プロローグ
この国には、魔法がある。
正義がある。
秩序がある。
……そして、それらを全部“信じてる”バカが、思った以上に多い。
僕の名前は、サシャ・アルバ。
帝国ガイアの“辺境のうそつき”だ。
肩書きは、海賊の息子。身分は、最下層。魔法も、使えない。
でも──
僕は、“嘘”でこの世界をひっくり返す。
初めて帝都ロトに足を踏み入れたとき、
空はどこまでも青く、石畳は陽光にきらめいていた。
きっと、誰もが「ここが世界の中心だ」と信じて疑わない。
だが、その美しい都市の裏には、
腐りかけた制度と、見せかけの魔法と、欺瞞に満ちた貴族たちがいた。
初めて会った“彼女”──リナ・ローレンスは、
青き瞳の正義感に燃えた貴族令嬢だった。
「この国を守るために、私は戦います」なんて笑顔で言うもんだから、
つい、口が滑った。
「信じたの? ……それが、君の負けだよ」って。
──結果、初対面で氷魔法ぶっ放されました。
あと、もう一人。
金髪ショートのロリ巨乳が、
「推しの肘が今日も尊かったですぅ!」って言いながら
短弓で敵兵の眉間を正確に撃ち抜いてた。
彼女の名前は、メロウ・アリーナ。
正体は帝国諜報員。推し活しながら、戦場を駆ける狂気のオタク。
そんな彼女と、キレ芸正義お嬢様と、僕。
三人で金塊を探せって、皇帝が言うんだからもうどうかしてる。
けれど、命令は命令。
任務はシンプル。
“エルドラド”と呼ばれる伝説の黄金の地に、金塊が眠っている。
その力を奪った者が、世界を支配する──そんな噂すら流れるほどに。
でも、気づいてしまった。
この金塊はただの財宝じゃない。
「願いを叶える」だの、「世界を壊す」だの。
そもそも、誰がそれを信じたのか。
そう。
世界は、“信じた者から負けていく”。
だから僕は、今日も嘘を吐く。
正義を掲げる彼女にも。
尊さで目が潤む彼女にも。
そして、僕自身にさえも──。
──“君が信じたのなら、それでいい”。
これは、そんな“嘘の英雄”が、
世界を救うかもしれないし、滅ぼすかもしれない物語。