第18話 レアアイテムは何処?
「さあ、おれたちもぼーっとしてないで突撃の準備にかかろう」
アリスは手にしたサブマシンガンの銃弾のチェックをし始めた。敵の目の前で弾切れになって、逆に倒されることになったら泣くに泣けない。
「いい、分かっていると思うけど、言われた通りに仕事をしなかったら、あたしが後ろから撃つからね!」
ニケは銃のことよりもランスを脅すことにご執心らしい。
「ちゃんとチームプレイに徹すればいいんだろう!」
ランスが口を尖らせる。
「よし、オレは準備が出来たぞ!」
「わたしも狙撃体制が整ったわ!」
マモルの声を皮切りにしてサクラが声を上げ、さらにミライたちの声が続く。
「私も狙いが定まったから!」
「私も準備はOKだよ!」
「アタシもいつでも撃てるから!」
「アタシも大丈夫! それよりも標的が建物の中に入る前に、早く作戦を実行しようよ!」
「よし、オレたちは十秒後に一斉狙撃をするから、ニケたちは同時に森から飛び出してくれ!」
「分かった! 後始末はあたしたちに任せて!」
ニケが手にしたサブマシンガンをNPCに向けて構える。
そして、きっかり十秒後――。
空気を切り裂くライフルの銃弾の音とともに、アリスは大木の陰から切り開かれた地へと飛び出していった。
目の前にいたNPCの警備兵が急に姿を現したアリスに気が付いてサブマシンガンに手を伸ばそうとしたが、それよりも早くライフルの銃弾がNPCの胸元に着弾する。ライフル弾一発では『フォールダウン』するまでのダメージは入らないが、NPCの体は大きくよろめく。
「チャンス! もらったぜ!」
すかさずアリスはサブマシンガンでNPCを撃ち抜いていく。
「ひとり、リアルダウンさせた!」
「俺もひとりやったぜ!」
「あたしは二人同時に倒したわよ!」
突撃組から成果の声が上げる。
アリスは次の標的に銃口をむけようとしたが、そのとき廃墟の方から異音が届くのを聞き逃さなかった。
うん? なんの音だ?
その一瞬が隙を作ることになってしまった。
「アリス、右側に注意して!」
サクラからの通信が入る。右に視線を向ける。同時に標的を視認するよりも前に引き金を引いた。
ライフルで撃たれて地面に倒れこんでいた別のNPCがまさにアリスに向けて発砲しようとしていたところに、アリスのサブマシンガンが先に着弾した。
ふーっ、危なかったぜ。冷や冷やもんだったけど、倒せたから結果オーライということにしておこう。これであと一人だ。
「サンキュー、サクラ!」
アリスは危機を教えてくれたサクラにお礼を言う。
「よし、ラストは俺が仕留めたぞ! さあ、一番乗りでお宝ゲットをするぜ!」
「ちょっと待った! ランス、廃墟の中から音が――」
アリスの忠告の声よりも先に、ランスが廃墟の傾いたドアを開け放つ方が早かった。同時に――。
「ぐわぁぁぁぁっ!」
銃声とランスの絶叫がユニゾンで響き渡る。ランスが痛みのためか、地面の上を転げ回る。
「廃墟の中にNPCがひとり潜んでいる! こっちで仕留めるから突入するのは待っててくれ!」
マモルからの指示が入る。アリスはいったんその場で伏せて、身を守る体勢に入った。さっき聞こえた異音は廃墟に隠れていたNPCのたてた音だったのだだろう。
おれの忠告をしっかり聞いていればランスも撃たれずに済んだのに。
アリスは舌打ちをした。ランスを早く回復させてやりたいが、NPCの銃撃を警戒しなければならないので、近づくことすら出来ない。
そのとき、外の様子を窺うようにしてNPCがドアの影から顔をのぞかせる。瞬間、何発かのライフル弾がNPCの体を直撃した。当たった弾数が多かったためか、NPCは一瞬で『フォールダウン』状態になる。
「アリス、突入するよ!」
ニケが倒れたNPCに止めを撃ち『リアルダウン』させつつ、ドアから廃墟内へと入っていく。
「ニケ、ランスはどうするんだ――」
「最後に目立とうとしたバカ者は少し頭を冷やした方がいいから! そのまま放置しておいて!」
なんとも無慈悲な命令だが、ランスが最後の最後に勝手な行動をしたのは事実なので、喚き散らしているランスのことは見ない振りをして、廃墟の中に入ることにした。
「あれ? 武器と道具はいっぱい落ちているのに、肝心のレアアイテムはどこにもないじゃん! もうどういうことよ!」
「えっ、外れを引いたのか?」
アリスもニケと同じように廃墟の一室を見回したが、たしかに通常の武器と道具は瓦礫に紛れてたくさん床の上に落ちていたが、レアアイテムらしきものは見当たらない。
「ニケちゃん、アリスくん、成果はどう?」
ミライたちが廃墟に入ってきた。
「通常武器ばかりで、これといった掘り出し物はなかったよ」
「えっ、そうなの? あれだけの警備体制だったから、絶対にあると思ったんだけど」
ミクルは床の上に散らばる武器をひとつひとつ手にとって念入りに確認している。
「残念だけど、しょうがないな。まあ、NPCが守る建物を制圧する訓練だったと思えばいいさ」
マモルがいつもの前向きな発言で落ち込む士気を高めようとする。
「おい、いつまで俺のことを放っておく気だよ! 早く回復させてくれよ! 体中、痛くてしょうがないんだよ!」
外からランスの悲痛な声が届くが、アリスを含めて誰ひとりとして返事をしない。
まったく本当に懲りない男だよな。
アリスはやれやれと首を振った。
「分かったよ! 俺が悪かったから! 目の前にレアアイテムがあると思ったら、体が興奮で疼きだして、気が付いたら走っていたんだよ! なあ、謝るから許してくれよ!」
ようやく謝るということに考えが至ったらしい。
「どうする? 助ける? それとももうしばらくの間、痛みでのたうち回らせておく?」
ノゾムはどっちでもいいけどといわんばかりの口調である。
「本当に世話がかかるやつだ」
仕方なさそうにマモルが外へと助けに向かう。
「とにかく、これだけの武器が手に入ったんだから、いったん車まで運ぼうか」
ミクルが銃を拾って、脇の下で抱え込む。
「そうだね。レアアイテムはなかったけど、これだけの武器があれば当分の間は困ることもないだろうからね」
ミライも武器運びを始めようと腰を屈める。
「ねえ、みんな、ちょっと待ってもらえる。もしかして、これがそうなんじゃないかな?」
サクラは抜け落ちた天井の残骸の陰に隠れてしまっている大きなコンソールを繁々と見つめている。
「ねえ、誰かこの瓦礫をどけるのを手伝ってくれる?」
「サクラちゃん、何か見付かったの?」
武器集めの手を止めて、ミライが瓦礫に向かう。
「瓦礫の移動なら、おれも手伝うよ!」
アリスは天井パネルと思われる瓦礫の端に手を掛けた。
「それじゃ、いっせーのせで動かそう! いくよ! はい、いっせーのせっ!」
サクラの掛け声に合わせて、三人で力を込めて瓦礫を横に平行移動させる。瓦礫の向こうに見えたのは、壁一面を占めるスクリーンと入力装置。埃まみれではあるが、さながらCIAの作戦室にあるような装置に見えなくもない。
「もしも、わたしの想像が正しければ――」
サクラがコンソールのタッチ式のパネルをいろいろといじり始める。すぐにスクリーンに明かりが点る。
「ねえ、これってこの島の地図が表示されているんだよね? やっぱりそうだ! この装置自体がレアアイテムだったんだ!」
レアアイテムの第一発見者になったサクラが歓喜の声を上げる。