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14話 違和感


 《ゾイside》


「ギイルの兄貴、あっさり撤退して良かったんすか?」


「ああ、問題ないよ」


「あのルリって女、大怪我を負わせてしまえば答えはすんなり出たと思うすけどねえ。ぺっ」


「ゾイ、あのお方が仰っていたことをもう忘れたのか?まだ、時間の猶予はあるだろう。焦る必要はない」


「村人の小娘一人攫っても、誰も気にするやつはいねぇすよ」


 俺は苛立ちを抑えながら、自慢の盛り上がった上腕を触る。


 「下手に我々の正体がバレる方が、これからの計画に支障をきたすだろう?とりあえずこの場から離れるぞ」


「ちぃっ、わかったよ」


 あまり納得してないが、あのお方の指示であるのも事実だから渋々了承したふりをする。


 ギイルの兄貴がいない時に試すとするか…

 あのお方の言う事が本当ならば、俺様が手を出しても問題ないからな。


 屋敷に侵入した二人は、あっという間に夜の闇に紛れたのであった。



  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 意識を取り戻すと私はベットに寝かされていた。

 階段から転げ落ちた後、あいつらはどうなったんだろう…。


 気絶した後の詳細はわからないけれど、私の右手首には包帯が巻かれていた。

 誰かが手当てをしてくれたようだ。


 右手を少し動かすとズキンと痛みが走った。

 改めて自分の容体を確認すると、右手首の他に左足も軽く痛めたようだ。


 縄や手錠で拘束されていないし、傷の手当てがされているから捕虜ではなさそう。

 つまり、ここはアレク様の屋敷なのかな。


 気のせいかもしれないけれど、シトラスミントのような清涼感のある香りもする。


 私は左手を支えにして、ベットから起き上がる。


 侍女の後ろ姿が目に入った。

 おしぼりをギュッと絞り終えて、彼女がタイミング良くこちらに振り向く。


「…目が覚めたのか。良かったな…」


 モローネが少しぎこちない態度で私に語りかけてくる。


「うん。助けてくれてありがとう」


「私は何もしてない!お礼はマリアさんに伝えろよな!」


 バツが悪そうに大声で否定すると、そっぽを向く。


 あの時助けを呼んでくれていなかったら、私はここにいなかったかもしれない。


「うん…そうだね」


 そんなことないよって言いたかったが、気まずそうな雰囲気を出すモローネを見て、軽く返事をした。


 砕けた口調のままだったけれど、私は苦笑して再びベッドに寝転んだ。




 次に目が覚めると、モローネの姿は見当たらなかった。

 体の痛みは多少残っているけれど、思いの外、身体の調子は悪くない。


 起き上がった私は辺りを観察する。

 ベッドの横にはキャスターが付いている小さなテーブルがあり、水が注がれたグラスが置いてある。

 光り輝く銀のお皿に、瑞々しい大きな苺も添えられて。


 室内は絵画や置き物も一切なく、窓側にテーブルと椅子があるだけの簡素な部屋だ。

 イチゴを完食した私は窓際に移り、外を眺める。


 空一帯に雲が広がっているのか、星が全く見えなかった。


 見下ろすと昼前に訪れた庭園が一望できた。

 昼間と違いライトアップされており、華やかな景観がより映えていた。


 コンコン。


 後方からノックが聞こえたので、お入り下さいと言って扉の方に振り向く。


「失礼します。お身体の方はもう大丈夫なのですか?」


 心配そうな表情を浮かべるマリアさんが、私に尋ねてきた。


「ちょっと痛いところもありますが、思ったより平気なようです」


「あまり無理はなさらないで下さいね。それと、このような危険な目に遭わせてしまい申し訳御座いませんでした」


「私は大丈夫だったのでお顔を上げて下さい」


 と言って、ふと気になったことを訊いてみた。


「…倒れた後なんですけど、侵入者たちはどうなりましたか?」


「結局、敵は取り逃してしまいました。相手の目的も正体も全くわからないので、何か手掛かりになりそうなものを探している所です」


「そうだったんですね…。手掛かりになるか分かりませんが、襲われた時のことなら少しだけお話しできると思います」


「ありがとうございます。であればアレク様も交えた方が良いと思いますので、このまま部屋でお待ち頂けますか?」


「分かりました!」


 マリアさんは軽く私にお辞儀をして、アレク様に呼びに行ったのであった。



  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 アレク様は入室するや否や、それは申し訳なさそうに深く謝罪をしてくれた。


 私自身、この騒動が交通事故に巻き込まれてしまった感覚が強かった。

 貴族の屋敷に足を踏み入れた時点で、ある程度怪我をする可能性も考慮していたから、そこまで気にしてはいない。


 受けた被害も軽い打ち身くらいで、傷跡が残るような外傷はない。

 毒も殆ど解毒されている。


 これ以上、アレク様たちに心配を掛けないように努めよう。


「ルリはそのままベッドに腰掛けて貰って大丈夫だから、安静にして欲しいかな」


「いえ、だいぶ体は良くなったので全然大丈夫です!」


 アレク様は心配そうな面持ちで、気に掛けてくれる。


「僕のベッドだから、あれなのか…」


 ボソッと何か呟いたアレク様だか、私は聞こえなかったので訊き返す。


 「何でもないよ」


 かぶりを振ったアレク様は話を続ける。


「辛くないなら別に立ったままで構わないけど、もし体調が悪いなと思ったら遠慮なく教えてね」


「はい」


「本題なんだけど、襲われた時のことを具体的に話して貰えるかな」


 アレク様はこちらに真摯な眼差しを向けて尋ねてきた。


「分かりました!」


 部屋に入室したら昼間貰った花瓶が割れていて、それからすぐに窓ガラスが割れて二人組の襲撃者が侵入してきたこと。

 声を聞いた感じどちらも男の可能性が高く、アレク様を探してると口にしていたこと。

 そして、私が部屋に残って襲撃者を引きつけていたところまで話す。


「そのあたりまでの内容はモローネとほとんど一緒だね」


「はい。ただ私がその場に残った後、華奢な男の態度が少し気になりました」


「何かあったのかい?」


「具体的に何かされた訳じゃないですけど、向こうは私を捕虜にしたかったか、若しくは私の素性を知りたかったのかもしれません」


 私は感じたことをそのままアレク様に報告した。


「どうしてだい?」


 思い返してみるとやはり、華奢な男の態度に違和感を覚える。


「よくよく考えてみると、私を殺す時間は割とあったはずなんですよね…。だけど、華奢な男は会話ばかりして、相方はその様子を見て痺れを切らしていました。彼はすぐに襲ってくるような気配もなかったですし、結果的に私が逃げたことで怪我を負う羽目にはなりましたが…」


「言われてみたら、少し不自然かもしれませんね」

 

 マリアさんも頷きながら同感してくれる。


「あっさり撤退したことも少し気になります。私は助かったので良かったのですが…」


「階段に薔薇が落ちていたんですけど、何か心当たりはありませんか?」


 マリアさんが思い出したかのように口を挟む。


 薔薇が現場に落ちていたんだ。


 まさかね…。

 残念イケメンが脳裏を過ぎったけれど、流石にそれは安直すぎるか…。


「特にはありません…」


「引き続き捜査をしてなにか進展があればルリさんにもご報告しますね」


「よろしくお願いします」


「話題がちょっと変わるけどいいかな?ルリに提案があるんだ…。嫌なら断ってもらって構わないからね」


 アレク様が頬をかきながら、遠慮気味に訪ねてきた。


「はい。何でしょうか?」

 


「良かったらこの街にある魔法学園に、編入生として入ってみないかい?」


「魔法学園に編入ですか…?」


「うん。今回の騒動でルリも標的になった可能性もあるしならどうかな?学園の寮はここよりも警備は厳重だし、色々なことが学べると思うからさ」


 元々、来年にはギルド登録して冒険者になるつもりだった。

 だけど、色んな知識や経験が積める学舎に行けるのは嬉しいお話だよね…。


 学園には行ってみたい。

 だけど、私お金持ってないんだよなぁ…。



「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるのっ……!」


と思ったら


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