だけれど、このキーシャでもこんな噂を聞いたことがある。
火山が噴火して壊滅してしまった村。
地震が発生して津波に飲まれて廃れてしまった村。
一説によるとドラゴンに襲われてしまった村などと突拍子も無い噂も流されているのだけれど、真相は誰も知らない。
少なくとも平民の私達は…。
だから興味本位で彼女に尋ねることにした。
先週ツバキが、
「ルリを遊びに誘ってほしい!」
と頼まれたからでもあるけど。
「今度さ、ツバキと一緒にポッチ村のお家に遊びに行ってもいいかな?」
私の住んでいる家に招待してもいいんだけど、多分ルリが恐縮するかもしれない。
とりあえず、ルリの家にお邪魔できるならそれがいいな。
「んー。ツバキちゃんって、Aクラスにいる双子のお姉ちゃんだっけ?」
「そうそう。ダメかな?」
ルリは困り顔で苦笑すると、乾いた声で答えた。
「別に何もない所だし、あんまり遊べる場所もないからつまらないよ!?」
「んー。そっかー」
ルリの反応がよろしくない…。
もう少し仲良くなって誘うべきだったかな。
仕方ない…。
親も容認しているから、家に招待してみよう…。
「じゃ今度、私の家に遊びに来てみる?もし、良かったらだけど!」
さっきまで浮かない表情をしたルリだったけれど、家に招待するとニコッと微笑みを浮かべた。
「うん。また今度、ネムのお家にお邪魔するね!」
「うん、喜んで!」
とりあえず約束は出来たからいいよね。
ツバキとの約束も果たせた。
まあ、私もルリのこと気になるし。
「ご馳走様でした。少しお手洗いに行ってくるね」
パンを完食すると、私は席から立ち上がる。
ルリに見えない角度で小さくガッツポーズをして、トイレに向かう。
始めはツバキに頼まれたから近付いた。
下心がなかったと言えば、嘘になるかも知れないけど。
純粋に、私もこの子と仲良くなりたいなって気持ちもあった。
ルリは一ヶ月前の筆記・実技試験どちらもこのBクラスでトップクラスの成績を収めていた。
恐らくだけど、Aクラスでも同じ成績を残せるくらい優秀な人物だと思う。
すっごく田舎で育った理由もあって世間の常識には疎いようだけれど。
例えば、三代公爵家を知らないとか。
キーシャの王族の名前も覚えていないとかかな。
ただ、ルリは一年後には学園を卒業してこのキーシャを旅立つらしいから、別に問題はないだろう。
冒険者として色んな国を巡るなら、あまりこの国の上流階級に関心がなくてもいいのかもしれない。
まだ、二ヶ月ほどしか彼女と接していないけれど、ルリは恐らく本人も自覚がない秘密を抱えている。
私はその理由までは分からないけれど、表沙汰にしない方がいい内容なのは間違いない。
私は偶然だけど、ルリの秘密の一部を垣間見てしまったからだ。
私はこのクラスメイトに誰も打ち明けていないけれど、魔眼保持者だ。
魔眼とは名前の通り、魔力が宿った眼のことだ。
先天性の病気みたいなもので、保持者は限りなく少ない。故に魔眼の謎は未だ多く、研究者の意見も様々だ。
呪われた瞳と揶揄する人もいるくらい、魔眼は世間から恐れられている。
とはいえ、私の場合ある程度制御できるし、比較的他の魔眼に比べると優しい部類の眼なんだ思う。
暴走したことはないからね。
この魔眼で偶然ルリを視たとき、彼女の胸に黒い鎖がびっしり巻き付いていた。
痛々しいくらい鮮明に映っていたのだ。
この眼は戦闘向けではないけれど、魔力が込められた封印や呪いを可視化できる。
今まで色んな人の呪いや封印を見てきた。
家の事情でね…。
ただ、ルリの胸に巻き付いた黒い鎖は初めて視る代物だった。
実家にある魔導書でもこんな呪い、お目にかかった事はない。
それくらい珍しい魔法だった。
だからこそ、私は彼女をもっと知りたいし、偉そうかもしれないけど、できる事なら解呪してあげたいとも思った。
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