17話 花火
軽く山に登って代わりに燃えそうな木を探し始める。
枯れた木々を集めながら、今日私はあのことを二人に打ち明けようと決意していた。
私はこれからキーシャ学園に行くと。
本来であれば自分で決断する前に、マーベルや村長に一言相談してから決めた方が良かったかもしれない…。
だけど、来年には冒険者として旅立つ予定もあったからこのタイミングで良かったのかもしれない。
ただ、冒険者になること自体二人には打ち明けられていないのは気掛かりだけど…。
とはいえ、私もいずれ自立しないといけない。
いつまでも村長やマーベルに甘えていたら、ダメだしね…。
家族のように村長もマーベルも、私に優しく接してくれている。
マーベルは去年までずっと、実の姉だと勘違いしていたけれど…。
それはまあ、いいか…。
私は家族っていうのが、正直よく分からない部分がある。
その表現はちょっと違うのかな。
心の底からあの二人に甘えてもいいと思えないのだ。
以前、村長から私の両親は災害による事故死だと聞かされた。
仮にその話が事実だとしよう。
であれば何故、この年になるまで他に親族が誰一人私の前に現れてこないのか。
本当に私の両親は亡くなっているのだろうか。
単純に考えて私は捨て子で、本当は両親がどこかで生きているのかも知れない、と思った方がしっくりくるのだ。
そうやって思う方が私は納得出来るからこそ、やはり心のどこかで村長やマーベルに対しても一線を引いてしまうときがある。
捨て子の私が家族になる権利が果たしてあるのだろうかと…。
暗い気持ちを払拭するように自分の頬を軽く叩く。
これくらい集めたら充分かな。
細長い丈夫な紐で木々を縛り上げる。
私は木々を脇に抱えて、焚き火をする所に向かう。
そういえば、さっき何処でバーベキューするのか聞き忘れちゃったな。
まあ…。
多分あそこでやるんだろうな。
村長の裏庭にある畑の隅っこで肉は焼くんだと思う。
昔、こっそり私とマーベルが野焼きをして、こっぴどく叱られた場所だ。
当然、そこにあった作物は野焼きのせいで丸焦げにしてしまった…。
火傷や怪我がなくて、本当に良かったなと思う。
叱られた以降は、そこがバーベキューをするところになったっけな。
最近は全く利用していなかったけどね…。
畑の隅に行くと、マーベルと村長が石の上に座って待っていた。
うん、間違っていなかった!
「ごめん!薪が殆ど無かったから、そこら辺の枝集めていたら遅くなっちゃった」
村長は優しい眼差しでこちらを微笑むと、マーベルが胸を張って慰めてくれた。
「オレも今来たところだし気にすんな!」
「マーベルもありがとね…」
村長に向かって謝ったんだけどね…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
辺りはだいぶ暗くなり、焚き火がマーベルと村長を照らしていた。
「そろそろいいよな!」
待ちきれなかったマーベルがトングで生肉を掴んだ。
キラキラした目を向けて訴えてくる。
「そうだね。そろそろ野菜とか肉とか焼いちゃうか」
予定より焼き始めるのが遅くなった。
集めた木が少し湿っていたため、火起こしに手間取っていたからだ。
「こういう時さ、魔法が使えたら凄く便利だよなぁ」
マーベルが役目を終えたマッチ棒の山を眺めて、少し悲しそうな声音でポツリと呟く。
「だね…」
平民は魔法適正がないものが大半だ。
この場にいる三人は魔法が使えない。
基本的に魔法は幼い頃に目覚める者が多い。
稀に大人になって魔法が扱えるようになる者も現れるらしいけど。
「もし、魔法が使えたらルリ姉は何したい?」
マーベルが好奇心を含んだ眼差しで尋ねてくる。
網の上に野菜を置きながら少し考えてみた。
魔法が使えたら、そうだなぁ。
何をしたいのかな。
あまり意識したことが無かったから、直ぐに答えは出ないだろう。
そう思っていたが、勝手に口は動いていた。
「冒険者かな…」
「ルリ姉は魔法が使えたら冒険者になりたいんだな!かっけえな!」
羨ましいそうでどこか憧れを含めた声色だった。
魔法が使えたら、もっと冒険者の道は切り開けるんだろうなぁ…。
「逆にマーベルは魔法使えたら、どーするの?」
うーんと唸りながら、マーベルは必死に考え込む。
「…なんだろな…。あんま思い浮かばねぇ…」
「マーベル。肉焦げちゃうから、トング貸して!」
私は一口サイズに切られた鹿肉をひっくり返した。
空いているスペースに肉をさらに投入していく。
今日はお肉がいつもより豪勢な気がする。
牛肉はないけれど、豚肉も鶏肉もあるし…。
久しぶりのバーベキューだから奮発してくれたのかな。
「パッと思い浮かばないけど、オレも冒険者になるかなぁ…」
マーベルは少し照れくさそうに頬をかいて、網の上に視線を落とす。
「そっか。いいと思う!」
私は焼けた肉を村長の器に入れて、マーベルの器にもお肉を乗せていく。
「いっただきまぁーす!」
「いただくとするかのぅ」
サラダを三人分取り分けた後、私も焼けた肉を受け皿に置いて食べ始める。
用意されていた肉は想像以上に量があった。
残ったら明日食べても良かったのだが、気付けば完食していた。
「ふぅ。食った、食った…」
「うん。おなかいっぱいだね」
小柄なマーベルのお腹は、妊婦のようにパンパンに膨れていた。
「当分、ここから動けねえ!」
満足そうにお腹を擦りながら石の上に寝転がるマーベルを見たあと、私は村長に話し掛ける。
「今日はいつもより沢山お肉あったね」
「そうじゃのう…。ワシも満腹じゃ。そういえばこの後、花火もするんじゃったかな?」
「そうだね。あー、家から花火取ってくるね!」
ふぅ…。
私も今日はちょっと食べすぎちゃったな。
手を両膝に置いてから、よいっしょと掛け声をして重くなった身体を立ち上がらせる。
「ライト借りて…やっぱり、いいかな」
明かりを手に持たなくても、月の光が畑道を照らしてくれるだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
私は木の桶に水を入れる。
村長がトイレから戻ってきたら始めよう。
花火の準備が整って少しすると村長が戻ってきた。
「ふぅ。スッキリしたのう…」
「おかえり!じゃ、そろそろ花火しよっか!」
「おっけー!やろうぜ!」
寝そべっていたマーベルはいつの間にか復活していた。
それどころか、関節ごとに花火を挟んでおり待ち構えていたのだ。
…。
そんなやり方で遊ぶとあっという間に終わっちゃうでしょ…。
夜空は雲が出始めたのか、たまに畑一帯が真っ暗になる。
私から花火をつけて村長とマーベルに火を移す。
火傷の恐れもあるから、当然マーベルには普通に持たせた。
ぱちぱち。
パチパチ。
「花火、綺麗だね」
「だなっ!」
赤い火花が暗闇を照らす。
反対の手にある花火に近づけると、赤と青の火花が交差する。
ぱちぱちぱち。
パチパチパチ。
こうやって三人で花火するのも今日で終わりかな。
最期にはならないかもしれないが、当分は一緒にこういうことは出来ないだろうな。
私自身が決めた事だけど、ちょっぴり心寂しい気持ちはある。
「あっ…」
手元にあった予備の花火に火を移そうするが、先に消えてしまった。
マーベルから火を貰おうかな…。
火を貰おうとマーベルに視線を向けると、指の関節に花火を携えて舞を披露していた。
色とりどりの火花が可憐に散り、闇夜を美しく照らしていた。
あれじゃ、私が火傷してしまう…。
諦めて村長から火を貰おうと決める。
「ルリこっちに来るんじゃ」
心の声が届いたのか、村長が助け舟を出してくれた。
振り向くと村長は線香花火と真剣に睨めっこしている。
その火力じゃ厳しいよ…。
私は笹舟に乗ったような気分になり、結局マッチを使って再び花火を再開するのであった。
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