第一話 出会い
ハァハァハァハァハァハァ
ときめき坂を必死で下り湖岸に16時前に着いた。
ヒロシとは16時半に待ち合わせ。
私は呼吸を整え ベンチに座った。
8月の太陽が私に襲い掛かる。
キラキラ光る湖面が涼しく見えた。
ジリジリと焦げてゆく。
日傘を忘れ、手でパタパタと顔を仰ぎ
蒸し暑い風を頬で感じながら待った。
彼はいつも遅刻してくる。
きっと今日もだろうな…
携帯を触りながらチョクチョク時間を見ていた。
「はぁ…やっぱり」
もぅ17時をまわったころ
「ごめ〜ん!待った?ほんとごめん」
「うううん、大丈夫、私もさっき来たばっかだし」
…嘘をついた。
「ほんとごめんね!モモア今日も可愛いよ」
「有難う嬉しいっ」
「じゃいこっか」
「うん」
ヒロシの一言で遅刻はチャラになるの。
手を繋ぎ、ゆっくりゆっくり世間話をしながら
カフェ【KOGANDAYOYO】に着いた。
カランカラン
「いらっしゃいませ~、お好きなお席にどうぞ♪」
私達は窓際に座った。
窓の外には男子高校生がジャンケンをしている。
負けて頭を抱えた1人の男子が
向かいのパフェ【フジミ】に入っていった。
「ははは、あ〜ぁ可哀想に罰ゲームだなありゃ」
ヒロシは嬉しそうに見ていた。
そぅ。向かいのパフェ店は女子高生のたまり場。
おっきなおっきなパフェがある。
男子学生達はジャンケンをし、負けたら1人で入りキングサイズのパフェを食べて出てくるのだ。
「ご注文お決まりですか?」
「アイスコーヒーを」
「じゃ私もそれで」
「かしこまりました」
暫く沈黙が続いた。
「おっ!早っ」
ヒロシの言葉で外を見たら
さっきの子が肩で息をし、赤い顔で友達を見ていた。
「お待たせいたしました」
テーブルに置かれたアイスコーヒーは汗をかいていた。
カランカランとヒロシはストローで氷をまわし
チューっと半分近く飲んだ。
「ヒロシ喉乾いてたの?もぅ半分ないよ笑」
「ふぅ~美味しい」
私も飲んだ。
火照った身体に染み渡る。
「はぁ〜生き返る〜笑」
ミーンミンミンミン ミーンミンミンミン
蝉が元気に鳴いていた。
「あ、あのさ…」
ヒロシは真剣な顔で私を見つめた。
(え…ヒロシ…ここカフェだょ、しかもまだ夕方だし)
ジーっと私を見つめるヒロシ
(え?ムードもなんにも…え?どしよ…付き合って5年だし…え?きた?遂にきた?ここで?)
「ヒロシどうしたの?」
冷静を装いプロポーズの言葉を待った。
「モモア…その…あの…」
「もぅ、ヒロシしっかりしてよ!な〜に?」
私は冷静に冷静に言葉を待った。
「ごめんっ別れよ、ほんとごめんっ」
「………え?」
ガタン
ヒロシは立ち上がり、私に
「今まで有難う。じゃ」
と…あっさり去ろうとした。
「嫌っ!待って」
通り過ぎるヒロシの服を掴み
「意味分かんないよ!なんで?ねぇなんで?」
「モモア…みんな見てるから」
「そんなのどうだっていい」
「モモア、さ、手 離して。ごめん」
「ヒロシ…なんで?」
「…ふぅ…ごめん、おもいんだよモモア」
そう言って ヒロシは私の前から消えた。
ミーンミンミンミン ミーンミンミンミン
カラン
まだまだ激しく鳴く蝉。
溶ける氷。
じっとアイスコーヒーが私を見ていた。
どれだけの時間が経ったのだろうか
うつむいたままお会計をした。
「お二人で1600円になります」
「はい」
「1600円丁度有難うございます」
「はい」
「あの…元気出してくださいね」
「……」
カランカラン
「有難うございました」
キーコーキーコー(自転車)
「あらマスターやないの。買い出し?」
「ゲラゲラなんや今日もブスやのぉ」
「いややわ〜最高の褒め言葉やんか〜うんもぅ」
「門脇のおばはん、な、な、笑うな。真剣にブスやゲラゲラゲラゲラ前歯なんで3本もないねん」
「そやねん、こないだ息子がくれたヨッチャー食べたらとれたねんか」
「ゲラゲラあほやな。前歯で食うんかよ」
「奥歯がありませんねん あははははは」
「……ウム…お前さんを好きゆ〜やつおるんかよ」
「なんでよ、酒屋の井上さんいるもん」
「ゲラゲラゲラゲラ腹痛い アイツはゲラゲラ」
「ちょっと何よ」
「ほなな」
「ちょっとマスターまち〜な!なによ教えて」
キーコーキーコーキーコー
(ウム…前のやつ…右歩かんかい!ベルや)
チリンチリンチリンチリン
(あ…なんでこっちによけんねんっ)
ガシャン!!
コロコロコロコロ〜
「あいたたたた…」
「……すみ…ません」
「あいたた…ん?なんて?」
「すみません」
「あいたたたた…オーマイガー」
「…ぁ…血が…あ…あ…あの…わたし…どしよ」
カゴの中の野菜とビールがときめき坂を転がる。
門脇はんや、歩いてる人がひろてくれた。
「おおきに、すんまへん おおきに」
タタタッ
「ちょっとマスター大丈夫?てか あんたどこ見て歩いてるんよ!」
「……」
「口ないんか!聞いてるか?」
「…ごめんなさい」
「ウム、門脇はん もう大丈夫や…な…笑うな…歯が」
「大丈夫て肘から血でてるやんか ニコッ」
「ウム…キモイ。どもないどもない、お嬢ちゃんは大丈夫か?」
「…はい私は…大丈夫です…どしよ…」
よっこいしょ
自転車を起こし
荷物をもらい自転車を押しながら坂をのぼった。
パニクって座り込んでいた女性が豹変し走ってきた。
ダダダダダッ
「あのっ、すいませんでしたっ」
「ビックリするやないか!なんや急に八つ墓村か」
「はい?」
「は?」
「え?今なんと?」
「何がや?」
「やつざきむら?」
「チャウチャウチャウチャウチャウチャウチャウチャウチャウチャウチャウチャウさて何回ゆ〜たでしょうか?」
「…(うわぁ…よりによって…)6回で…すか?」
「ウム…知らん」
「ちょっと…聞いといてなんなんですか!」
「あのよ、何かよ〜かここのかと〜か」
「…(やってしまった…いたい人だ)ほんとにすみませんでした。これ私の連絡先です。何かありましたらご連絡下さい」
「なんや!ナンパか!」
「え?何言ってるんですか!もしもの時にと」
「ゲラゲラゲラゲラそうかそうなんか、そうやって世の男性をメロメロにしとるんか?な?な?」
「…バカなんじゃないですか?失礼します」
「ウム…アホって言って(笑)バカは傷つくねん」
「はい?」
「何や?」
「えぇ?…ま…すみませんでした失礼します」
「はいょ、ほなな」
トボトボトボトボ
彼女はうつむいて駅に向かって行った。
「ウム…なんかあったんかな…さ、仕事仕事」
カランカラン
「ちょっとマスター遅いやんか」
「お〜サクラすまんすまん、はい、仕入れな」
ガサガサ
「あれ珍しいやん、今日なんかぐちゃぐちゃに入ってるよ」
「ウム、ほれ!」
「え?どしたん?血でてるやんか」
「噛まれたわい」
「噛まれた?犬?」
「サクラ…もぅ地球は大変なことになったかも」
「何〜?もぅやめてよ、なによ」
「ときめき坂にゾンビがおったねん」
「えっ!?」
「…すまん…噛まれた」
「ええっ?マスターどうなるん?」
「サクラ…今まで有難うな…おいちゃん…」
「ちょっと嫌っ、マスター…死なないで」
カランカラン
「毎度っ!早かった?サインついてたから…」
「あ、順さんいらっしゃい」
「なんやお前か」
「サクラちゃん毎度。マスター、なんやて…客やで僕」
「ちょっと聞いてよ順さん…マスターもぅ…」
「マスターどないしたん?あ、サクラちゃんビールと適当にアテお願い」
「はいは〜い」
「でマスターどないしたん」
「ほれっ」
「うわっ!血でてるやんか、つか…飲食やしなんとかし〜や〜」
「わかっとるわい!お前さんがはやすぎるんやないか!せっかくサクラにヨシヨシしてバンドエード貼ってもらう予定が未定やないか!」
「ごめんて、で どしたんよ」
「ときめき坂にな、ゾンビがでたねん…で噛まれたわいゲラゲラゲラゲラ」
「まじか!どんなゾンビよ」
「ウム…めちゃくちゃ美人ゾンビなんやけどな、うつむいて通り過ぎる時にやられたワイ」
「え?その美人なゾンビはマスター狙ってたんか?」
「わからん…魂が抜けかけて…なんか…陰気臭いし…」
「下向いて脇からチラチラ来るの見てたんちゃう?」
「ウム…門脇のおばはんと話してたから、おばはんの前は素通りやろな…狙われたんか…」
「あぁ門脇のおばはんは噛まんやろ、僕がゾンビでもスルーするわ」
「ウム…今は前歯3本なかったぞ」
「え?また減ったん?」
「サクラを好きな…ほらあいつよ、原付きのどら息子からヨッチャーもろて食べたら抜けたんやてゲラゲラゲラゲラゲラゲラ…笑いよったらゲラゲラほんま…ゲラゲラ」
「ちょっと二人共、門脇さんの悪口ゆわんとき〜な」
「サクラ、な、サクラよ、あの息子はお前さんを好いとるやないか」
「ほんまにごめん、めっちゃ嫌いやねん私」
「そやかて店来るたんびにサクラちゃんサクラちゃんてゲラゲラゲラゲラ夏も秋も冬もサクラちゃんサクラちゃん、お前の頭は毎日4月かよってかゲラゲラゲラゲラ」
「…マスター大丈夫?」「どもないか?」
「あ…ボチボチ…菌が回って…」
「えぇ!」「え?サクラちゃんどないしよ」
「順さん もぅ私等も感染したかな?」
「いや…噛まれてないから大丈夫やろ」
カランカラン
「あ!小橋さん助けて」
「サクラ、順 どしたん?」
「マスターがもぅ」
「小橋っちか……すまんな…」
「よっマスター、ビールくれ…どした?」
「今ええとこやんか…変化前やねん」
「ほなマスターはええわ!サクラでビール」
「でもマスターが…」
「しゃ〜ないやんか、くくっとくか?(笑)」
「……」
私はエアコンをつけ、蒸し暑い部屋のベッドにうつ伏せになった。
悲しくて悲しくて泣いた。
かすかに聞こえる子供達の遊ぶ声。
静かに目を閉じた。
マブタに焼き付くヒロシの笑顔。
手を繋ぎ笑いながら歩いた事。
肩を抱き、私を引き寄せ頭をナデナデするヒロシ。
時間にだらしなく、お金にもだらしないヒロシ。
私は必死で自分を押し殺し彼につくした日々。
泣きながら少し笑い…そのまま眠った。
カランカラン
「いらっしゃいませ~」「まいどー」
「そやねんけゲラゲラゲラゲラゲラゲラ」
私は 鵜飼サクラ 25歳。
スウィーティーでバイトをしている。
常連客に
順さん 小橋さん たっちゃん
門脇さん 私のお母さん などがいる。
そして変態で訳の分からないマスター。
自分の事は おいちゃん と言っている。
いくつかはわからないけど…めっちゃ男前。
順さんも小橋さんもたっちゃんも同級生らしいけど…
なんだろ全員歳を言わない(笑)
自慢じゃないけど、私はかなりモテる。
黒髪ボブで153センチ。
私に 付き合ってって言ってくれる人は多い。
が…横にいる おっさんは…
「ゲラゲラゲラゲラ何やサクラ怖い顔してからに」
「いつゾンビになるんよ」
「ウム…免疫が菌をチョベリバババババンビ!」
「……はぁ…ちょっと大丈夫?頭に菌がまわったんちゃうん?」
「お〜みんな聞いたか!サクラが頭に菌が回ったんとちがうかやて」
「サクラちゃん、マスターは頭ないからハズレや」
この…順さんも…かなりアホだと思う。
カランカラン
「あ、たっちゃん いらっしゃい、助けて〜」
「サクラどしたん?」
「もぅまたみんながイジるねん」
「おいおい あんまりイジったんなよな」
「ほれっ!」
「ん?マスターどないしたんや怪我したんか?」
「噛まれた」
「へ〜そうなんか」
「ウム…終わりかい」
慣れてるのかな(笑)
たっちゃんだけはマスターの流れに乗らない。
「マスター!ビール」
「はいよっ」
今日も賑わうスウィーティー。
「サクラすまん ちょい電話」
「そんなん言いながらタバコちゃうやろな?」
「やめたわい!電話や〜」
「はいはい、どうぞ」
AM1∶11
「…ねちゃった……はぁ…」
起きたらゾロ目が多い。
「はぁ…」
チカッチカッ
「あ…電話… 誰……留守電」
「ゲラゲラゲラゲラ、ゾンビちゃん、おいちゃん菌に勝ったぞ!ゲラゲラゲラゲラゲラゲラあっ……あかん…あっ…」
ガチャ
「……え?…なに…え?え?どしよどしよ…」
プルルプルルプルルプルル
「マスター電話鳴ってんで!」
「あ……」
「誰?」
「ゲラゲラゲラゲラ気にしとる、な、サクラ気にしとるやろお前さんゲラゲラゲラゲラ」
「しょ〜もないことゆ〜てんとはよ出〜な」
「ウム… みんなシーやぞ! シモシモ?」
「え?あ、あの…」
「誰や?」
「え…どちら様でしょうか」
「どちら様て 私やないか」
「はい?」
「ん?誰や君は…あ、おいちゃんのファンか」
「おいちゃん?……さん…?」
「そや、なんや」
「あの…私に留守電が入ってまして」
「は?誰から?」
「この番号の方から」
「あ…君か!そうかそうかごめんごめん、トモダチマートの堀田さんか、すまんすまん」
「え?あの」
「もうえぇやろ!な、あきらめろ。な、色々あるわい」
「あの…」
「おいちゃん仕事中やさかい。な、えとな、あれや、君がな」
ガチャ
「ゲラゲラゲラゲラ切ったったわい」
「あ…切れた…」
「マスター誰から?」
「トモダチマートの堀田さんや」
「へーそうなんや、なんかあったん?」
「好きゆ〜てくるさかいに すまんゆ〜たゲラゲラゲラゲラ」
「番号教えたん?」
「いや」
「ほな何でかかってきたんよ」
「知るかい!留守電聞いた言いよったな」
「留守電入れたん?」
「は?何でおいちゃんが留守電いれんねん」
「え?意味わからん」
「流石 順に こはっちに たっちゃん サクラや。よりによって…アホばっかりやないか!」
「アホて…マスターが1番アホやろ」
「シャラップアホンダラボケ!ゲラゲラ」
「マスターが留守電入れた人は誰ですか?」
「おいちゃんが留守電入れたのは美人ゾンビです………って……え?」
「え?」「マジか」「かかってきた」「うそやん」
「ゲラゲラゲラゲラゲラゲラ…」
「……誰だろ…」