第8話 魂を懸けたバトルロイヤル
登場人物と設定の説明が終わって、ここからゲームバトル本編が始まります。
「――それでオレたちはこれからどうしたらいいんだ?」
マモルはそう言うと、またイスに座り直した。
「まあ、それは……えーと、そうだな……」
アリスとしても正直これから自分たちはどうすれば良いのか分からなかった。自らの魂を守らなければいけないことだけは理解したが、それにはどう行動すればいいのか。
「オレが考えるには――」
マモルが口を開きかけたとき、小屋の外から聞き覚えがある音が届いた。
「今の間違いなく銃声でしょ?」
ニケが鋭い視線を窓の外に向ける
「どうやら、どこかの誰かが仕掛けたこのくだらないゲームに『乗った』連中がいるみたいだな。きっと、そいつらはゲームの内容を深く考えずに魂の殺し合いしてるんだろう。オレとしては急いでこの場を離れて、安全地帯へ移動すべきだと思うが」
「おれもマモルの意見に賛成する。あの過激派組織のリーダーはゲーム内で『リアルダウン』したら、おれたちの『魂』のデータを完全消去すると言ってたからな。もしも『魂』が消えることが、自分の存在が消えることと同一なのだとしたら、ここで下手に戦うのは絶対にダメだと思う」
アリスとしては今の状況がまだ完全に把握出来ていない中、敵チームと戦うのは危険だという思いがあった。
「それはそうだけど……」
ニケは何かに耐えるように唇を噛み締めている。
ぴんと張り詰めた空気を切り裂くようして、再び外から聞こえてきたのは恐怖を前にして人間が出す悲鳴。しかも若い女性のものだった。
「今度は悲鳴だよ!」
ニケがアリスの顔に問いかける視線を向けてくる。その瞳の輝きを見て、ニケが何をしたいか瞬時に悟った。長い間一緒にチームを組んでいるので、ニケの考えは手に取るように分かる。
「きっと襲われているんだ! あたしたちが助けに行かないと!」
言うが早いか、ニケは手にしたサブマシンガンを構えなおして小屋のドアに走り出す。
「ニケ、おれも行く!」
アリスも続いた。
「くそっ! こうなったらヤルしかないか! 二人ともフォーメーションを忘れるなよ!」
こんな緊急事態でも冷静さを失わないマモルがアリスたちに指示を飛ばしてくる。
「分かった! おれとニケで先陣を切るから、マモルたちは後方支援を頼む!」
それだけ早口で言うと、マモルの返事を聞く前にアリスも小屋から飛び出した。
アリスの視線の先には数メートル先行しているニケの背中が見える。アリスたちチームは普段からアリスとニケの二人が前衛で行動していた。次に真ん中をサクラ。後方でしんがりを務めるマモルは三人を見守る役だ。
「前方に人影! いち、にい、さん……6人……違う! 7人! 7人いる! 2人はすでに地面に倒れている!」
ニケの緊張感に満ちた声。普段ゲームで聞いている声とはまったく質が違う。
「分かった!」
アリスは短く返事を返す。チームメイト同士はゲーム内で通信が使えるので、いくら離れたところでも連絡は取り合える。
前方に視線を飛ばす。同じ迷彩柄の服を着た3人の男性プレイヤーに取り囲まれるようにして2人のプレイヤーが立っているのが見えた。3人は銃口を2人に向けている。
「なんだかすごくイヤな感じの状況だな」
7人いるということは少なくとも2チーム以上のプレイヤーがその場にいるということだ。そして一方のチームが、もう一方のチームに対して銃を向けている状況のように思えた。お互いに戦闘をしていたならば、ここまで2チームの距離が近づくはずがない。だとしたら、考えられる状況は――。
「アリス、伏せて」
耳に先を行くニケの声が届く。
「了解!」
アリスは地面の上にを体を投げ出した。その瞬間、なぜか違和感を持ったが、今は最前のことに注意しなくてはいけないので違和感は頭の隅に追いやる
「相手はまだこっちに気付いていない。背中を向けているから、まずあたしが突撃する。アリスは少し間を置いてから続いて」
「ニケ、待つんだ。7人しかいないのが気になる。2チームならば、8人いないとおかしい」
アリスが返事を返す前に、マモルの通信が割り込んできた。
「言いたいことも分かるけど、3人はもう引き金に手を掛けていて、今にも撃ちそうだから!」
「――分かった。ニケ、突撃してくれ。アリスもそれに続いてくれ。万が一のときを考えて、サクラがアサルトライフルで後方から狙いをつける。いいか、相手を制圧出来ないと思ったら、すぐに逃げるんだぞ! オレたちは『魂』を懸けているということを忘れるな!」
「了解!」
「了解!」
二人同時に答えると、まずはニケが地面から体を起こして、前方に見える迷彩柄の服を着た3人の背中に向かって走り出す。同時にサブマシンガンを連射する。
背中を向けていた2人が振り向くまもなく、その場に崩れ落ちる。
残った一人は焦ったのか、こちらに向けて銃弾をばら撒く。音の感じからして、ニケと同じサブマシンガンだ。
アリスは地面に伏せたまま、腹ばいの姿勢でハンドガンを連写する。しかし距離がまだ遠いせいか当たらない。
ニケも一旦伏せて、相手の銃弾から身を守る体勢に入る。
「こっちにくるんじゃねえよ!」
迷彩柄男がいきなり手を大きく振りかぶった。手の先から放物線を描いて飛んできたのは――。
「マジかよ!」
飛び起きる間もなかったので、アリスは地面の上をごろごろと転がり、退避行動をとる。
次の瞬間――。
耳をつんざく爆音。手榴弾が爆発したのだ。辺りに灰煙が立ち込める。その煙の中から銃撃音が木霊する。
さらに続けざまにまた爆音。焦った相手は所持している手榴弾をほぼ同時にこちらに向かって投げつけてきたらしい。
「ニケ、手榴弾の煙で視界が利かない! 煙がなくなってから進まないと危ないぞ!」
言ってるそばから銃弾の音。
「大丈夫! 敵はあと一人なんだから! 速攻でいけば倒せるはず!」
「ニケ、気を抜くな!」
言いながらアリスも灰煙の中に飛び込む。ここでニケひとりを行かせるわけにはいかない。
「きゃあっ! 痛っ!」
ニケの悲鳴が通信ではなく直接耳に届いた。すぐ近くにニケがいるのだ。
「ニケ!」
灰煙を抜けたその先に地面に這いつくばるニケの姿があった。手榴弾を投げてきた敵も『フォ-ルダウン』の状態で地面に横たわっている。迷彩柄の3人に銃口を向けられていた2人もすでに倒れている。
即座にそれだけ見て取ったが、いったい何が起こったのか分からなかった。それでもとにかくニケの状態をすぐに確認しないとならない。
体を動かしているところを見ると、ニケはまだ『フォールダウン』の状態ではないみたいだ。だが、それにしてはひどく『痛がって』いる。
そこまで頭で理解したとき脳裏に疑問が浮かんだ。
なんでニケは『痛がって』いるんだ? 何かおかしいぞ!
そう思ったとき、体の中心を冷たい風が取り抜けていった。そして刹那の間を置かずに激烈な痛みが体中に走った。
「うぐげっ!」
あまりの痛みに思わずその場に膝を付いてしまう。
「飛んで火にいる夏の虫とはよくいったもんだ。もっとも火は火でも銃の火だけどな」
冗談にしてはあまりにも人間性を疑いたくなるようなブラックユーモアだった。声の主は少し離れた木の陰から姿を現した。陰気な顔の中で、目だけが暗く光っている。
「く、く、くそっ……やっぱり……よ、よ、4人目が……いたのか……」
呻き声をもらすアリス。
「銃声を聞いたバカが近寄ってくるんじゃないかと思って隠れていたんだが、ビンゴみたいだったな!」
男は銃口をニケとアリスに交互に向けながら慎重な足取りで近づいてくる。
初めてのゲーム世界系の小説になります。
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