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第6話 武器システム

サクラの予想通り、小屋の中にはチームの人数分――計四個の木箱が置かれていた。


「あたしの欲しい武器は入っているかな? みんな、箱選びは早い者勝ちだからね! あたしはこの箱にきーめた!」


言うなりひとつの木箱に手を伸ばすニケ。いつものこととはいえ、なんとも子供じみた行動である。


「おれは残りでいいから」


「アリス、残り物には福があると思ってんの? そういう考え方はもう古いからね! 欲しいものは一番に選ばないと!」


「いやいや、おれが一番に選ぶと、真っ先に怒るのはどこのどなたでしょうか?」


「やだー、世の中にそんな心の狭い人がいるなんて信じられなーい!」


「はいはい、訊いたおれがバカでした」


アリスとニケが毎度毎度のやりおりをしている間に、サクアとマモルはちゃっかり自分たちの木箱を選んでいる。



結局、おれのは残りものになるんじゃんかよ。



心中でグチをこぼしながらアリスも木箱に手を掛けて、中に何が入っているか確認する。


『ダブルオーヘヴン』において『武器』の選択は一番重要な要素といっても過言ではなかった。


なぜならば『ダブルオーヘヴン』には一般的なゲームでよく導入されているキャラクターの『レベル上げ』要素は一切なく、またキャラクターの『スキル』といったシステムもない。


つまり全てのプレイヤーが『まったく同じ状態』で戦うことになり、その中で唯一、武器だけはそれぞれのプレイヤーが任意で好きなものを選べるのだ。


その武器選択において、さらに重要なポイントがもう一点ある。それが武器(道具にも)には、それぞれ固有の重量が設けられている点である。


火力が強い武器ほど重く、逆に火力が弱い武器ほど総じて軽い。もっとも、軽い武器でも欲張って何種類も同時に持つと重量が嵩むことになる。ゲーム内に初めて『重量』という概念を導入したゲームにちなんで『ハイドライド仕様』とも呼ばれている。


さらに『ダブルオーヘヴン』には各プレイヤーに二つのゲージが用意されている。『生命力ゲージ』と『体力ゲージ』がそれにあたる。


『生命力ゲージ』はその名称の通り、敵に撃たれると減っていき、0になると『フォールダウン』と呼ばれる状態になる。『フォールダウン』状態になったプレイヤーはその場から動くことが出来なくなり、再び行動出来るようになるには、味方に『生命力ゲージ』を回復させる道具で助けてもらわなければならない。『生命力ゲージ』が回復するまえに、さらに敵の攻撃を受けてしまうと『リアルダウン』と呼ばれる状態になり、その瞬間にゲームから退場となる。所謂、ゲームオーバーである。


一方『体力ゲージ』というのはプレイヤーの体力を表示したものであり、プレイヤーが体を動かすごとにじょじょに減っていき、0になると息が上がった状態となり、その場から動けなくなる。しかし『生命力ゲージ』と違い、『体力ゲージ』はその場で休むことで自動的に回復する。


ここで武器・道具に設けられている重量が大きく関わってくることになる。


所持しているものの重量が増えると、プレイヤーはその分動きが遅くなり、また『体力ゲージ』も通常に比べて早く減ってしまう。言い換えれば、荷物が重たくて疲れてしまう状態になるのだ。


敵プレイヤーを素早く倒したいと考えて、火力の強い武器(重い武器)を所持して行動していると、いざ敵を前にして戦おうとしても行動に制限が出て、思うように動けないというハメになる。


反対に、火力が低い武器(軽い武器)を所持している場合は、プレイヤーの機動力が優先されることになり、素早く敵に近づくことが出来るが、火力が低いため一発で敵を仕留めることが困難となり、敵から反撃を受ける可能性がある。


それらの相反する要素をしっかり頭に入れて慎重に作戦を練りチームとして行動をしないとゲームには絶対に勝てない。


「ラッキー! あたしの欲しかった武器が入ってた!」


ニケは普段から使い慣れているサブマシンガンを引き当てたようで、さっそく手に持って構えている。


「わたしも当たりを引いたみたい」


サクラもまたいつも使っているアサルトライフルを引き当てた。


「こっちの木箱の中身は少し微妙だな。道具類はけっこう豊富に入っていたけど、武器はこれが二丁だけだったよ」


マモルは両手にハンドガンを一丁ずつ握っている。ハンドガンは重さが軽い。つまり火力が弱く、武器としてはサブ扱いになる。さらにマモルの足元には『生命力ゲージ』を回復させる『救急キット』と、『体力ゲージ』を回復させる『栄養ドリンク』が数個、律儀にきれいに並べて置いてあった。


「どうやら残り物には福があるっていう教えが当たりそうだな。それどれ、おれの箱の中身はと……えっ、ウソだろう? これって冗談だよな? 残り物には福があるっていうのは昔話の中だけなのか?」


アリスが開けた木箱に入っていたのは、どこからどう見ても子供用の『水鉄砲』だった。木箱の中にはランダムにいろいろな種類の武器や道具が入っているが、中には『ハズレ武器』も混ざっている。これは『バトロワ小説』の元祖と云われている作品に敬意を示して、わざと入れられた、いわば運営の遊び心である。


「ちょっとアリス、スタートから笑わせないでよ! ていうか、アリスにはそれが一番お似合いだけどね!」


ニケがさっそくイジッてくる。


「そんなこと言っているとこの銃で撃つからな!」


アリスは水鉄砲の銃口をニケに向けた。


「うぐっ! う、う、撃た……れた……」


ニケがわざとらしく胸を押さえて、さも苦しそうな表情を浮かべる。もっとも、目だけは笑っていたが。


「はいはい、二流の学芸会はそこまでにしてくれ。まったくせっかくの記念大会だというのに、これじゃ先が思いやられるぜ」


マモルがやれやれという顔で両手を叩いて、アリスとニケの茶番劇を強制的に終わらせる。


「ほらアリス、とりあえず次の武器を見付けるまではこれを使えよ!」


「おっ、マモル、サンキュー!」


アリスはマモルからハンドガンを一丁受け取った。これでだいぶ気持ち的に余裕が生まれる。水鉄砲はどうしようか迷ったが、ズボンのベルトにアクセサリー代わりに紐で括り付けておくことにした。この程度の重量ならば行動に支障は出ない。


「武器も手に入ったことだし、あたしの銃弾の餌食になるかわいそうなプレイヤーを探しに行こうか!」


武装化を完了したニケは手にしたサブマシンガンを早く撃ちたくてウズウズしているらしく、小屋の窓から近くに獲物がいないかとさっそく眺めている。


そんなご陽気なニケの出鼻をくじくような耳障りな音が小屋中に鳴り響いた。


「えっ、この音って? まさか試合が始まったばかりだっていうのにマジか?」


アリスはすぐさま手首に取り付けている情報端末を見つめた。


端末には画面が付いており、そこにはプレイヤーの『生命力ゲージ』、『体力ゲージ』、『所持品の総重量』、それから『ゲーム内の残りプレイヤー数』、そして『時刻』が常時表示されている。ゲーム内の世界にいるのでわざわざアナログな端末ではなく空間に3Dホログラム映像を出して確認することも出来るのだが、それだと戦っている最中は視界の邪魔になるので、多くのプレイヤーは端末で自分の今の状態を確かめることが多かった。


「あれ? これって運営からの緊急連絡だったよな?」


アリスの端末の画面左上部分に、赤い点滅マークが浮かんでいる。


「アリス、前にも一度こういうことがあっただろう? たしかあのときは首都圏で大規模停電が発生したから、大事をとってゲームを一旦中断するっていう連絡だったと思うけど」


「ああ、そういえばそんなことがあったよな」


マモルの言葉を聞いて、アリスもすぐに思い出した。『ソウルダイブシステム』という特別な技術を使用しているので、運営サイドもいろいろとトラブルには慎重になっているのだろう。


「今回一挙にプレイヤーの人数を増やしたから、何かコンピューターの問題でも起きたんじゃないのかな?」


サクラは若干不安げな面持ちで赤い光点を見つめている。


「えーっ、いきなり機械トラブルなの?  もう、どうなってんの! ブーブー!」


文字通りブーたれているチームメイトが約一名いるが、何か言えば八つ当たりされそうなのでアリスは聞こえない振りをした。


「とりあえず運営からの緊急連絡ならば待つしかないよな」


マモルが小屋にあったイスを自分の元に引っ張ってきてどっしりと座る。


「それじゃおれも座って待つことにしようかな」


アリスがイスに手を伸ばしかけたとき、目の前の空間に3Dホログラム映像が浮かび上がった。

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