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11話 花瓶


 庭園には迷うことなく辿り着けた。


 貴族の方達が数人、花壇を鑑賞している。

 参加者のほとんどは会場に赴いているのだろう。


 前回は騎士から監視されていた為、庭園をあまり眺められなかった。

 今日は一時間くらいあるからゆっくり鑑賞できそうだ。


 花壇に咲く花々はとても綺麗で、この暑い日差しにも負けず(たくま)しく生えている。

 色鮮やかな花が満遍なく咲き誇っている様は、夢の楽園に誘われた錯覚に陥りそうだ。

 真ん中には小さな噴水があり、涼しげな印象を与えている。


 庭園をぐるっと見て回ると端に木製のベンチが二基備え付けられていた。

 どちらも今は空席のようだった。

 ちょうど木陰ができており、ベンチに腰を下ろす。

 

 体調は悪化してないが、良くもなってもいない。

 調子に乗って朝にイチゴジュースを飲んだせいかな…。

 けれど、他の人が毒の入ったドリンクを飲むのはダメだ。

 とはいえ、大好きなイチゴジュースも捨てることも勿体無いから飲み干した。


 この後はずっと会場で立ちっぱなしだから、少し身体を休めておこう。


 別邸からここまで移動している間に貴族に絡まれることは無かった。

 難癖をつけてくる貴族もいるのかなと警戒していたけれど、杞憂に終わりそうだ。


 マリアさんがくれたドレスのお陰かな?

 それにモローネが綺麗に髪を仕立てて貰ったから、わりと様になっているのかもしれない。


 風が吹き、ヒラヒラと落ち葉が膝元に落ちる。

 手に取った葉の先端は帯状に尖っており、表面は緑色で裏側は白い。

 ウラジロガシの木が庭園にあるんだ。


 葉の裏側が白いことがこの木の由来らしい。

 この葉は漢方に使えるから少しだけ拝借したいなぁ。


 まあ、今はドレス姿だし、この葉を入れる袋もないから今回は諦めよう…。


 ベンチに座ってのんびりしていると、金髪の長身痩躯で、白いスーツを着た男性が駆け寄って来た。


 緑の碧眼をしており、精悍な顔つきである。

 外見も含めて、貴族の中でも爵位の高そうな雰囲気だ。


「ちょっとよろしいかな。そこの綺麗なお方?」


 口元は見なかったことにしよう……。


「……はい。なんでしょうか?」


 ベンチの周辺には人が居ないため、呼ばれたのは私だろう。

 私が綺麗かどうかはさておき。


「もし良かったら名前を教えてくれないだろか?」


 悪い人には見えないけれど、なんだか怪しげなオーラを感じる。


 正直に名乗るべきか……。

 私は逡巡して(あご)に手を置いた。


 そうすると、彼が悔しそうな表情を浮かべて言葉を発した。


「ああ、非常に残念だよ。ここを離れないといけないようだ。また近いうちに会えたらいいね!」


 そう言い放った金髪イケメンは口に加えた薔薇を、私の座っているベンチにそっと置くと走り去っていった。


「いてて、口の中切れちゃったかなぁ…」


 なんて残念な台詞を零しながら。


 台風のような人だったなぁ。

 また会うことなんてないよ、たぶんね。


 これどうしようかな。

 ベンチに置かれた一輪の薔薇…。

 

 ベンチにそのまま座っていると、黒いスーツを着こなした老執事が花瓶を手に持ってこちらに駆け寄ってきた。


 まさかね…。


「このお方を見かけたりはしていませんでしょうか?」


 金色の大きな額縁に収められた一枚の写真を差し出される。

 

 ん?

 今どこから、そんな大きな額縁を取り出したのかな?

 上半身がすっぽり収まるくらい大きい…。

 まあ、そこはあまり気にしないでおこう。


 写真に写っているお顔でも拝見するか。

 

 あ…。

 さっきの金髪イケメンの人だ。


「あちらの方に走って行きましたよ!」


 恐らくだが、金髪イケメンの執事なんだろうな。

 お気の毒に…。

 一瞬の出来事だったけど、あの人に仕えるのは気苦労が絶えないだろうなぁ…。

 

「ありがとうございます。お礼によろしければお使いください」


 老執事は薔薇に目を配った後、手に持った立派な花瓶を私にくれる。

 水の入ったペットボトルも添えられて…。


 条件反射で両手で花瓶を受け取ってしまうと、颯爽と老執事は駆けていく。


 椅子に置かれたペットポトルは転がって、地面に落ちた…。



  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 薔薇を一本だけ刺している花瓶を、両手で抱えて会場に戻った。

 片手で運べない大きさの花瓶を持っているのは、だいぶシュールな光景に映るだろう。


 一輪のバラを貰うなら、せめて花束の方が綺麗に飾れるのにな…。

 物に罪はないから持ち運んでここまで来てしまったけど、心無しか周りの視線が痛い気がする。


 だけど、こんな立派なガラスの花瓶を捨てるのは勿体ない。

 水もしっかりくれたしね。

 それに別邸にも戻るにしても予定の11時を過ぎてしまうから、結局、庭園から直接ここまで来てしまった。


 メイド服姿で持ち歩いて入れば然程、周囲から注目を浴びなかったのかもしれないよね…。


 負けるな、私…。


 


 貴族たちは別の意味で花瓶に注目していたのだけれど、私は到底知る由もなかった。




 貴族の談笑が飛び交い賑やかな会場だったけれど、会場の照明が落とされた瞬間、静寂に包まれた。


 壇上に照明が当てられ、黒いスーツを着た厳格そうな老年の男性が現れる。

 白髪でオールバッグにしており、凛とした佇まいだ。

 一礼した後、壇上の真ん中に設置されていたマイクを手に取る。

 がっちりとセットされた白髪は揺れ動くことなく、威風堂々とした態度で口を開く。


「今日は息子の誕生日に足を運んでくれてありがとう。まだまだ若輩者ではあるが、これからのキーシャを支えてくれる頼もしい存在になるだろう。皆の者、これからも息子をよろしく頼む。一言、息子もこの場でお礼を述べたいらしい。私の挨拶はこれで終わらせて頂くとしよう」


 お辞儀をした老年の男性は、隣に現れたアレク様にマイクを渡す。


 アレク様も一礼して深く息を吸った後、気合いの入った声音で挨拶を始める。


「皆様、お忙しい中、私の生誕祭にご出席して頂き誠にありがとうございます。

これからも日々精進して参りますので、何卒よろしくお願い致します!

短いご挨拶になりますが、楽しいひとときを過ごしていただければと思います!」


 パチパチパチ。


 会場の照明が元に戻り、拍手が響き渡る。


 どこからか、ゆったりとしたピアノの演奏曲が流れる。

 そして、会場の出口扉から次々に料理が運び込まれてきた。

 色んな料理が並べられており、胃袋を刺激してくる。


 エビチリやチャーハン、ギョーザ、ローストビーフ。その他諸々…。

 フロア一体に香ばしい匂いが充満して、誘惑に駆られる。 


 めちゃ、美味しそう…。


 溢れ出た唾を飲み込んで、運ばれた料理を見つめる。


 本来このようなパーティーでは貴族達は、会話をして親睦を深めることが多い。

 食事は二の次なんだけれど、私はそもそも貴族ではないし交流を深めたいとあんまり思っていない。


 わざわざ悪目立ちする必要はないが、食欲に負けた私は、運ばれたご馳走を堪能することを決意する。


 手元の花瓶に悲しい視線を落とす。


 ただなぁ…。これが邪魔なんだよな。


 花瓶を置いてもあまり不自然じゃないところがないか、キョロキョロ見渡す。

 偶然居合わせましたみたいな表情を浮かべたモローネと視線が合う。


 モローネは人並みをかきわけて私の隣に来てくれた。


「ルリ様、如何なさいましたか?」


「実はこの花瓶をどうにかしたくてね…」


「でしたら、私がルリ様のお部屋に花瓶を置いてきますね」


 モローネは花瓶を見つめると不敵な笑みを浮かべた。

 なぜ笑ったか分からないけど、悩みを解消してくれたのでお礼を告げた。


「ありがとうございます!」


 これで念願の食事にありつける。

 冷めないうちにエビチリからでも…。


 あぁ、でもその前にトイレは済ませておこう。

 場所がわからないし、食べてる時に行きたくなったら悲しいからね。


「モローネさん、お手洗いに行っても構いませんか?」


「ご案内します。では、花瓶は今お預かりしますね」


「お願いします。重くはないんですけど、模様がない部分は滑りやすいので気をつけて下さいね」


「かしこまりました」



「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるのっ……!」


と思ったら


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