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月夜の絵画

作者: 夢見ルカ

夜汽車に揺られてガタゴトと。いつからこうしているのか思い出せないくらいの時間を窓枠に肘をついて過ごしている。

吹き込む夜風は冷たいけれど、なぜだか窓を閉める気にはならない。明々とした月の光に照らされ黄金色に染まる外の草花は、風に撫でられ、そよそよと波打っていた。

一見すると麦畑にも見えるその光景にどこか懐かしさを感じながら、ぼんやりと眺める。

窓越しから見る月は夜空を覆い隠してしまう大きさで、小さい窓枠から見えるそれは額縁に飾られた絵のようだった。

他の乗客がいない車内に響くのは、リズムよく線路を忙しく回る車輪の音だけ。

それも風音に包まれてどこか遠くに聞こえ、他には何も拾わない。

見飽きてしまうほど続く光景と、単調な音に次第に瞼は重くなる。視界に入るものは輪郭がとけた油絵になっていく。

そう長くはかからずにうつらうつらと首は遊び、黒いカーテンが降ろされた。

ふと目が覚める。いつのまにか、汽車は止まっていた。相変わらず窓の向こうからは、まんまるい月がこちらを覗き見ている。

駅で停車したわけではなさそうで、目的地を知らせる看板は見当たらない。それでも、降り口はぽっかりとその口を開いていた。

湧き上がる好奇心から席を立つ。がらんとした車内を自分だけの足音が進み、降り口から見た外は窓から見た時よりも広く寂しい。あんなに冷たく感じていた夜風が頬を擽り、外へと誘う。先ほどまで胸を占めていた好奇心はそっと隠れたようで、不安ばかりが募っていく。

降りようか悩んでいると、どこからか声が聞こえてきた。

もちろん、自分の声ではない。ここにきて初めての他者の声だった。

軽やかに転がり弾み、まるで声がおどっているかのような楽しげな声につられて、気づけば柔らかな草原に足を降ろしていた。

周りを見渡すと声に負けず劣らず、楽しそうに微笑む少女が一人。広がるスカートはくるくるくるりとまわり、結われたおさげが揺れるたび、頭を飾るふんわりとした三角お耳が上下に跳ねる。手には白い靴が握られていた。

草花に語り掛けるように腰を折り、戯れにじゃれる少女はこちらを見ることもしない、その姿はまるでこの場所にいるのは自分だけと思っているみたいだった。

月の照明と黄金色の舞台の上で、少女の歌うたいな笑い声を響かせる姿に、視線を奪われ、言葉を失くし、時間だけが流れていった。



友人のお絵かきから連想したお話でした。

読んでくれた方、ありがとうございます。あなたにいいことがありますように。

※この作品は「✕(旧Twitter)」「カクヨム」にも掲載しています。

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