第7話「飼い主」
エリオットたちは昼くらいにようやく出発することになった。二日酔いになっている2人を馬車の中で休ませて馬を引くリリアナは呆れながらエリオットに言った。
「私大人になったらこんな姿だけは見せたくないなー」
「あはは、酒は飲んでも飲まれるなっていうからね。昨日はほんとに騒がしかったから反動がすごいよね。」
2人は今も二日酔いによる頭痛などに襲われて動けない。定期的に水を飲ませているが回復までには時間がかかるだろう。
夕方まで歩いたところで野営をすることにした。馬車を使って移動しているからこのペースだと明日にはその洞窟にたどり着く。そして2人は日も暮れるくらいのころにやっと回復した。
「いやーごめんね足引っ張っちゃって。
2人は休んでて、マイクとご飯作るから。」
ベラはマイクと一緒に今日の夕ご飯を作ってくれると言う。やはり勇者は戦う以外にも様々なことができるらしい。肉の香ばしい香りとスパイスの刺激臭、そして魚が焼ける音と匂いにすでにリリアナはお腹を鳴らしながら待っていた。
「そういえばエリオットは何か魔法覚えたの?この間買った本の。」
「うん、2つ覚えたよ。実戦で使う時が来たら見せるよ。」
エリオットは短期間の中で少しずつ本を読んで補助や回復の魔法を覚えていた。少しでもみんなの役に立ちたいと思うエリオットの気持ちがより覚えを早めていた。
「補助や回復魔法か。そしたらエリオットは神官タイプって感じだね!
リリアナは攻撃や妨害魔法を扱う魔法使いタイプ、マイクは武器を中心に使う戦士タイプ。
本格的にパーティーって感じの構成だね。」
「確かに言われてみればバランスはいいよな。ベラは攻守両用で動けるし、あとは戦術を磨けばこの依頼はもちろんいろんなところで活躍できそうだ。」
料理を作りながら自分たちのパーティーについて打ち合わせをする2人。前衛が2人、中衛のリリアナ、そして後衛のエリオットとバランスが取れている。モンスターと戦う際の基本はできている。あとはそれぞれ戦術を考えどなようにして敵と対するかを考えていく。
「戦術は戦ってる間に何か思いつくかもしれないね、さてとできた!」
そんな話をしている間に料理が完成した。肉と魚をふんだんに使った女性陣の好物がたっぷり使われた料理だ。
「今日も美味しそー!」
「ささ、冷めないうちに食べようぜ。」
こうして今日も楽しく過ごし、明日の突入に備えることになった。
ーーーーーー
次の日のお昼、ついに洞窟の前までたどり着いた。周りには露出している鉄鉱石や結露が長い時間で結晶化した石などが散らばっている。この間まではそれらを狙って冒険者が度々訪れていたが現在はあの虚構種の住処にされてからは誰1人近づいてはいない。
中はとても暗く、20m先すらも確認できない状態になっている。足場が悪く崖が多いため滑って落ちたらまず助からない。
「エリオット気をつけてね。今火を灯すけど足元はしっかり見てね。」
「大丈夫だよ、しっかりと確認しながら歩くから。」
エリオットは注意しながら歩いていく。洞窟の中に他のモンスターが住んでいる気配はない。おそらくあの虚構種が暴れ回って食べたり撃退してしまった影響だろう。そのおかげで足跡などはしっかりと残してあるため、どこに拠点を置いているかはわかる。
「しっかし中はジメジメと湿気が多いな、汗が止まらねぇよ。」
「だよね、こんな場所に住んでるなんて虚構種はやっぱり変だよ。」
普通生物が住み着くにはある程度の気温や湿度など様々な要因が絡み合う。例えば暑い地方ではラクダだったり寒い地方ではオオカミなどが体温などを調節できるように進化していった。
だが虚構種は何者かが人為的に作ったのか、その場所に適した調節を自ら行うことができる。ヒョウやカメレオンなどができる能力を持っている。何かしらの遺伝子組み替えなどをされないとまずできない。その点を考えると世界中に出没する虚構種は本当に異質な存在として扱われる。
エリオットたちは途中の入り組んだ崖を登ったり流れている川を渡ったりしながら洞窟の中を探検していた。すると奥にいないはずの人影が見える。近くまで寄っていくとそこで焚き火をしている若い青年がいる。
「やぁ、君たちもここに来たのかい?」
「こんにちは、あなたはどうしてここに来たんですか?」
いかにも怪しいローブ姿でいる青年。この洞窟は湿気が多いからそんな厚着は着れないはずなのに汗一つかいていない。警戒していきながらリリアナは聞いてみることに。
「いや実はね、僕のペットが1匹逃げ出してしまって。そいつちょっと厄介なところがあるんだよ。」
「厄介なこと?」
「そうそう、例えばいろんな環境に適するようにしたら喜んでその地にいる動物とかを狩り出すし。あと特殊な呪いなんかも付与できるように改良しちゃったから大変で...」
にやけながらそう言う青年を余計に怪しんでしまうリリアナ。するとエリオットはあることを思い出す。
「それってもしかして僕たちが追っているキマイラにそっくりじゃないですか?」
「なんだ君たち!キマイラを追っていたんだね、ちょうど今僕が話していたのもそいつのことなんだ。」
「てことはあなたがあの虚構種の飼い主なんですか?」
核心に迫ったリリアナ。青年はあっさりと答えを言った。
「そうだね、僕があいつら虚構種を作ったからね。ってそこの猫耳の人、さすがに待ってこれには事情があるんだよ。
虚構種を作ったのにはしっかりと理由があるんだよ。君たちは古代文明についてどれだけ知ってるかな?」
突然古代文明について問いただしてくるのには何かわけがあると思った一行は黙って聞くことにした。
「人類どうしで禁忌の兵器を用いて争っていた時代、虚構種はその兵器を開発する副産物で誕生したんだよ。もちろん僕もその時代から今までずっとこの世界を見てきた。人は反省をしたとわかった僕は虚構種を処分しようと一斉に集めたんだけど...今回そのキマイラが逃げ出してしまったってわけだよ。これでわかったかな?」
「あなたのせいで今1人の少女が悲しんでるんですよ!それはどう考えてるんですか!?」
エリオットは耐えきれずに怒鳴ってしまった。
「だから僕が探しにきたってわけだよ。
それに虚構種たちは本当はまだ生きていたいはずさ。そりゃ旧時代に人間のためにずっと働いていた守護獣のようなものだからね、自分のために生きようとしている彼らを皆殺しにするのは今考えると狂気の沙汰でしかないのさ。
僕だって本当は彼らを自由にしたい、一緒に戦争を勝ち抜いた仲間だからね。けど今の時代の人間には理解はされずに強いモンスターとしていずれは処理される。ならせめて仲間として最期を与えてやるのが道理ってものじゃないかな?」
青年は事の真相をありのまま話していた。嘘をついているとは言えないが何かが引っかかるとエリオットは感じていた。
「あなたは一体?」
「僕はリアーレ。旧時代から存在する現実の調停者さ。」
現実という曖昧な定義をエリオットたちに伝えた後、彼は立ち上がりどこかへ歩いていった。
〜続く〜