第5話「少女の祈り」
エリオット達3人は翌朝、『リアナ街』に向かうための支度をしていた。
歩いて行くと1か月近くかかるほど遠いため、マイクに頼んで馬車を用意してもらうことになった。旅のお供として馬車は比較的に安く仕入れられるし馬は世界中でレンタルすることが可能になっているからだ。
「悪いな付き合わせてしまって。」
「いえいえ!むしろ一緒に冒険ができて嬉しいです!
そういえばリアナ街はどんな食べ物が美味しいですか?
「あそこは港町で魚料理とか海鮮物がメインだね、安く仕入れたら美味い料理を振る舞うよ。」
リリアナはそれを聞いたとてもテンションが上がった。食に対するがっつきが違う。育ち盛りだからだろう。
2人はそんな話をしながら荷物をまとめていた。
一方エリオットは街を散歩していた。
エーベの街中を記憶して後々絵に描くためだ。細かく記憶するためにゴミの位置から商店の看板の名前や色などまで記憶していく。
広場まで歩いて行くと中央に像が立ってありその手前に噴水や植木などが綺麗に手入れしてある。
中央の像に手を合わせて祈っている女の子がいる。ちょうどエリオットと同じくらいの歳の子だ。体が汚れているからきっとスラム街の孤児だ。あの子の近くには箱があり、そこには『どうか一切れのパンを恵んでください。』と書いてある。
気になったエリオットは女の子に話しかけてみることにした。
「すみません、今何しているんですか?」
振り返った女の子は驚き怯えながら答えていく。
「えっと、今私は運命の女神様にお祈りを捧げてました。」
「運命の女神?」
「はい、どうか私の母を救ってくださいと...」
話を聞くと、その少女の母は不治の呪いをとあるモンスターにかけられたと言う。
母の呪いを解くために多額のお金を教会に使ったが治らなかったと。
話すうちに少女は涙を流し悔しがる。やるせ無い気持ちばかりが募って運命を司る女神に祈りを捧げる毎日だと。
「そうだったんですか...
そのモンスターを倒せば呪いって解けるのかな?」
「倒せばきっと治るかなって思ってます。
でもあのモンスターはベテランの冒険者でも尻込みするような個体なんです。
なんでも虚構種と呼ばれる個体で通常の個体よりも遥かに成長しているんです。
倒してくれる人なんて...」
「いますよ、ここに。」
「え?」
エリオットにとって初となる依頼。
そして泣いている女の子には優しく接すると昔父に教わっているからこそ、エリオットは引き受けようとする。
「僕が、僕たちがそのモンスターを倒します!」
エリオットは少女にそのモンスターがどこにいるかとモンスターの特徴を聞きながら絵に描いていった。
最後に目撃したのは北のアール鉱山。
特徴はコウモリの羽、牛のツノ、ライオンのタテガミ、皮膚はまるで鉱石のように硬いと。
この特徴は聞いたことがない、まるで悪魔のようなモンスター。
少女を広場に待たせて急いで2人に相談しにいく。
ーーーーーー
「っていうことがあったから助けたいんだ!」
「とはいってもエリオット、その特徴はキマイラって可能性があるぞ。
今のおれたちでどこまで通用するか...」
キマイラ。
複数の動物やモンスターの特徴が融合したモンスターで危険ランクはB。
危険ランクごとにモンスターは分類されていて、たとえばスライムはF、この間戦ったリス型モンスターはDに分類されている。
ランクBは中堅の冒険者でも死亡する案件が多発するくらいの強さ。
「でもこのままじゃあの子は、笑顔になれないよ。」
エリオットは悲しい顔をして考え込んでしまった。リリアナもうーんと頭を使ってあることを閃いた。
「酒場に行って強い冒険者を味方につけようよ!そうしたらきっとそのモンスターも倒せるかもしれないよ!」
「とは言ってもこのエーベの街にそんな強い冒険者はいたかな...」
マイクは思い出しながら考えていた。
3人ともなす術がないと落ち込んでいる時に外が何やら騒がしくなっていた。
なにが起きたんだと見に行ってみると、なんとモンスターが街の中に侵入していた。
門番はすでにやられていて街中は大パニックに陥っていた。
「おい、これどうなってんだ!?」
「わからないよ、でも助けなきゃ!
みんな!気合いを入れるよ!」
「「おう!」」
3人は街の人たちの救助をしながらモンスターを退治していった。
危険ランクEのネズミ型のモンスター。
1匹は大したことないが、最低でも1000匹を超える数が街を襲っていた。次第に疲れも出始め、退治するスピードも遅くなっていく。
エリオットはさっきの少女が気になり広場へ走って戻って行った。案の定彼女もモンスターに襲われていた。ネズミたちを次々とひのきのぼうで倒していきながら少女の元へ向かった。
「大丈夫ですか!?」
「あ、さっきの...ありがとう。」
ネズミたちが次々と襲いかかる中、門の方で爆音が響いた。
奥を見ると、なんと全長20mを超える超巨大ネズミが広場の方へ向かって走ってきた。
「あれは、虚構種...」
少女は泣きそうな声でそういった。
現実にはありえないような大きさや強さを持つ個体。それが虚構種と呼ばれている。
「マズイ、あんなでかいのが街の中に入ったら...僕たち含めてみんな食べられてしまうよ...」
エリオットはそのデカさに絶望し始めていた。攻撃手段がひのきのぼうしかない彼ではさすがに無茶がすぎる。逃げることを決めたエリオットは急いで少女の腕を掴み猛ダッシュで逃げる。
体力が続くかぎり全力で走るが、巨大ネズミモンスターは楽々建物を踏んで壊しながら走ってくる。でかいから歩幅ももちろんでかい。
「このままじゃ追いつかれちゃう!?」
2人は死を覚悟した。
その時、
「レインフォーリンググングニル!」
何者かがその言葉を放った。
すると上空に光が差し込み、そこから光の槍が出てきた。
まるで大雨が降ってくるかのように槍が降り注ぎ、巨大ネズミモンスターはもちろん、あれだけいたモンスターをたった一振りの槍が全て貫いて倒してしまった。
そして上空から亜人が降りてきた。
ネコの耳をした女性が、まるで昔絵本に出てきた勇者のような風貌だった。
「やっと、女神様に祈りが通じた...」
少女は涙を流しながら感動していた。
〜続く〜