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浮遊都市アエリス

雲海を突き抜ける陽光が、水晶の塔を虹色に輝かせる。アエリス、浮遊都市。その名の通り、魔法の結晶で浮力を保つ複数の浮島からなる都市は、まるで天空に浮かぶ宝石のようだ。ルシアンは、空飛ぶ船の甲板に立ち、灰色のマントを風になびかせながら、眼下の雲海を見つめる。隣には、エリナが、金髪のポニーテールを揺らし、目をキラキラさせて叫ぶ。


「うわっ、師匠! 空に浮いてる街ってめっちゃやばい! 飛んでみようよ!」


「騒ぐな。落ちたら終わりだぞ」


ルシアンは冷静に返すが、彼女の無邪気な興奮にわずかに口元が緩む。手に握る「星屑の羅針盤」は、アエリスの中心――「重力の核」と呼ばれる動力源を指していた。サハラドで「太陽のオーブ」を手に入れた後、羅針盤は新たな力を得ており、この核が次の鍵だと暗示している。ルシアンはその目的を測りかねつつも、過去の師匠クロノスの魂が宿る羅針盤に導かれ、旅を続けていた。


アエリスは、重力魔法を操る貴族階級が支配する都市国家だ。浮島を繋ぐ空中橋や飛行船が行き交い、水晶宮殿が都市の中心にそびえる。貴族たちは華やかな舞踏会や空中競技を楽しみ、庶民は浮島の縁で労働に従事する厳格な階級社会だ。重力魔法は、物体や人の重力を操り、飛行や空間の歪みを生み出す力で、熟練者は攻撃を無効化するほどの技を持つ。都市の空気は、輝く結晶と雲の清涼感に満ちつつも、どこか冷たく、陰謀の匂いが漂う。


船が浮島の港に着くと、ルシアンとエリナは石畳の道を進む。エリナは


「師匠、この街、キラキラすぎ! でもなんか、ピリピリしてるね」


と呟く。ルシアンは


「貴族の街だ。裏があると思え」


と警告し、羅針盤を握りしめる。


×


港から水晶宮殿へ向かう空中橋を渡る途中、ルシアンとエリナは青いローブをまとった貴族の使者に迎えられる。


「ルシアン様、エリナ様。評議会のリーダー、レイナス卿がお待ちです」


と使者は丁寧に告げる。ルシアンの表情が一瞬曇る。


「レイナス……」


彼は過去の記憶を呼び起こし、警戒心を強める。


水晶宮殿の大広間は、ガラスと結晶でできた天井から光が差し込み、まるで星空のようだ。レイナス卿は、50代の威厳ある男で、銀の髪と鋭い目つきが印象的だ。


「時間魔法の使い手、ルシアン。ようこそアエリスへ」


彼は微笑むが、その目は冷たい。


「重力の核に興味があると聞いた。協力すれば、力を貸そう」


ルシアンは慎重に言葉を選ぶ。


「羅針盤が指した先に核がある。それが目的だ。だが、君の意図は?」


レイナスの笑みが深まる。


「核はアエリスの心臓だ。だが、それを兵器に変えれば、この世界を支配できる」


エリナが口を挟む。


「え、兵器!? そんなのダメじゃん! 師匠、ヤバい匂いがするよ!」


ルシアンは彼女を制し、


「レイナス、核を渡せ。さもなくば、力ずくでも奪う」


と静かに脅す。レイナスは笑い、


「試してみるがいい」


と答える。


その夜、ルシアンは宿の部屋でエリナに語る。


「レイナスは私の過去を知る男だ。かつての弟子、カイルが……彼の実験で死んだ」


ルシアンの声は重く、エリナは初めて彼の心の傷を感じる。


「師匠……そのカイルって、どんな人だったの?」


エリナの純粋な問いに、ルシアンは目を伏せる。


「私の指導不足で、彼は命を落とした。もう二度と、弟子を失いたくない」


エリナは静かにルシアンの手を握る。


「師匠のせいじゃないよ。過去は重いけど、私がいるから、前に進もう?」


その言葉に、ルシアンの心に小さな光が灯る。


×


翌日、ルシアンとエリナは重力の核が隠された浮島へ向かう。空中橋を渡る途中、レイナスの刺客――重力魔法を操る「天空の騎士団」が襲撃する。騎士たちは重力を歪め、空中で自由に動き、剣や槍を浮かせて攻撃。ルシアンは


「クロノス・スロウ!」


と唱え、時間魔法で騎士の動きを遅らせる。エリナは


「フローラ・ウィンド!」


と叫び、雲と風を操る植物を召喚し、空中に足場を作る。


「師匠、めっちゃカッコいい! 私も負けないよ!」


エリナは蔓を操り、騎士の一人を絡め取る。ルシアンは


「集中しろ、隙だらけだぞ」


と返すが、彼女の機転に内心感心する。空中戦は激しさを増し、騎士団の重力魔法が橋を揺らし、エリナが一瞬バランスを崩す。


「うわっ!」


彼女が叫ぶと、ルシアンが時間魔法で彼女を落下から救う。


「無茶するな」


と彼は叱るが、エリナは


「師匠、ナイス!」


と笑顔。


騎士団を退けるが、レイナスが次の手を打つ。重力の核を暴走させ、浮島全体が崩壊の危機に。雲海が渦を巻き、都市の住民たちがパニックに陥る。ルシアンとエリナは急いで水晶宮殿へ向かう。


×


宮殿の奥、巨大な水晶室に「重力の核」が浮かんでいる。紫と青の光を放つ球体で、空間そのものを歪める力を持つ。レイナスは核の前に立ち、


「ルシアン、過去を忘れられない男が世界を変えられるか?」


と嘲笑。彼は重力魔法で空間を歪め、ルシアンを幻影の次元に閉じ込める。


幻影の中で、ルシアンはカイルの死を繰り返し見せられる。実験中の爆発、カイルの叫び声、ルシアンの無力感。


「お前が守れなかった!」


幻影の声が響き、ルシアンは膝をつく。だが、エリナの声が次元を貫く。


「師匠! 私、絶対諦めないよ! 戻ってきて!」


彼女は自然魔法で光る花を咲かせ、次元の裂け目を作る。


ルシアンはエリナの光を見て立ち上がる。


「エリナ……君は私の時間を変えた」


彼は時間魔法で幻影を破り、エリナと再会。二人でレイナスに立ち向かう。レイナスは核の力で空間をさらに歪め、巨大な重力の渦を召喚。ルシアンは


「クロノス・スタシス!」


で渦を遅らせ、エリナは


「フローラ・ハーモニー!」


で植物の力を結集し、核を安定させる。二人の魔法が融合し、レイナスを圧倒。核は浄化され、都市の崩壊が止まる。


×


戦いの後、レイナスは評議会に拘束され、アエリスは新たな指導者の下で再建を始める。ルシアンは「重力の核」を羅針盤に接続し、空間移動の能力を得る。エリナは


「師匠、過去を乗り越えたね! 私、めっちゃ誇らしいよ!」


と笑顔。ルシアンは


「君がいなければ、過去に囚われたままだった」


と感謝し、初めて彼女を対等なパートナーとして認める。


夜、浮島の縁で星空を見ながら、エリナが問う。


「師匠、次はどこ行く?」


ルシアンは羅針盤を見つめ、


「クリスタルヘイムだ。準備しろ」


と答える。エリナの笑顔に、ルシアンは未来への希望を感じていた。

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