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冬の日の帰り道  作者: 土間 顕
2/2

【読まなくていい番外編】ある少年と戦後開拓

 評価等ありがとうございます! m(_ _)m


 今回は番外編(本編主人公の父親視点)です



 ◇


 人口4万弱の地方都市、その郊外の山の中。

 県道とは名ばかりの山道の(わき)に、1軒の廃屋(はいおく)がある。その横の細道は、山の中へ続く。


 あの道の奥に、私の育った家がある――――



 ◆


 今から30年ほど前。まだ(おさな)()だった私は、あそこに越してきた……らしい。

 それまでどこにいたのかは、覚えていない。


 当時は終戦直後の混乱期。ただでさえ食べ物が足りないところに、海外から大勢の人が帰ってくる。

 ……ということで、食糧(しょくりょう)(なん)の解消と雇用(こよう)創出(そうしゅつ)が急がれたそうだ。


 そうして、国主導で全国的に行われた「戦後(せんご)開拓(かいたく)()(ぎょう)」が始まる。


「ただな、大正(たいしょう)(しょう)()にもなって“()ったらかしの土地”だ。そもそも農業に向いてねぇのさ。それを無理矢理『農地にしよう!』ってんだからな……」


 そうと知らずに飛びついた(おれ)ァ、バカだった。

 ……のちに、私は父からそう聞いた。



 実際、「戦後開拓事業」に選ばれやすかったのは、井戸や湧き水すらない土地だったという。

 農業には大量の水が()る。なのに、自分たちの飲み水すらないのだ。



 そしてそれは、あの廃村(はいそん)とて同じであった。

 毎朝、(ふもと)の川へ水()みに行く。村の女・子ども総出で、往復1時間かけて。

 近道したくても、できない所だった。鹿(シシ)すら通らない急斜面を、両手の(ふさ)がった人間が上り下りするなんて無理だ。



 もちろん、それでも努力と工夫を重ねて、“開拓の成功”まで持っていった所のほうが多い。

 だが同時に、


「これではやっていけない」


 そう言って開拓をやめ、出ていく人は多かった。

 そして誰もいなくなった――――所の1つが、あの廃屋の辺りなのだ。



 ◇


 寒い朝のことだった。

 その日も、いつものように水汲みに出た。


「それでさぁ、帰ってったら()ぉなっとんねん、建物(たてもん)が。(ウチ)もお隣さんもお向かいさんも、もう全部(でぇーんぶ)焼けてもてな。一面真っ黒やったわ!」


 上級生の「(けん)ちゃん」がやたら元気だったのを、よく覚えている。彼は空襲(くうしゅう)で焼け出されて、関西から疎開(そかい)してきたらしい。


「それで?」

晩飯(ばんめし)まだやったからさ、とりあえず“(なん)ど食う(もん)あれへんかー?”て、焼け(あと)(あさ)りよってん。まーアカンかったけんどな」


 言い終わった彼が、なぜかニヤリと笑う。


「……て、思うやん? 台所らへんで、お母ちゃんが鍋の(ふた)取って『あ!』()ってん。何や? 思て見たら、白飯(しろめし)や」


 賢ちゃん、ちょっと早口になってきた。


「しかもいっつもよりツヤツヤで、(うま)そうに()けとぉ。なんやもう(うれ)しいやら腹立(はらだ)たしいやら、よぉ分からん気分やったわ」


 ちょっと想像してみた。

 何もかもが黒く焼け落ちた中で、ほわほわと湯気が立つ白ご飯。絵面(えづら)が強すぎる。


「で、どうもご近所さん(みーんな)(おんな)し気持ちやったみたいでさ。兄貴が()うてん、『さすが米国(べいこく)飯炊き(・・・)だけは一丁前(いっちょまえ)やの!』て。ほなもう(みーんな)、手ぇ(たた)いて大笑いや。『街ごと()くアホおるかぁ!?』てな」

「へぇー……」


 中身がエグくて笑えなかったが、面白い話だった。

 というか、戦時中の体験談で、賢ちゃんのこれより面白い話は聞いたことがない。



 だがこの時、大人たちの反応は違った。

 よく考えたら、いつもは途中で怒られる。最後まで聞けたのは初めてだ。


 そう気がついて、2人で周りを見る。いつの間にか、開拓地の入口まで来ていた。前田(まえだ)さん()――あの一軒家――のあたりだ。

 そして何やら、大人たちはざわついていた。


越安(こやす)さん! 越安さんちょっと !! 」

「ほ? どげした……?」


 名前を呼ばれたお(ばあ)さんが、(つえ)をつきながら列の先頭へ。前の人たちとちょっと(しゃべ)ってから、一軒家に入っていく。


……と思ったら、顔だけ表に出して一言。


「お()()っ行げ! 赤子が待ってっぞ」

「「「『はいッ !! 』」」」


 越安さんは産婆(さんば)さんだ。彼女が急に呼び出されるってことは……そろそろ赤ちゃんが生まれるんだろうか?


 村人が増えるのはいいことだ、たぶん。頑張って水汲んでこなきゃ、ね。

……私たちはそう思いながら、(てい)字路(じろ)を右に曲がった。

 いつも通り左手の、鹿一匹通れない急斜面を見下ろしながら。



 ◆


 一時間かけて、水を汲んで戻ってきた。

 寒い。重い。


 丁字路が見えてきたけど、なんだか様子がおかしい。

 泣き声が聞こえる。低い泣き声が。

 赤ちゃんじゃなくて、女の人のそれだ。


 近づいて分かった。前田の奥さんの声だ。

 そして、列の先頭が丁字路に差し掛かったところへ、前田さん家から人が出てきた。


 ゆっくり歩いてきたのは、越安さんだ。



「もしかして……」


 先頭のおばさんに聞かれて、越安さんは首を横に振った。


「そうですか……ご愁傷(しゅうしょう)さまです」


 何となくみんな、前田さん家に手を合わせながら、その前を通った。



 ◇


 それからひと月も()たないうちに、前田さんは引っ越していった。

 奥さんの体調がすぐれないので、療養するんだそうだ。


 さらに半年の間に、賢ちゃん一家も()()も村を去った。

 それ以来、村の人たちには会っていない。連絡先も分からない。



 皆さん、元気にしているだろうか? そうだといいな――――



 お読みいただき、ありがとうございます m(_ _)m



 昔から、


「戦争体験に比べて、終戦後の体験談って聞いたことないなぁ……」


という点が気になっていました。



 親方も変わったことですし、そういう話が増えればいいなぁ……と思います。



【追記】

・内容を変更しました

(2025/10/26)



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