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20話 潜伏

 

 馬車に揺られながら、私は鞘に収められた剣を眺める。

 目立った模様も施されていない漆黒の鞘で、柄の部分には銀色の波打った模様が続いていた。

 ずっと保管されていたわりには、汚れやホコリなど付いない。

 

 村長が定期的にメンテナンスをしていたのかな?

 掃除が苦手でいつも部屋の中を散乱させていたのにまさかね…。

 

 村長が言っていたけど、父さんはもしかしたら生きているかもしれない…。

 いや…。

 多分それはないか…。

 生きているなら会いに来るはずだろうし。

 


 お迎えの馬車が来た時、今日はマリアさんの他にモローネも一緒に連れ添っていた。

 本来であれば騎士が馬車の手綱を握る予定だったのだが、急遽(きゅうきょ)、体調が崩れたため代理でマリアさんがその役目を担っていた。


 道中トラブルが発生した場合、即座に対応できるように馬車の中にも付き添い人が用意されているらしい。

 今回はなぜか、モローネが抜擢されたようだったが。


 私は残念なことにモローネと二人きりでこの時間を過ごさないといけない。

 ムスッとした態度のモローネが窓に顔を向けて、外の景色を眺めていた。


「そのまま、ぼっち村で暮らしていたら良かったのによ…」


 モローネはわざとらしく咳払いした後、小さな声だが確実に聞こえるトーンで愚痴を零す。 


 ぼっちじゃ無い。

 ぽっち村だし。


 私は無視しようと思ったが、つい溜息が漏れてしまった。


「ふんっ…。溜息を着きたいのはこっちの方だ」


 またしてもわざと挑発しているのか、小声でこちらを(あお)ってくる。

 毒の件を大目に見てやったのは間違いだったかもしれない。


 私は鋭い視線でモローネを射抜く。


「たくっ…。ガン飛ばしてんじゃねーよ。小娘が」


 小娘…。



 プッチーン。

 頭の中で何か切れる音がした。

 実際、馬の鳴き声と滑車の音が室内に聞こえるだけで、そんな音は響いていない。


 私はその場にどっと立ち上がる。


 一度くらいモローネには、お(きゅう)を据えるとするか。

 いつまでも甘やかすつもりはない。


「危ねぇぞ。大人しく座ることも出来ねぇのかよ」


 モローネの忠告を無視する。


 堪忍袋の緒が切れた私はモローネに怒りをぶつけようと説教を始めようとした瞬間。


 馬車が突然、急停止した。

 私は目の前のソファーに頭から突っ込む。


「だから言ったのによ…。おい、大丈夫か?」


 くの字になった私にモローネはあきれた様子で話しかけてくる。

 一応、心配してくれているようだ…。


「痛たたた…。あんたねぇ…」


 体勢を立て直し、モローネに恨み節を叩き込もうしたら、馬車の扉が勢いよく開く。


「急に停車してすみません。目の前に賊が現れたので馬車の中で待機して下さい」


 焦った様子はなく落ち着いた声音でマリアさんが教えてくれる。


「私もこのまま中にいた方がいいっすよね?」


「モローネはルリさんとそのまま馬車の中に居てちょうだい。分かっているとは思うけど、ルリさんに舐めた態度取らないようにね!」


「…了解っす」


 モローネが軽い口調で返事をして扉が閉まった。


「てな訳で、アンタと私はここで大人しく待っておけよ。下手に外に出たらマリアさんの迷惑になるからな」


「うん」


「安心しろ。マリアさんは近衛騎士団のロイ団長に匹敵するくらい強いからな」


 正直、ロイ団長の実力はわからないけど、団長を務めているってことはそれなりには強いのだろう。


 とりあえず馬車の中で待機しておくか。



   ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 十分くらい待機すると馬車の扉が開く。


「敵はひとまず退けることが出来たので、このまま屋敷に戻りますね」


 マリアさんが涼しげな顔で教えてくれた。

 あっさり敵を撃退してくれたようだ。


「守ってくれてありがとうございました!」


 一安心した私はマリアさんにお礼を伝える。

 モローネに視線を向けると目を瞑り、ほんの僅かだが寝息を立てていた…。


 おいっ…。


 マリアさんに全幅の信頼を寄せるのは良いんだけど、ちょっとくらいは私の身を案じてもいいんじゃないのかな?

 護衛対象といえば大袈裟だが、一応客人?

 だよね…。

 それ以降は襲撃されることもなく、無事にアレク様の屋敷にたどり着いた。


「到着しました!お足もとに気をつけ下さいね」


 馬車の扉が開いて、マリアさんに誘導される。


「先にアレク様の所に伺いますが、お手洗いとかはよろしいですか?」


「あ、はい。大丈夫です!」


 とマリアさんの心遣いに感謝をしつつ、屋敷を眺める。


 前にも来たときも思ったが、何度観ても圧倒されるなぁ。

 貴族の屋敷が大きいのは周りに権力や名声を知らしめる為に造られていると、耳に挟んだ事があるけれどあながち嘘ではないなと思う。


 全ての貴族がそのような見栄やプライドの為に、民の血税で屋敷を構えている訳ではないだろう。


 しかし、広大な庭を持ち、小さな城と言っても過言では無い建物をこの目で見てしまうと、そう感じる人が現れても不思議じゃない。


 マリアさんに待合室に案内されて、中に入ると既にアレク様はいた。


 もしかしたら、敷地に馬車が入るのを上から眺めていたのかもしれないな…。


「アレク様の推測通り、道中、賊に襲われました」


「何か手掛かりは見つかったのかい?」


「申し訳ございません」


 目を伏せながら低頭するマリアさん。


「敵も簡単に尻尾は見せないか…。やっぱりルリには別邸に住んでもらう方が良いのかもしれないね」


 アレク様がニコッと笑みを浮かべて、こちらに視線をよこした。

 私は苦笑しながら、軽く首を左右に揺らしてマリアさんに助けを求める。


「その方がよろしかもしれませんね!」


 マリアさんは微笑みながら頷いてアレク様に便乗した。

 流石に貴族の屋敷にずっと居座るのは意心地が悪いです…。


「まあ、数日くらいの宿泊ならいいんだけど、長期滞在は父から許可がおりないんだよね、多分…。当分の間は近くの宿を借りてそれから学園の寮に住む流れになりそうかな」


 私の困っていた表情を察してか、アレク様は他の選択肢を提案した。


 肩の力を抜き私はほっと安心すると、


「ルリの場合はとりあえず編入試験だね」


 アレク様がクスッと笑いながら話した。

 隣にいたマリアさんはほとんど聞こえない声量だが、


「出来れば、試験官の首を切る事は避けたいですね」


 と物騒なことを(ささや)く。


 そういえばそうだった…。

 筆記試験なんてものもあったよな。


 村長の家には沢山書物があり、それで勉強を教えてもらっていた。

 教育機関ほどではないにしろ、最低限の知識はあると思う。

 とりあえず試験に望んでみよう



  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(村人のルリが公爵家のアレクと接点があるのは何でだろうなぁ)

 

「ゾイ。何か掴めたかい?」

 

 黒い装束を羽織っている巨漢のゾイは不機嫌そうに返答する。


「今日襲った部下の報告を聞く限り、アレクとルリは何かしらの繋がりはあるとは思うっすけど。他に収穫はないっすね」


「そうか。しばらくは手を出さずに泳がせておこうかな。急ぐ必要は無いし、そっちの方が面白くなるかも知んないしねえ」


 ギイルは上質なソファーに身を預けて、ゾイに応えた。


「アニキ、そんな悠長なこと言ってると、すぐに足元すくわれちまうぜ」


(ゾイはいつもアニキ、アニキと呼んでくる。

いつからボクはお前の兄貴になったんだろうか)


 ギイルは自分の呼称に不満を感じながらも会話を続ける。


「そうだね。寝首を掻かれないためにもルリには見張りが必要かもねぇ」


(取り敢えず、あのお方の言いつけもあるし学園に使える駒はいる。彼女に頼めばいいだろう。

 アレクのことを好いているし、協力は惜しまないだろう)


 あのお方はルリに執着しているのかも知れないけど、正直ギイルはそこまで興味がなかった。


 それより例の計画の方をギイルは楽しみにしていた。ギイルの兄を引き摺り落とす為に、アレクが犠牲になるあの計画を。


(兄さんは地面に這いつくばって、散った花びらだけ見ていればいいんだよ。


ボクこそが次の玉座に相応しい。あんな()()()血が混じった紛い物が、次の王になる資格など一切ないのだ)

 

 華奢な少年は忌々しい兄を蔑みながら、花瓶に刺さった薔薇を眺めた。

ブックマークよろしくお願い致しますm(_ _)m

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