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はじまり

「トン、トンッ」


ドアをノックする音で俺は目を覚ます。


「(見たことない部屋だ)」


俺は周りを見渡すが小さい部屋にベッドが一つ、それと本棚と、テーブル、台所、トイレが有るだけの寂しい部屋だった。


「(なんでこんな部屋にいるんだろ)」


俺はここに来る前の記憶をたどるがどうも思い出せない。


「トン、トン、トンッ」


俺が記憶を辿っているとさっきより一つだけ多くのドアをノックする音が聞こえる。


「(え、この状況怖くない?)」


目を覚ますと見ず知らずの部屋で誰かがドアをノックしている。


「(誘拐とかではないと思うが…開ける勇気はないぞ)」


この男は案外臆病だった。


そうしていると外から可愛らしい女性の声が聞こえた。どうやら訪問者の声らしい。


「ごめんくださーい、誰かいませんかー」


女性の声を聞いて男は安心したのかドアに向かって歩いて行く


これが野太い男の声だったら男も警戒するが女性の声だとわかり、安心したようだ。


「今開けますね」


男がドアを開けると予想通り、いやそれ以上の美少女がそこに立っていた。


挿絵(By みてみん)


「あっやっぱりいた。はじめまして、おじさんが今回の勇者?」


「えっ、勇者?(何を言ってるんだ?)」


「あー急に来ちゃった系かな?それだと少し可愛そうだけど僕たちも事情があるから…」


「(訳が分からない、そもそもこの少女は誰なんだ?)」


「あ、あの!ここはどこなんでしょうか?それとあなたは誰ですか?」


俺は訳も分からず少女に聞く。


「本当に何も知らないんだね,,,。分かった急に、ごにょごにょ、するのも何だし事情を少し話そうかな」


途中で聞き取りづらかったが男は少女が話してくれるのを待つ。


「あなたは転生したんだよ。そしてこの世界を救う勇者となった。」


「はっ?勇者?勇者って言うとあの物語とかゲームとかに出てくる?」


「ゲームというのは貴方たちの世界の娯楽だったかな?その認識で合ってるよ」


男はその言葉を聞き胸が高まった。


「(転生って異世界転生だよな!まさか本当に自分が転生するなんて!)」


「おじさんが戸惑うのも無理はないよ。勇者はたいていトラックにはねられたとか、上から物が落ちてきたとかで突然死で転生するらしいから」


「全く記憶に無いけど突然死だから一瞬で死んだとかかな?」


「おじさんには同情するよ…。おじさんのいた世界で突然死してこの世界でも...ごにょごにょ」


少女の最後の声は聞こえなかったが男にとって転生というのは悪くなく、むしろ歓迎するものだった。


男の名は赤城健一。どこにでもいる会社員でゲーム会社に勤めていた。毎日、システムバグとの戦いで仕事はキツイくせに安月給。せっかく覚えた資格やプログラミングも覚えた割には割に合わず不満を抱えていた。


「(元の世界では会社と家を往復する毎日で面白くなかったんだよな~。たまにある飲み会も好きじゃなかったし。これで退屈な日々とはおさらばだ!)」


「ねえ君!異世界転生といったらあるんだろ?あれが」


赤城は期待を込めて少女に話しかける。


「えっ?あれって何?」


少女は男の勢いに少し面食らったのか若干引いているようだった


「ごめんごめん。異世界転生と言ったら神様だっけ?なんか貰えるスキルがあるんだろ?」


赤城がそう言うと少女は何か考える素振りを見せ黙ってしまった。


「(女子高生ぐらいの子にきやすく話しかけてまずかったかな…。元の世界でもあんまり女子と話したことないんだよな、悲しいことに)」


赤城はお世辞にも顔がいいとは言えず良くてフツメン。それに加えてあまりお喋りでもなく目立つ存在ではなかった。


「(あまり好きな言葉ではないが俗に言う陰キャってやつだ。しかし陰キャって言葉オタク言葉だったよな?いつから世間で使われるようになったのか?オタク文化の浸透だろうか)」


赤城がそんなくだらないことを考えていると少女はぼそっとなにか呟いている。


「ふーん。迷惑なことにその神とやらが転生者に変なスキルを与えて私達を排除しようとしているんだね…」


「えっなにか言った?」


赤城が少女に聞き返すが少女は笑って何でもないと答えるだけだった。


「ところで君の名前は何かな?ここに何のために来たのかも言ってくれると助かるんだが?」


赤城がそう言うと少女は慌てて名乗る


「私の名前はアンナ。アンナ・フランソワです。ここに来た目的だけど貴方を殺すために来ました」


アンナは当然のように赤木にそう言った。


「は!?殺すってなんで」


男は慌てて聞き返す。


「勇者はね、この世界を支配する僕達魔女を殺す存在なの。救世主気取りのつもりなのかな?僕達が今までどんな扱いを受けてきたのかも知らないんだろうね」


アンナの表情は一転していまいましげに赤城に言う。


「おじさんもそうなんでしょ?」


「いや、そんなことは…」


赤城は少女の言葉に戸惑っている


「僕達、魔女は数千年もの長い間ずっと迫害を受けてきてね。普段は村の端にある暗い森に押し込められていたんだけど、村人が少しでも気に入らないと暴行をしてきて、最悪火あぶりだよ」


「(な、なんか重い話題だな。とにかく目の前にいる少女はアンナで魔女だと。それで俺を殺すために来たと。そしてここは玄関しかない逃げ場のない部屋だ。普通に考えてやばい)」


「お、落ち着いて話そう!そうだ、お茶でも出すから上がってよ!」


赤城は自分の家でもないのにアンナに部屋に入るように勧める。


「ごめんねおじさん。これ以上話すと情が移って殺しにくくなると思うから殺すね」


アンナはそう言うと有無を言わさずに赤城に向かって魔法を放つ。


「虚無の太陽」


アンナがそういった瞬間、赤城がいた部屋は真っ暗闇に包まれ痛みもなく赤城の命を削り取る。


「ごめんなさい。勇者を殺すことは魔女同士の取り決めなの。安らかに眠ってね」


赤城の意識が途絶える間際にアンナのそんな声が聞こえた


赤城の2度めの人生はこれで終わった。
















「うわああぁぁ」


赤城が飛び起きるとそこは死ぬ前にいた部屋だった。


「な、なんで!?」


「(俺はアンナに魔法で攻撃されて死んだんじゃあ!?)」


「トン、トンッ」


「ひっ!?」


扉のノック音が聞こえる。

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