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第14話 仮面の下の素顔

「ここで立ち話をするのは危険だから、とりあえず小屋の中に入らない? 二人は外の警戒をよろしくね」


ミクルがそう言って先に小屋の中に入っていく。ノゾムがそれに続く。仮面の二人組はその場に残る形になる。


「アリス、あたしたちも小屋の中に移動しようか」


ニケとアリスは一緒に小屋の中に入った。


「オレとサクラは外を警戒していようか?」


マモルがアリスにチラッと視線を投げかけてくる。口に出さなくてもマモルが言いたいことは分かる。仮面の二人組は外を警戒するといっているが、その銃口がアリスたちに向けられないとはまだ言い切れない。だからマモルとサクラも万が一のことを考えて、二人組を警戒するために外で待機することを選んだのだろう。


「いや、マモルたちも一緒に小屋の中に入ってきてくれよ」


だから、あえてアリスはマモルにそう頼んだ。せっかく平和的に話し合いの場を持てたのに、下手な疑心暗鬼でこのチャンスをみすみす壊すようなことはしたくはなかった。すると―。


「二人も周囲に危険がなかったら、小屋の中に入ってきて」


ミクルはそう言うと、アリスの方に一瞬だけ意味深な視線を投げかけてきた。



わたしたちも疑心暗鬼に陥るつもりはないから。



ミクルの目はそう言っているように思えた。


小屋の中に入ってきたマモルはさっそく小屋の東側に設置されている窓を半分だけ開ける。外の様子を確認するためだろう。


遅れて小屋に入ってきた仮面の二人組も用心のためか、西側の窓を開けて、外に警戒の目を向ける。


「――さっそくだけど、あなたたちはこの事態をどう考えているの?」


ミクルがアリスたち4人の顔を順番に見つめてくる。


「あの男が言ったとおり、このゲームは乗っ取られたとおれたちは結論付けたよ」


アリスはチームを代表して答えた。


「ふぅーっ。その言葉、出来れば聞きたくなかったんだけど……」


ノゾムが横を向いて深くため息を付く。その気持ちは痛いほど分かるが、今は感傷に浸っているときでないことも事実なので、アリスは話を進めていくことにした。



そうさ。感傷に浸るのはこのバカげたゲームが終わったときでいい。それまでは生き残ることを最優先に考えないとな。



「おれだって出来ればこんなことは言いたくない。でも伊達や酔狂でゲームシステムを乗っ取る人間なんていないだろうし、ましてや、おれたちの『魂』まで人質にとるような人間のことを、どうせ何かの冗談だろうって笑って済ませるには、余りにも危険だと思うんだ」


「そうね、妹はまだ半信半疑なんだけど、私もそちらと同じ結論に至ったわ」


アリスの話をもっと聞くためか、ミクルが体を前方に投げ出してくる。


「でもどうすべきか分からなくて、正直混乱していたの。それでとりあえず武器だけ調達したら、どこかに隠れていようということになったんだけど、ちょうど武器を回収してこの小屋から出ようとしたときに、あなたたちが白旗を振っているのを見付けて、接触してみようということになったの」


どうやらどのチームも考えていることはそう変わらないらしい。武器で武装して、あとは様子を窺いながらじっと待つ。


「おれたちも武器を調達して、これからどうしようかと相談しようとしたときにトラブルに巻き込まれて……」


アリスは悲鳴を聞いてジャガンたちに襲われているボーイスカウトのチームを助けたことをミクルたちに話した。


「そう……そんなことがあったの……」


言葉数こそ少ないが、その表情を見ればミクルがどれだけ驚き悲しんでいるのかは察することが出来た。


「ジャガンたちがあの男の話を本気で信じているかどうかは分からないが、理由はどうあれ、このゲームに乗った連中が少なからずいるっていうことだけはたしかだよ」


「それで白旗作戦を思いついて、そういう連中にリアルダウンされる前に、出来るだけ多くの仲間を集めようということになったの」


サクラが手にした包帯が巻かれた木の棒を小さく振ってみせる。


「それはいい作戦だったと思うよ。現に私たちはそれに反応したんだからね」


ミクルが白旗を指差す。


「それじゃ、今からオレたちは合流するということでいいのかな?」


最終確認をマモルがする。


「ええ、わたしたちに異存はないわ」


ミクルが簡潔に答える。


「あたしもそれでいいんだけど、でも、まだそっちは疑ってることがひとつあるでしょ?」


ノゾムが挑戦的な視線をアリスたちチームに向けてきた。アリスはノゾムに心中の思いをずばり的中されて動揺を隠せなかった。


「他のチームに秘密を言うつもりはなかったんだけど、こういう状況ならば仕方ないよね?」


ノゾムがミクルに何やらお伺いをたてる。


「どうせいつかはバレることなんだから、もうタネ明かしをしていいんじゃないの?」


「姉の許可も貰ったことだし、それじゃ話すことにするね」


「いや、無理に話すことはないからさ……」


アリスは聞きたいという気持ちをぐっと押さえてつけて、表面上はそう取り繕った。


「でも、あなたたちはあたしたちのことを信用してくれたわけでしょ?」


ノゾムが窓際に立つマモルとサクラに目を向ける。マモルが外の見張りをするといったとき、アリスはあえてそれを断って一緒に小屋の中に入るように言った。それはいらぬ疑念をノゾムたちに抱かせないためであった。どうやらノゾムはそのことに気が付いていたらしい。


「今の状況を考えたら、少しでも疑いを抱かせるような点はなるべく早く排除した方がいいでしょ? そのほうがお互い信頼できて、協力もできるからね。今あたしたちは『魂』を懸けた戦いをしているんだから、なおのこと気持ちをひとつにしないとね。この先相手を信じられずにちょっとしたことで連携が乱れたら、それが命取りになるっていうこともありえるでしょ? まあ、このゲームでは命取りというよりは『魂取り』っていったほうがいいかもしれないけど。とにかく、そういう状況には陥りたくないからね!」


「分かった。そこまで言ってくれるのならば、こちらも正直に言うよ。君たちの神出鬼没なプレイがおかしいなあと思うことはよくあったよ。もしかしたらチートかもって疑いも持っていた。そのことについて説明してくれるのならばぜひ聞きたい」


アリスは包み隠さずに全部正直に答えた。


「それじゃ種明かしを見せるから。――二人ともいい?」


ノゾムが壁際に立つ仮面の二人組に声を掛ける。ノゾムの声を聞いた二人組がその仮面に両手を掛けて、ゆっくりと外していく。果たして、仮面の下から現れたのは――。


「そういうことだったのね。考えたものね」


感心したという風にサクラが感想を漏らす。


「これじゃ、やられるはずだよな」


マモルも感嘆の声を上げる。


「なんでこんな簡単なことを今まで見抜けなかったんだろう」


負けず嫌いなニケは少し悔しそうに口元を曲げている。


チートを疑いたくなるような神出鬼没かつ奇想天外なプレイスタイルの秘密。それは――。


「なるほどね。双子だったというわけか!」


アリスは腑に落ちる思いがした。


双子のひとりが倒されそうなピンチに陥ると、もうひとりが違う場所からさっそうと現れて、あたかも一瞬で場所移動したように見せかけて、敵チームを混乱させていたのだ。


「その服装もわざとなんだ?」


「そういうこと」


仮面を外したノゾムそっくりの顔をした少女が笑みを浮かべる。ローブをゆっくりと脱ぐと、その下に着込んでいたのはノゾムとまったく同じメイド服だった。


「こういうゆったりとしたローブを着込んで、体型もカモフラージュしていたの。見た目の違いが大きければ大きいほど、人の目は簡単にごまかせるからね」


ミクルにそっくりの女性が艶然と微笑む。


「そういえば自己紹介がまだだったわね」


「えーと『(エフ)』さんと『(エイチ)』さんっていうんじゃないの?」


アリスは記憶をたどりながら訊いた。


「それは双子というのを隠すために付けた名前なの。これからは一緒に行動するんだから、ちゃんと名乗ることにするわ。わたしはミライ。『F』というのは『フューチャー』の頭文字なの。ちなみに漢字で書くと『未来衣(みらい)』。ミクルは漢字で書くと『未来琉(みくる)』っていうの。よろしくね」


「あたしはノゾミ。漢字で書くと『(のぞみ)』で、ノゾムは『(のぞむ)』って書くの。二人合わせて『希望』よ。さらに姉とあわせると『未来の希望』になるの。ちなみに『H』というのは『ホープ』の頭文字だから」


「ノゾムさん、ノゾミさん、ミクルさん、そしてミライさん、4人ともこれからよろしく!」


アリスは改めて挨拶をした。


「こちらこそよろしく頼むわ」


ミライがチームを代表するように挨拶を返してきた。


お互い初めて他のチームと合流できた喜びを分かち合おうとしたそのとき、西側の窓から黒い円筒形の物体が小屋の中に飛び込んできた。カランという軽い音とともに床の上を転がっていく。



おい、マジかよ! また手榴弾なのか!



アリスが心の中で絶叫した――。

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