城下町からの脱出下
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【レイセン】「止まって!なにか、変な匂いがする……」
レイセンがくんくんと鼻を鳴らすと、手を上げてみなを静止させた。みなは、壁を背にして立ち止まり、息を潜めた。
道の先は、川に続いていた。路地の向こうの開けた空間から、川のせせらぎが聞こえてきた。空から射す太陽の光が、道の先の欄干を照らしていた。
レイセンは皆の先頭に立ち、柱の角から曲がり角を覗き込んだ。
道の先に橋がかかっていた。その橋の上に、悪魔がひとり、ぽつんと立っていた。
悪魔は、レイセン達に背中を向けて立っていた。悪魔は、およそ140センチほどの小柄な躰つきをしていた。その頭からは、腰まで伸びた金色の髪を生やしていた。そして、頭の側頭部からは、見まごうことなき悪魔の特徴である、ごつごつとした一対の赤い角をはやしていた。
彼女は、両腕をだらんと垂らして、脱力して立っていた。両腕よりも遥かに長いその袖の布は、肘から袖口まで血に染まり赤く濡れていた。血のしずくが一滴二滴と、袖口の先から滴り落ちた。
彼女の足元には、切り刻まれた兵士の死体が山になって転がっていた。
レイセンは、死体の数がいくつなのか、数えることができなかった。兵士は全身をバラバラに解体されていたのだ。彼らは、無惨な屠殺体となって血の海に沈んでいた。
彼らの腹からこぼれた内臓の匂いが風に乗って漂ってきた。蝿が死体のまわりを飛び交う不快な羽音が水のせせらぎをかき消した。
(pic 104 6)
レイセンの頭の後ろから、ドアンナたちも顔を出し、道の先の悪魔を覗き込んだ。
ドアンナ「勝てるか?」
ドアンナは聞いた。レイセンは、答えに迷った。
レイセン「わからない……あの袖を操って闘うのなら、私との相性は良さそうだけど」
ドアンナ「布槍術の類かしら?」
レイセン「多分ね。勝てる確率は半々ぐらいだと思う」
ドアンナ「半々じゃ危険ね。別の道を探しましょう」
ドアンナはすぐに決断した。本来は、彼女たちは魔術師として、人々を守る義務があった。本当ならば、命を賭してでも、悪魔と闘うべきだ。
しかし今は、彼女たちは王女を連れていた。いかなる危険も犯すわけには行かなかった。
彼女たちが建物の影から身体をひこうとしたその時、レイセンの大きな狐耳が、道の先から駆け寄ってくる足音に気づいた。
レイセン「待って!誰か来る!」
レイセンは切迫した声音でいった。ドアンナは、レイセンの小さな体の上から、再び顔を出した。
道の先から、三人の子供が走ってきた。
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彼らは、齢十にも満たない少年少女だった。彼らは兄弟なのだろうか、顔つきがどことなく似ていた。みな、子供が男と女に分かれる前の、きめ細やかな肌と、細い金色の髪の毛を冠っていた。
一番大きな男の子が、先頭を走っていた。真ん中を走る男の子は、最後尾を走る女の子の手を引いていた。女の子は、その腕に熊のぬいぐるみを抱えていた。
彼らは、後ろを何度も振り返りながら、橋に向かって一直線に駆けていた。
(近づいちゃ駄目だ!)レイセンは心のなかで叫んだ。しかし、彼女がそう思うと同時に、背中から声がかけられた。
ドアンナ「助けようと思うなよ」
ドアンナが言った。彼女の言うことは、正論だ。王女の命を預かっている今、いかなる危険を犯すこともできない。しかし、レイセンは、子どもたちから目を離すことができなかった。
先頭の子供が橋に差し掛かった。そして、ぐるりと道を曲がると、目の前に広がる光景に気づき、急に立ち止まった。
彼は、足元に転がる兵士たちの死体を前にして、立ちすくんだ。そして、顔を上げて、目の前立つ人影を見上げた。
悪魔が振り返り、少年たちに顔を向けていた。彼女は無表情な瞳で、少年たちを見つめていた。
少年は、その姿に気圧され、一歩後ずさった。しかし、思い出したように、来た道を振り返った。その顔には、恐怖が張り付いていた。やはり、彼らはなにかから追われているらしい。
しかし、少年は意を決して、橋を進むことに決めた。彼は、悪魔の脇を走り抜けようとした。
悪魔は、腕を振り上げて、少年の首に向けて袖を振った。一瞬だけ、それは大きな鎌のように、金属のように硬質化した。
(pic 104 9)
袖が、少年の首を撫でた。一瞬、何も起こらなかった。少年は、足を振り、走り続けた。
やがて少年の首に、一直線の黒い線が浮び上がった。少年の首は、その線を基準にして、前後にズレ始めた。血が、水瓶の縁から溢れ出る水のように、赤い線から吹き出した。
少年の頭は、ハイビスカスの蕾のように、その身体からぼとりと落ちた。蓋の空いた頸動脈から、空に向かって血が吹き出した。
女の子が、叫び声を上げた。その細く白い腕から、くまの人形が滑り落ちた。
悪魔は、女の子に向けて笑った。その白い肌からは想像もつかない、茶色のきたない乱杭歯をむき出しにして笑った。そして、悪魔は、彼女に向かって、右手の袖を振り上げた。
瞬間、レイセンは地面を蹴り、駆けた。
彼女は、ドアンナの真横を一迅の風のように抜き去ると、わずか六歩のステップで通りを駆け抜け、悪魔に迫った。
彼女は赤い血に沈む兵士を縫って駆けた。間近に立ち昇る血の匂いが彼女の鼻孔を突いた。彼女の大きな橙色の狐尾は、天を衝く角度でいきり立った。
悪魔はレイセンを見た。センターパートに分けられた細い金髪が体の動きに合わせて揺れた。彼女の唇は、少女のように赤かった。
【レイセン】「吹きすさぶ灼熱の炎」
レイセンは口中でそう唱えると、右手に翳した銀の細剣に灼熱の炎を吹きつけた。
剣は炎をまとった……いやむしろ、粘性の炎が細剣を覆ったという方が正しい。
炎は激しい熱で小体積の細剣を焼いた。
エルフの古代文字が穿たれた銀の細剣は、鋼鉄の融解温度を遥かに超える白熱の光を放ち始めた。
太陽光線と見紛う鋭角の光は、直視不能な波長領域で悪魔の網膜を焼いた。摂氏五千度の放射熱は悪魔の白い皮膚を焦がした。
レイセンは、白熱する細剣を振りかぶり、悪魔の正面から切りつけた。
悪魔は、瞬間的に硬化させた袖の布で、レイセンの剣を払った。途端、炎が悪魔の袖を中心に燃え広がった。
悪魔は、右手の袖で、炎に燃える左手の袖を切断した。悪魔は、カノジョのケンに触れてはならぬと学習した。
悪魔は右手の袖を振るうと、足元の死体から剣を拾い上げた。そして、袖の先に剣を握り込むと、レイセンのくるぶしに向かって、あたかも地面を這う蛇のように、超低空の突きを放った。
レイセンは剣を腰に深く抱え、奥義でその剣戟を受けた。
レイセン『巌流奥義・新月面』
(pic 104 7)
月面、それは室内戦闘において長刀を自在に扱う、古武術の技だ。
本来、室内戦闘においては、刃を自由に振ることのできない長刀は不利である。しかし魔法剣士においては、その限りではない。
彼らは、オーラをその剣に纏う。オーラを纏った剣は、木の柱や壁などは、容易く切断する。
彼らはあたかも牛酪でも切るかのように、空間ごと障害物を切断し、あたかもそこになにもないかのように剣を振るう。これを総称して、剣士たちは月面と呼んだ。
今、レイセンは、腰に剣を溜め、膝を深く踏み込んだ。そして、地面をえぐる半月の軌跡で、剣を振り上げた。
その刃は地面を通過し、土塊を弾き飛ばしながら、間欠泉のように天に向かって放たれた。
想定外の角度から放たれた剣の軌跡は、悪魔の放つ鉄剣を完全に捉えた。レイセンの剣は、悪魔の袖ごと鉄剣を弾き飛ばした。
高い金属音を響かせて、鉄剣は空高く宙を舞った。
悪魔の黒い袖が、赤熱するレイセンの剣に触れた。途端に、炎が、残された左腕の袖に燃え広がった。
レイセンは、間髪入れず悪魔に突進した。そして、悪魔の細い体の中心に向かって、突きを放った。
悪魔は、両腕を体の前に交差させ、その剣を受けざるを得なかった。
剣が骨ごと悪魔の両腕を貫いた。そして炎が、悪魔に燃え移った。
悪魔は、全身を炎に包まれながら、人間の放つものではない、奇怪な高周波の叫び声を上げた。
悪魔は飛び退った。そして、川の水面に落下した。
レイセンは追いすがった。しかし、間に合わなかった。悪魔は大きな水しぶきを上げて川に落下すると、そのまま波紋だけを残して消えた。
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ドアンナは、少年たちに話しかけた
「大丈夫?」
少年たちはうなずいた
みちゃだめ」
ドアンナは、兄の死体を見ようとする少女の、目を塞いだ
「あなたたあち、走れるわね。私達と一緒に走るの
少年は、動こうとしない
「さあ!」
ドアンナは大声を出した。
そして、彼女たちは走り出した。
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そうしてしばらく東へ走ったのち、彼らはようやくはじめて避難している市民を見つけた。
彼らは8人の男女だった。彼らは、家族なのだろうか。若い男は太ももに大きな怪我をし、初老の男に肩を貸されて片足をひきずりながら走っていた。
レイセン「肩を貸します」
レイセンは言った。そして肩を貸した
「ありがとうな」
おじいちゃんが言った。
彼女たちが道を走り続けると、ようやく避難者たちの姿が見えた
「ようやく避難者に追いついたようだな。
彼らは、市場の通りを走った
商店街は、甘釣りで大繁盛ていたのだが、今は破壊されていた。
祭りのあと、かき氷機が、倒れていた
屋台は無茶苦茶に破壊され、出店準備している建物の匂いが、あたりに漂っていた
ドアンナは、横目でそれらを見ていた。その時、通りの後ろから足音が響いてきた
恐竜に乗った槍兵が、見えた
やつは突進してきた
「走って!」ドアンナは叫んだ。
「貴方達、先に行って!」ドアンナは叫んだ。「花屋まではしって
「植木を出しとくんだな!わかった!」レイセンが返事をした。
ドアンナ「植物を成長させる魔法」
(pic 104 11)
植木鉢が割れて、植物が急激に成長する
急激に生えてきたカラマツに、流派正面から衝突した。
頭をぶつけた恐竜は、クラクラと足をふらつかせた
槍兵が避けび、靴で龍の横腹を蹴った。
ドアンナは、ふたたび走り出した
体制を立て直した龍が、再び走り出した
自いびきが背後から聞こえた。
そして、道の先に、レイセンたちが植木鉢を一日に出していた
「ナイス」ドアンナは叫んだ。
そして、その地点までいくと、杖を地面に突き刺し、印を組んだ
メギド
植物の杖に蓄えられていたぱわーが、溢れ出した。
それは、植物つなぎになり、爆発的に成長させた
分厚いケガキができ、道を阻んだ。
しかし、龍は炎を吐いた
「なんだって」
植物は枯れ、龍は生け垣を突き破った。
そして、ドアンナを押した倒した。
龍が口を開け、喉の奥にブレスの火が見えた。
そのと、
仮面の男たちが、屋上から舞い降りる
それは、槍兵の首を
切り落とし、次いで龍の脳天を剣でうがった
それは、仮面をつけた男たちだった。
ドアンナ「アイル!」
(pic 104 10)
ドアンナは叫んだ。アイルは仮面をずらし、素顔を見せた。
早く行け。ここは危ない
ドアンナは頷き、道の先へ急いだ。
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こうして、ドアンナたちはサンブラン門までたどり着いた。
城門では検問が敷かれていた。衛兵が門の左右に立ち、通過するすべての人間の顔を確認していた。
当然のことながら、検問を通過するには時間がかかった。避難は滞り、市民たちは焦りだした。
【市民】「何をやってるんだ、早くここを通せ!」
【兵士】「これは王命だ!貴様らは黙って従え!」
市民の叫び声が響いた。それに呼応して、列のあちこちで怒鳴り声が響いた。
レイセン「王命だって?ふざけんなよ」
ドアンナ「ええ。王がこんな命令を出すがはずがないわ……」
兵士は叫び返した。王がこのような命令を出すはずはない。おそらく権力中枢に巣くう売国奴が、王の名を騙り偽の命令を発布しているのだ。
けが人を乗せた馬車が、列になれんでいた。ヤゴーは男をその荷台に下ろすと、列の最後尾にたむろしているアイルたちのところまで戻ってきた。
ドアンナはアマンダを振り返った。ここを通れるだろうか
彼女の赤い髪は、あまりにも目立ちすぎた
立ち往生しているドアンナたちの隣に、仮面の男が寄ってきた。
【謎の男】「王女殿下」
仮面を外した
ドアンナ「アルス!」
アルス「お前たちをここから脱出させる。着いて来い」
こうしてドアンナたちは、アルスについて行った。男は、街道に面した宿に入ると、部屋の奥の倉庫に案内した。
部屋の中には穀類の袋が積み上げられていた。男は小麦の袋を束にして持ち上げると、その下に木で作られた扉が現れた。
男は扉を開けた。扉の中は、地下へ続く階段だった。
【ヤゴー】「おいおいまた地下かよ」
ヤゴーが言った。男は蝋燭を立てたランプをゲイルに渡すと、先へ進むよう促した。
王女が男をすれ違ったとき、男は軽く頭を下げた。
全員が地下の階段へ降りた。扉は閉じられ、アイルたちは再び地下の暗闇に取り残された。
彼らは先へ進んだ。
「俺たちはここでやることがある。お前たちは先へ急げ」
ドアンナ「わかったまた会いましょう」」




