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第17話 廃墟

アリスたちが乗る四輪駆動車の前を、ミライたち五人を乗せたピックアップトラックが先行する形でエリア内を軽快に進んでいく。


「なんだかあれじゃ、船の上で大漁旗を振っているようにしか見えないよな?」


四駆のハンドルを握るマモルが前方を走るトラックの荷台を見つめて苦笑を漏らす。


「自業自得というやつだからしょうがないでしょ」


相変わらずニケは容赦ない。


ピックアップトラックの荷台では真っ赤な服を着込んだ人間が、真っ白な白旗を全力で振っている。いろんな事情があったにせよ、とにかく仲間に加わることになったランスの初仕事は降伏を示す白旗振りだった。


アリスたちはミライが言った『お宝ハンティング』に向かっていた。『お宝ハンティング』とは『レアアイテム探し』のことだった。


『ダブルオーヘヴン』では通常の武器や道具類はエリア内に落ちているが、『レアアイテム』と呼ばれる特殊なものは人目の付かない所に隠されていたり、あるいは特別な建物内に置かれている。その為、通常通りにプレイしていたら見付けることは困難なのだが、ミライたちはそれを運良く見つけたらしい。


先を走っていたトラックが速度を落として四駆の横を並走する。トラックの全開した窓からノゾミが顔を出してきた。


「目的地はこの先に見える森の中央だから! 森の手前でいったん車は停めて!」


「分かった!」


サクラがエンジン音に負けない声で返答する。


「ねえマモル、ノゾミさんの声は聞こえた?」


「ああ、聞こえたよ。森に入る前で車を停めればいいんだろう」


マモルが四駆のスピードを徐々に落としていく。


「ちょっと、なんで休んでるの? 誰が休んで良いって言った? アタシたちに協力出来ないならば、今すぐ荷台から叩き落とすからね!」


ノゾムが荷台でしゃがみ込んで一休みしているランスに向かって怒鳴り声を上げる。



ゲーム内にも『ブラック現場』ってあるんだな。今ごろランスのやつも、おれたちの仲間に入ったことを後悔しているかもしれないな。



アリスはランスの心中を察して、胸の内でつぶやいた。


森の手前に着いたところで二台は並んで停まった。全力で旗振りをしていたランスもようやくお役御免となり、ぐったりと大の字で横になる。息も絶え絶えのランスは銃撃戦を繰り広げた後よりも、はるかに疲労困憊しているように見える。


「この森を抜けた先に廃墟みたいな建物があるのを見付けたの」


トラックから降ろした武器をてきぱきと装備しつつ、ミライが経緯を説明してくれる。


「わたしたちも四人で制圧しようと思ったんだけど、相手の武器と人数を見て止めることにしたの。これが通常のゲームならばやられることも覚悟してトライしているところなんだけど、なにせ今は自分たちの『魂』が懸かっているからね。でも、この人数と武器ならば制圧出来ると思って、ここに案内することにしたの」


レアアイテムが眠る建物には常に厳重な警備が敷かれており、簡単には手に入らない仕組みになっている。それゆえに手に入れたときには価値があるのだが。


「それじゃ、生きた盾のあんたが先頭を務めてね!」


ノゾミが当然のようにランスに最前線を行くように指示を出す。


「おい、俺がひとりで先頭かよ! これだけの人数がいるんだから、せめてコンビで行かせてくれよ! その方が安全だろう?」


ランスが荷台から飛び起きて主張する。


「目立ちたがり屋のあんたのことを考えて、あえてひとりにしてあげたんだからね! 文句を言われる筋合いなんてないから! だって、ひとりで活躍して目立ちたいんでしょ?」


「…………」


自分の悪癖を責められたので、ランスはぐうの音も出ない。


「心配するなって。おれがすぐ後ろでバックアップするからさ」


仕方なくアリスが名乗り出ると、ようやくランスは不承不承といった感じで先頭になって森の中へと足を踏み入れていく。


「そういえばミライさん、目的の廃墟まではどれくらいの距離があるんですか?」


「そうね、だいたい400~500メトールっていったところかな」


「分かりました」


アリスは歩きながら3Dホロマップを開いて、目的の場所の確認をする。マップ上にはたしかに建物が表示されている。しかし、そこに何が隠されているかはもちろん示されておらず、実際に行ってみて、自らの目で確認するしかない。


廃墟は森の中心に位置しているので、他のチームが先を越しているということはないように思われた。あるいはそこに行き着いたとしても、ミライの言葉が正しければ厳重な警備体制が敷かれているので、まだ制圧はされていないはずだ。



ということは、お宝はそのまま手付かずで残っている公算が大きいってわけだよな。



アリスは急いで胸算用する。これから先の展開を予想すると、レアアイテムがあった方が絶対にゲームを有利に進められるのは間違いなかった。


「おい、廃墟とやらが見えてきたぞ!」


先頭のランスの声を上げた。幸い、ここまでの道のりで敵チームと出くわすことはなかった。


森の奥にそこだけ木々が生えておらずに開けた場所が見える。中央に今にも崩れ落ちそうな廃墟が建っている。さらに廃墟の周囲には規則正しく動き回る人影が見える。その数六つ。


頭に被っている帽子と着込んでいるジャケットの目立つ部分に大きく『NPC』というアルファベットが書かれている。


NPC――ノンプレイヤーキャクターの略で『ダブルオーヘヴン』内では、レアアイテムはNPCによって守られていた。NPCの数は、そのままアイテムのレア度のバロメーター代わりになっており、NPCの数が多ければ多いほど、レア度は高いということになる。



六人の警備体制で守られているっていうことは、それなりのレア度っていうことだよな。これは期待していいかもしれないな。



アリスは注意深く六人のNPCキャラ全員の動きを目で確認した。


「お宝のニオイがぷんぷんするわね」


ニケは今にも手にした銃を連射しながら飛び出していきたそうな表情を浮かべている。お宝の発見よりも、むしろNPCとの戦闘を期待しているようだ。


NPCはプログラム制御されたAIキャラクターである。その為、倒したところで『魂』が『リアルダウン』することはないので、こちらとしても心置きなく倒すことに集中出来る。ニケも今までの状況で鬱憤が相当溜まっているだろうから、ここらでその鬱憤を晴らすのもいいだろう。



間違ってその鬱憤がこちらに向かってきたら堪ったもんじゃないからな!



アリスの心配はやはりそこだった。


一行はさらに慎重に前進していき、廃墟の前方が見渡せる大きな木の裏に陣取ることにした。ここからならば、それぞれのNPCの動きが詳細に観察出来る。


NPCに固有の能力の差というのは設定されていない。所持している武器による火力の違いがあるだけだ。そのあたりの設定は能力値に違いのないプレイヤーと同じである。注意すべきはその人数と火力だった。


「どう攻め込むことにする? こっちの人数ならば突撃してもやられることはないと思うが、オレとしては例のシステムのことを考えると、慎重に事を運んだほうがいいような気がするけどな」


マモルが言った例のシステムというのは『痛み』のことだろう。一度その痛みを体験しているアリスとしても、出来ればもう二度とあの痛みは経験したくない。


「そんなこと考えるまでもないじゃん。だって、あたしたちには全力で敵の銃弾を引き受けてくれる、優秀な生きた盾がいるんだから!」


ニケはとことんランスを酷使する考えらしい。


「おい、また俺に先頭をやれっていうんじゃないだろうな?」


ランスが自分の境遇に不満を漏らす。


「じゃあ逆に聞くけど、弾除け以外にあんたの使い道って、他に何があるっていうの?」


「いや、それはその……」


「だいたい、あんたはいつも目立つことばかり考えて行動していたから、肝心のプレイスキルは初心者レベルでしょうが! そんな人間を仲間に加えてやっただけでも、ありがたいと思ってほしいくらいよ!」


ニケがランスに言葉で止めを刺す。


「俺、もしかしたら仲間になるチームを間違えたかも……」


ランスが今さらながらにぼやくが、みんな聞こえない振りをする。


「突撃がダメということならば、ここから六人のNPCをそれぞれひとりずつライフルで狙撃して、残りの三人が全速力で廃墟に向かって、NPCに止めを刺すっていうプランでどうかな?」


マモルがプランBを提示する。


「まあ、それが妥当な作戦かもね。そういうことならば、わたしたち四人は狙撃を受け持つから、そちらからも狙撃役のふたりを選んでくれる?」


ミライに言われたので、アリスたちチームはいつも狙撃を担当しているマモルとサクラを狙撃係に選んだ。


これで突撃組はアリス、ニケ、ランスの三人となる。


「よしそれじゃ、狙撃組は狙撃体勢に入ろう。狙撃の準備が出来次第、作戦決行だ! 突撃組の三人は銃の準備をしておいてくれよ!」


マモルの号令一下、それぞれの準備に入る。狙撃組は地面に寝そべったり、ライフルを固定させるスタンドを出したりして、各々、得意な狙撃体勢を整える。

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