第16話 仲間、あるいは生きた盾
「とりあえず戦う意思がないことは分かったけど、少しくらいは尋問しないとね」
ニケはまだ手を緩める気はないらしい。
「おいおい、今ので俺の身の潔白はもう証明出来たはずだろう?」
ランスは当然の如く言い返してくる。
「それじゃ聞くけど、他の三人のチームメイトはどこにいるの? あんたひとりだけここにいるっていうのはおかしいんじゃない?」
「いあ、それはその……」
ニケに痛いところを突かれたのか、ランスは言いにくそうに口ごもる。
「もしかしてあんた、仲間を『リアルダウン』させて、自分だけ助かるつもりなんじゃ? もしそうだったら、今ここであんたを『リアルダウン』させるからね!」
ニケがすぐさま銃口をランスに向ける。
「あのな、そんなことするわけないだろう! いくら俺が自分勝手だといっても、そこまでひどいことはしないから! 俺の仲間はちゃんと生き残っているから!」
「じゃあ、なんで一緒に行動していないの? どう考えてもおかしいじゃん!」
ニケと同じくらい沸点が低いと思われるノゾミが食って掛かる。
「だから、それはこっちの作戦というか……いろいろと事情があってだな……」
またしても口ごもる。こう何度も解答を拒まれると、アリスとしても疑わざるを得ないという心境になってくる。
まさかとは思うけど、本当に仲間を見捨てて自分だけ助かろうとしているんじゃ……。
もしもそうならば、絶対にこの男とは仲間になれない。
「悪いけど、その点をちゃんと説明してもらえないかぎり、あんたとは一緒に行動出来ないからね!」
ノゾミが最後通告をする。
「――分かったよ! ちゃんと説明すればいいんだろう!」
「それじゃ、説明して! おかしなところがあったら躊躇なく撃つからね!」
ノゾミまで銃口をランスに向ける。本当にニケとそっくりな性格である。
「あんたたちだって俺のことはよく知っているだろう? 俺は自分勝手で目立ちたがり屋だから、一緒にチームを組んでくれるような仲間がいないんだよ! だから、いつも一人でこのゲームに『入魂』して、その都度、見ず知らずのプレイヤーとチームを組んでいるんだ」
『ダブルオーヘヴン』ではランスのように一人で『入魂』してもゲームに参加出来るように、チームをマッチングしてくれるシステムがある。
「それで俺と組んだ三人ははじめから俺のことが気に食わなかったらしくて、そこに例のハプニングが起きたせいで、チームの協力関係は一気に崩壊したんだよ! だから俺は自分の身は自分で守ることにして、チームを去ることにしたんだ! その方が安全だと思ったからな。俺がひとりで行動していたのは、そういうわけがあったからだよ!」
「それじゃ、その証拠を今すぐ見せてもらえる?」
ニケが銃口の先でランスの情報端末を指し示す。
「あんたの情報端末を使って、この場で三人の仲間と連絡をとって! 三人が生きていれば、あんたの話を信用して、あんたを仲間に加えることにするから!」
「いや、連絡はちょっと……」
自分の潔白が証明出来るというのに、なぜかランスは後ろ向きな様子だ。
「やっぱり仲間を『リアルダウン』させたんじゃ――」
「分かったよ! 今から連絡を取るから! それでいいんだろう!」
ランスが渋々といった表情で通信システムを使う。
「あのさ、俺だけど……今、みんなはどこにいるんだ?」
『はあ、今さら何の用なの? ていうか、あんたとはもうお別れしたはずだけど!』
『どうせひとりでいるのが怖くなって、おめおめと連絡してきたんだろう?』
『残念だけど、あんたともう一度組む気なんてこれっぽっちもないから! おあいにくさま!』
「いや、俺はそういうことを聞いているんじゃなくて――」
慌てたようにランスが会話に割って入ろうとするが、さらにマシンガンの如く罵詈雑言が乱れ飛ぶ。
『うちらはあんたを追放するって多数決で決めたんだから! もう連絡はしてこないでくれる!』
『そうだ! おまえの我がままに付きあっていたら、おれたちはすぐに敵チームに『リアルダウン』されちまうからな! おまえのせいで『魂』を消されたくないんだよ!』
『とにかく、あんたがこれからどうなろうと知ったこっちゃないから! おれたちはおれたちで自由にやっていくからお構いなく!』
「…………」
ランスが何も言い返せずにいると、通信は勝手に切れてしまった。
しばらくの間、静かな時間が流れていく。そして、マモルがその沈黙を破る。
「――つまり、なんだ、こういうことだろう? あんたが自らチームを去ったわけじゃなくて、あんたがチームから切られたというのが真相みたいだな」
マモルの言葉が正しかったことは、ランスの決まり悪そうな様子から察せられた。
「いつも目立とうとしてバカなプレイをしているから、肝心なときに人望を失うんだよね。まあ、これは当然の結果なんじゃないの」
ノゾミが辛辣な感想を述べる。
「ていうか、自分からチームを去ったっていうウソがバレて、逆にもう哀れみさえ感じるけどね」
ノゾムはさらに辛辣に扱き下ろす。
「本当に『追放ざまぁ』されるプレイヤーって実在したんだね」
さりげなくつぶやいたサクラの言葉が、さらにランスに追い討ちをかける。
「それでみんな、どうするんだ? こいつを仲間に加えるのか? それともこのままひとりにさせておくのか?」
マモルが最終的な判断の取りまとめに入る。
「このままここに放り出して、敵チームに見付かって『リアルダウン』でもさせられたら、さすがに後味が悪いからね」
ミライは今だ悩み中といったところだ。
「そうだね。なんだか道端で見つけた捨て犬をそのまま見捨てるみたいで、ちょっと気が引けちゃうかも」
ミクルはランスと捨て犬を同一視しているらしい。
「そうだ! 車の運転手専任として、仲間にするのもありなんじゃないの?」
「それいいかも! もしくは弾除け要員の生きた盾として、お情けで一応仲間に加えておくのもいいかも!」
この二人、完全に分かったうえでおちょくっているのだろう。
「分かったよ! なんとでも好きに言ってくれ! もうどう思われても構わないからさ!」
当の本人がついに言い訳することを投げ出してしまった。
「それじゃ、仲間も増えたところで、みんなにひとつ提案があるんだけどいいかな?」
唐突にミライが切り出した。
「えっ、提案ってなんですか?」
本人のせいとはいえ、落ち込んでいるランスが余りにも不憫に思えたので、アリスは場の空気を変えるべく、違う話題に飛びついた。
「あのさ、みんなで行きたい場所があるんだけど!」
「行きたい場所? どういうことですか?」
「ねえ、これからみんなでお宝ハンティングに行かない?」
これからピクニックにでも行かないとでもいうような口調でミライは言うのだった。