鼻のない雪だるま
『第3回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』投稿作品です。
指定キーワードは『雪だるま』
初投稿作品ですので、暖かい目でお読み頂けると幸いです。
夜、仕事帰りに頼まれた買い物を済ませて、昨日の夜から降り続けて積もりに積もった雪を踏みしめながら転ばないように家路を急ぐ。
「じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、牛肉、牛乳となると明日はカレーかぁ。麗華が辛いのをまだ食べられないから、どうしても甘口になっちゃうんだよな。まぁ、優希の作るカレーは甘くても美味しいんだけど偶には辛めのカレーが食べたいなぁ」
多分、それを言ったらカレー屋さんに行くことになるんだろうなと、そんなことをつらつらと考えながら歩いていると、電柱の側で街灯に照らされて寂しげに佇む雪だるまに気付く。
背の高さが僕の胸まであるその雪だるまは、頭にバケツを被り、石の目に小枝の眉毛と口のなかなかに立派な雪だるまだった。
「この大きさの雪だるま、作るの大変だったろうなぁ。んー、でも何か違和感があるような?何だろうな、何か足りないような?あっ、この雪だるま、鼻がないんだ!」
そう、その雪だるまには鼻がなかったのだ。立派なだけに鼻がないのは勿体ない、何か鼻になるようなものはないかと周りを見回すものの、そうそう都合よく落ちている筈もなく、腕を組んで考え込む。
丁度、鼻の材料になるものを持っている、持ってはいるもののこれを使うと優希に怒られそうな気がする。とはいえ鼻のない雪だるまは眉が下がっていて、何処か悲しそうに見えて放っておくのも心苦しい。
「まぁ、一本くらい減ってもいいか。写真を撮って見せたら納得してくれるだろうし。ちょっと痛いかもだけど我慢してね?」
一袋に三本入っているにんじんの中から一番小さいものを選び、太い方を顔に当ててぐりぐりと押し込んでいき、横から見て丁度いいところで押し込むのを止め、周りの雪の綺麗なところを取って埋め込んだところを補強しておく。
それから下がっている眉を少し上に向けて、スマホで写真を何枚か撮っていると、自己満足かも知れないけれど何となく喜んでくれているような気がしてくるから不思議だ。
「これで良し、と。直ぐに溶けないといいね、雪だるまくん。明日、もしかしたらみんなで見に来るかも知れないからそれまで頑張ってくれると嬉しいな。それじゃあ、ばいばい、じゃなくてまたね」
手を振ってゆっくりと歩き出し、ときどき振り返る。
電柱の下で街灯に照らされ佇む雪だるまは、心なしか少し明るい雰囲気になっているような気がした。
お読み頂きありがとうございました。