Act1
注意書き
・リアリティを求めたため、残酷描写多数です。見てしまった後での責任は取りかねますので、ご注意下さい。
もしも 俺が戦場で死んだら
故郷のみんなに伝えてほしい
俺はベストを尽くしたと
もしも 俺が戦場で死んだら
可愛いあの子に伝えてほしい
楽しい思い出 抱いて逝くと
もしも 俺が戦場で死んだら
親しい友に伝えてほしい
銃に向かって俺は死んだと
もしも 俺が戦場で死んだら
俺の墓に名前はいらない
ただ一人の男が生き 闘い 死んでいったと
刻んでほしいだけさ
――――傭兵の歌……If I die in a combat zone
……20XX年 広島県・呉……
「いよいよ、開戦か……」
野戦服を来た自衛隊員が、海を眺めながら呟く。
曇り空の下には多数の艦船が並び、報道のヘリコプターが宙を飛び交っている。
まだ若いその隊員は、緊張した面持ちで虚空を見つめていた。
「東堂」
名を呼ばれ、ハッと背後を振り向く。
自衛隊の制服を着た、凛とした風貌の女性が、そこに立っていた。
「ああ、小野三尉」
「緊張してる?」
朗らかな声で、小野と呼ばれた女性は尋ねる。
陸上自衛隊隊員・東堂英治陸士長は頭を掻いた。
「ええ」
「それはそうよね。ついに北朝鮮へ出征するんだから」
小野は停泊している輸送艦『おおすみ』を眺めた。
かつて空母と間違われた全通甲板を持つ輸送艦へ、自衛隊員たちが乗り込んでいく。
「この戦いを機に、日本は生まれ変わるのよ。国連軍の一員として北朝鮮を倒す……平和ボケから脱却して、強い日本へ……」
「……」
東堂は一瞬浮かない顔をしたが、すぐにそれを消す。
「高校の頃から、小野三尉は……」
「先輩、でもいいわよ?」
小野は微笑を浮かべる。
「……先輩は昔から、日本の未来を心配していましたね」
「まあね。私の父は自衛官なのに、国のことなんて考えないような人だったから……」
露骨に嫌悪の表情をする小野に、東堂は苦笑した。
「そこは、人それぞれですよ」
東堂は知っていた。
小野の右翼的ともいえる思想は、父親への反発から来ているのだということを。
高校で知り合ったときから、何かと政治・国防の問題を熱心に学んでおり、自衛隊の在り方や憲法第九条への不満を時々口にしていた。
一般の若者達はそういったものに対する興味が薄いため、彼女を慕っていた東堂以外に、彼女の言葉に耳を貸す者はいなかった。
だが東堂は、田舎を出て都会の高校へ入り、右も左も分からないでいた自分に優しく接してくれた小野に、思いを寄せていたのだ。
自衛隊に入った今でも、それは変わっていない。
「とにかく、東堂」
東堂の肩に、小野の手が置かれた。
ぴしりと体を硬直させる。
「必ず、帰ってきてよね」
「……はい、勿論です!」
東堂が非の打ち所のない敬礼をし、小野も敬礼を返した。
彼女のためにも、絶対に生きて帰る……東堂の瞳は信念に燃えていた。
……………
……
…
「おい、東堂」
荒れ地を進むトラックの上で、東堂は顔を上げる。
89式小銃を持った同僚が、心配そうに見つめていた。
「どうした、ぼーっとして」
「ああ……ちょっと、日本を思い出して」
苦笑を浮かべ、東堂は答える。
「しっかりしろよ、ここは敵地だぜ?」
「ああ、そうだな」
不整地を走るトラックは、時折大きく揺れる。
東堂は89式小銃を握りしめ、これからの戦いに思いを馳せていた。
他の仲間達も、緊張からか静まりかえっている。
アメリカを始めとする国連軍の後ろ盾があれば、北朝鮮を打倒することは容易いだろう。
だがそれは政治家の机の上でのことであり、全戦で戦う自分たち兵士にとって、事はそう簡単ではない。
今ここにいる仲間の内、何人かは日本に帰れないかも知れない。
勿論、自分も……
ふと、東堂はトラックの進行方向に、一人の子供を見つけた。
地元民だろうか。10歳過ぎと思われるその子供は、何かを抱きかかえてトラックへと駆けてくる。
……まさか!……
子供が抱えている重そうな物体の正体に気づき、東堂は大声で叫んだ。
「対戦車地雷……!」
刹那。
轟音と爆炎が、周囲を包んだ。