「俺のターン!ドロー!婚約破棄!」
ライトニング王国の首都ライゴンにある王立学校の大広間では、卒業パーティーが開催されていた。今年の卒業生には第一王子のレッジ・ライトニングもおり、特別に豪勢なパーティーとなった。パーティーが開始されてから三十分程経ち、参加者がそれぞれ自由に会話を楽しんでいる中で、突然レッジは声を挙げた。
「皆、聞いてくれ!」
金髪で高身長のレッジはその美しい容姿と類まれな人格により人望が厚く、次代の王にふさわしい人物であると評判の青年だった。この会場の誰もが、彼が何を言うのかその続きを待ち視線を向けた。彼の隣には、地方の無名貴族でありながらレッジの寵愛を受けているとの噂があるソフィー・ビッツァニアもいる。彼女はそのピンクの髪と同じように頬を染め、集まった視線に恥ずかしそうに微笑している。
レッジの視線の先には、彼の婚約者であるアイリーン・ゴールドマンサックスがいる。容姿にまだ幼さが残るのに、まとう冷静沈着な雰囲気がどこかちぐはぐな印象を与える金髪の女性だ。ソフィーとは対照的に、無表情で冷たくその視線を受ける。パーティーの参加者はそれに気づくと、自然と道を開けた。レッジとソフィーはアイリーンのもとへゆっくりと歩を進めた。
「なんでしょうか」
アイリーンは平坦な声色で問う。
「この三年間ソフィーは嫌がらせを受けてきた。ある時は急に突き飛ばされ、またある時は脅迫の手紙が送られた。そしてその嫌がらせの首謀者はアイリーン、君だね」
会場がざわつく。婚約者の罪を自ら裁こうとするレッジの意図を理解できないのだ。そんな中で、ソフィーだけはわずかに口角が上がっていた。
「つまり、そういうことなのね」
アイリーンは目の前のレッジにだけ聞こえるように呟いた。レッジはそれに真剣な顔でうなずく。
そして――
「これよりデュエルを開始する!フィールド展開!」
レッジが高らかに宣言すると、薄い緑に色づく半透明な魔法結界がアイリーンとレッジを包む。会場の誰もがこの状況を理解できなかった。それはソフィーも例外ではない。先ほどまで上がっていた口角は、いまや困惑によって歪められている。
「どういうことです!?というかこれはなんですか!?」
レッジに駆け寄ったソフィーは魔法結界によってはじかれ、そのまましりもちをつく。レッジはソフィーを一瞥することもなく、「大丈夫。絶対に勝つ!」と叫んだ。
「ようやくだ……。八年ぶりだなアイリーン!」
レッジは獰猛な笑みを浮かべ、鋭い視線でアイリーンを見据える。対するアイリーンは心底呆れたような、しかし確かに笑みを堪えた表情でレッジを睨み返す。
誰もがそのあまりに異様な光景に驚嘆し、何も言葉を発することができない。ソフィーは魔法結界を殴っていたが、傷一つつかないことが分かると、何も言わずにその光景を見ることにした。
「執念深い方ですね。安心しなさい。すぐに終わらせてあげます」
平時のアイリーンらしからぬ不遜さ。彼女はわずかに腰を落とす。その顔にはいつもの美貌ではなく、レッジと同じ獰猛な笑みがある。
「言ってくれる!昔の俺とは違う!今日こそお前に勝つ!」
「来なさい」
「俺のターン!ドロー!」
いつの間にか二人の手元には三枚のカードがあり、空中にはそれぞれカードの束――デッキがある。レッジはデッキの一番上から一枚をめくり手札に加えた。そして手札の一枚を右手の人差し指と中指で挟み、そのまま掲げる。
「魔力3を支払い、ユニット【ソフィーいじめの証拠:ソフィーの証言】を召喚!」
そのカードにはソフィーがアイリーンからのいじめを受けている旨をレッジに告げた時の様子が映っている。カードは自律的に動き、内容をアイリーンの側に見えるようにして空中で静止する。カードの下の方には体力5、攻撃力3と表示されている。
この一連の流れに、会場は再びざわめきだす。このような繊細な魔力制御を必要とする術を軽々と行うレッジはいったい何者なのか。そしてなぜそれをこのゲームに使うのか。なぜあれほどレッジのテンションは高いのか。謎が謎を呼び、しまいには実は王子は魔王の子であるという不敬な冗談までが飛び交う。しかし、それを責めるものは誰一人いない。
「……ドロー」
アイリーンは静かにデッキをめくる。そのまま表情を変えずに、レッジと同じようにカードを掲げる。
「魔力3を支払い、ユニット【客観性の壁】を召喚。客観性の伴わないもの、主観的な主張に対して体力、攻撃力ともに10追加されるわ」
【客観性の壁】は体力攻撃力ともに0だが、特定の条件で大きく強化されるタイプのユニットだ。そのトリッキーさに、ギャラリーの内の数人が「おお!」と声を挙げる。どうやらこのデュエルのルールを理解し始めたらしい。その声に気づいたアイリーンの頬は紅潮する。
「ヘッ!ご丁寧に特殊効果まで読みやがって!なつかしいなァ、アイリ-ン!」
レッジは魔法結界がビリビリと振動するほどの大声で話す。もはや一国の王子とは思えない口調、振る舞いだ。
「うっさいわね。さっさとターンを始めなさい」
「おう!俺のターン!ドロー!」
レッジは引いたカードを見るとニヤリと笑う。
「まずは【ソフィーいじめの証拠:ソフィーの証言】でアタック!」
「は?もちろん【客観性の壁】でブロック」
【ソフィーいじめの証拠:ソフィーの証言】は客観性の壁に阻まれて消滅した。アイリーンは何がしたいと言わんばかりの視線でレッジを見ると、彼が勝ち誇ったような表情をしているのに気付いた。
「魔力6を支払い、ユニット【ソフィーいじめの証拠:ロッドの証言】を召喚!ターン中に味方ユニットが破壊されていた場合、このユニットは召喚酔いを起こさない!」
「それがなによ。また客観性の壁でブロ――ッ!」
そこまで言ってアイリーンは気づく。ロッドは騎士団長の息子でレッジの男友達。つまり、このユニットはソフィーと無関係な者によってなされた客観的な証言とみなされるため、客観性の壁ではブロックできない。アイリーンの顔から血の気が引いていく。
ギャラリーもその意味が分かると、固唾をのんでカードの動きを注視する。ソフィーは「私捨て駒……ねぇ……捨て駒?」と繰り返すが、それに応える者はいない。
【ソフィーいじめの証拠:ロッドの証言】はアイリーンに近づくと、そのカードの中から騎士の装備をつけたロッドが空中に映し出される。そしてその映像のロッドは剣でアイリーンの胴体を切りつける。剣はアイリーンの左肩から右腰までを通過する。
「ああああぁぁ!!」
攻撃されても外傷はないが、痛みは感じる仕組みになっている。大広間にアイリーンの絶叫が響き渡る。いつもは冷静に振る舞う彼女の叫び、苦痛に満ちたその表情に、ギャラリーは静まり返る。そして、現実のロッドに視線が集まる。
「えっ……。いや、あれは俺じゃないって、ただの映像でってちょ、うわぁぁ!」
理不尽にロッドへのリンチが始まるのであった。
アイリーンは気力で痛みに耐え、レッジを睨みつける。しかしその表情は心底楽しそうに、片方の口の端を釣り上げている。
「へぇ……。結構やるようになったわね」
「あぁ。俺はこの八年間で変わった。三百六十五日、四六時中、生活のすべてをお前に勝つためだけに捧げてきた!今日こそ俺はお前に勝つ!そして失ったものを取り返す!」
――王族のレッジと有力貴族の娘アイリーンは、幼いころから交流があった。二人は共に優れた魔法の才能を持っていたが、立場上その全力を発揮できる機会はなかった。そこで二人は交渉や弁論の練習と称して、その交渉や弁論の材料となる事象や方法論をカードにする技術を開発した。カードはその根拠や影響力によって相対的に能力が設定され、実際にカードを作るまではわからない仕組みとなっている。複雑な魔法理論と高度な知的訓練を要するこのゲームをデュエルと名付け、幼い二人は公然とデュエルを楽しむようになった。しかし八年前、レッジとアイリーンが十歳の頃に、唐突にそれは終わりを迎えた。
「魔力5を支払い、スペル【論文の掟】を発動。主張についての具体的な論拠を引用できないカードは全て無効化されるわ。どうせアンタは真面目なカード持ってないんだからさっさと負けを認めなさい」
「ぐっ、……降参だ」
レッジとアイリーンはいつものようにデュエルを行っていた。そしていつものようにアイリーンが勝つのであった。レッジは通算で三回しか勝利したことがない。デュエルの開発や、特に魔法結界に関してレッジは天才であったが、デュエルそのものについてはアイリーンの独壇場だった。
「また負けちまったぁー。つか最近お前機嫌悪くねーか?どうしたよ?」
事実、最近アイリーンは多少強引に、最短で勝利を決めてしまうことが多くなった。アイリーン自身はその理由がはっきりとわかっていた。
二桁の年齢に入り、貴族としての礼節などが本格的に教育され始めた影響で、アイリーンにはデュエルを行うことが恥ずかしく思えてしまったのだ。さらに彼女は、王族であるレッジと気軽に会話するこの状況が、異常なものであると理解してしまった。しかし、レッジは相変わらずデュエルを楽しんでいる。その能天気さが余計にアイリーンを苛立たせたが、同時にそんな彼に無粋なことを言うのは躊躇われたため、一人で悩む他ないのであった。そして彼女は決断した。
「アンタが弱すぎるからこのゲーム飽きたわ。だからもう、これでおしまい」
「は?おいおい、そりゃねーだろ!俺とお前以外にプレイできる奴なんていないのに、お前がやめたらやる相手がいなくなっちまう」
「知らないわよ!そんなにしたいなら一人でやればいいじゃない!」
「なんでお前が怒るんだよ……」
レッジは悲しみと困惑の入り混じった表情で、アイリーンの瞳を見つめた。彼女はその真っ直ぐな視線に耐えられず、目を逸らした。
「とにかく、もうデュエルはしないから。じゃあね」
アイリーンはレッジに背を向けて、足早に立ち去っていく。レッジは引き留めるため、その後ろ姿に何か声をかけようとしたが、適切な言葉が思い浮かばない。しかし、彼女が退室する寸前に、縋る思いで口を開く。
「じゃあ、俺がお前に勝てるようになれば、デュエルするんだな」
「はぁ?だから私は」
「【反対解釈】!」
「ッ!」
「ある事項についての規定は、それ以外の事項には適用されない。お前の切り札だろ」
今回の場合は反対解釈でも何でもないと、アイリーンは思った。しかし、レッジの言葉が持つ切実な祈りのような響きを前に、それを指摘することはできなかった。
「……そうね」
「待ってろ。必ずだ」
アイリーンは胸の奥に苦い痛みを覚え、逃げるように退出した――
デュエル開始から三十分が経過し、二人のライフはお互いに半分を切っていた。もはやオーディエンスの全員がデュエルのルールを理解していた。レッジとアイリーンのどちらが勝つか賭けが行われ、二人の一挙手一投足に歓声と悲鳴があがる。そんな熱狂の渦の中には、ソフィーと腫れた顔のロッドもいた。
ソフィーはアイリーンに賭けていた。今までの二人の会話から、アイリーンの方が勝率が高いことを推し量ったためだ。オッズはアイリーンの方が高いため大きい稼ぎは期待できないが、彼女はあくまで統計学に基づいて勝ちにこだわる。地元ではカジノ泣かせの異名で知られており、カジノが彼女に金を払いきれなくなったことを理由に、そのカジノを公営化するという荒業を成し遂げている。
ロッドはレッジに賭けていた。レッジのせいで顔を殴られたといっても過言ではないというのに、彼は実に義理堅い。
「これでどうだ!」
「ああああぁぁ!」
戦況はレッジに有利になってきた。さすがに八年間練りに練ったカードが弱いわけがない。対してアイリーンはほとんど八年前のデッキで戦っている。彼女のカードは基本的な学問的態度や方法論などが多く、それらは能力が高いが魔力の消費量も多い。したがって多数展開することが難しく、物量で押すレッジの攻撃に対処できなくなっていた。また、今回の議題は先行のレッジに委ねられているため、【ソフィーいじめの証拠】の実在や、アイリーンが行ったとされる行為に対する非難可能性が論点となっており、それらに具体的に対応するためのカードがないことも、彼女を苦しめる一因となっている。
「クッ、まさかここまでとは……」
「これが八年間の差だ。今日こそ俺はお前に勝ち、そしてこれからも勝ち続ける!」
「私は負けない!アンタがどんなに強くなろうとも!」
二人の会話にオーディエンスが雄たけびを上げる。二人の熱い思いに乗せられて、涙を流している者すらいる。そしてアイリーンのキャラクターの変化にツッコむ無粋な輩はいない。
彼女の手札は一枚だけ。しかしそのカードは最初の手札からずっと使用されていないもので、つまりはこのデュエルでは不要なカードの可能性が高い。次のターンで良い手札を引かないと彼女の敗勢が濃厚になる。
「私のターン!ドロー!」
アイリーンは祈りを込めてデッキをめくる。彼女は引いたカードを見ると、小さく苦笑した。
「魔力5を支払い、スペル【論文の掟】を発動」
八年前のあの日に使用したスペルをここで使うことになるとは、つくづく人生は皮肉なものだとアイリーンは自嘲する。魔法の才能があったとはいえ、貴族の娘であったためにレッジと出会い、結果としてデュエルを開発した。しかし、今度は貴族という立場によってデュエルを止めることになった。その自ら止めたデュエルを、今は人目もはばからずに大声で叫びながらプレイしている。彼女は八年前と現在が連続している時間感覚を得た。ようやく、過去と現在の自分の同一性を認めることができた。
「効果は……言わなくてもわかるわね?」
「あぁ」
今相手の場にあるユニットは【ソフィーいじめの証拠:ライトニング探偵社の記録】、【ソフィーいじめの証拠:ライトニング新聞社の秘蔵記事】、【ソフィーいじめの証拠:王国騎士団特殊偵察部隊の調査】。どれも実績と中立性が十分であるため、スペルの効果を受けなかった。
「来なさい」
「あぁ」
レッジは深呼吸してからデッキの上に手を置く。
「俺のターン!ドロー!」
引いたカードは黄金に輝きを放ち、彼はその内容を確認することもせずに高く掲げる。
「魔力10と場の【ソフィーいじめの証拠】を三体支払い、ユニット【婚約破棄】を召喚!」
彼は堂々と宣言した。【婚約破棄】の召喚には魔力だけでなく【証拠】シリーズのユニット三体を代償に支払うことになる。しかし、その能力は三体の合計を遥かに上回るに留まらず、デュエル外の現実にすら影響を及ぼす。すなわち、現実に婚約破棄を宣言したことになるのだ。
その能力を確認したオーディエンスは、このデュエルにかけたレッジの覚悟を改めて見せつけられ、畏敬の念を抱いた。【婚約破棄】はただの議題に過ぎないと序盤で割り切っていたソフィーにとっては、そんなことよりもこのままアイリーンが負けて、賭けに負けてしまうことの方が問題であったため、「卑怯だろー!無効だ!無効!」とレッジにヤジを飛ばす。
【婚約破棄】が空中にレッジを映し出す。映像のレッジは剣を手に取り、アイリーンの首にあてがう。あれほど騒いでいたオーディエンスも、今は咳払いすらしない。アイリーンは胸の前に組んだ両手の中に手札を握りしめ、目を閉じる。まるで宗教画のように、荘厳さと慈愛が大広間を満たしていた。レッジがゆっくりと腕を引き、静止する。
遂に映像のレッジの体が動く。映像とはいえ人の斬首を見ることは耐えられないと、オーディエンスは思わず目を瞑った。レッジだけは、目を逸らすまいと苦々しい顔でアイリーンを見つめている。そして銀色の刃は素晴らしい速度で振られ、アイリーンの首を滑らかに通過した。
「うっ……」
痛みに耐えるアイリーンのくぐもった声が、静寂の中ではよく響いた。外傷がないとはいえ、一度に大ダメージを与えられればかなりの激痛が走る仕組みになっている。オーディエンスはその痛みを想像して、しばらく目を開けなかった。
おそるおそる目を開いたオーディエンスが見たのは、異常な光景だった。
「フッ……フッ……フハハハハハハ!!」
突如アイリーンが爆発的に笑い出したのだ。目も鼻も口も全開に開かれており、その狂気に染まった表情はオーディエンスを恐慌状態に陥らせた。失神するものまで現れてしまった。レッジも困惑し、体をこわばらせた。
やがてアイリーンは、唯一の手札――デュエル開始時から持っていた手札――を右手の人差し指と中指に挟み、右腕をゆっくりと上に伸ばす。腕が伸び切った時、カードから鮮やかな紫の光が放射される。魔法結界の中だけでなく、大広間全体が紫に染め上げられる。彼女が右腕を頭上から正面へと振り下ろすと、突如光は消失した。そしてカードの文面が明らかになる。
「魔力10を支払い、トラップ【悪役令嬢】を起動!【婚約破棄】によってライフが尽きた場合、このデュエルに勝利する!」
大広間を耳が痛いほどの静寂が支配する。
そして――
「ウォォォォォォォ!!」
「信じてたぜアイリィィィン様!!」
「ヨッ!大女優ゥ!」
「アンタは悪役令嬢の中の悪役令嬢だァァァ!」
大広間の内側から壁を突き破るほどの勢いで、歓声が爆発した。どちらが勝つという賭けのことなど、誰も気にしていなかった。群衆はもはや、同級生でもパーティーの参加者でもなく、ギャラリーでもオーディエンスでもなかった。二人のデュエリストのファンという共通項を持った、一つの共同体だった。それは博打の鬼であるソフィーも、顔面が肥大化したロッドも例外ではなかった。
興奮のあまり暴徒と化す寸前の共同体の中で二人はしばらく見つめあい、やがて彼はバツが悪そうに頭をかきながら、口を開いた。
「また、負けちまったな。まさか【婚約破棄】が対策されてるとはな」
「お見通しよ。私に勝てるわけないでしょ」
「そう……かもしれないな」
彼の珍しく弱気な反応に彼女は拍子抜けする。しかし、彼が晴れやかな笑顔を浮かべていることに気づくと、なぜか彼女はつられて笑顔になってしまうのだった。
「なによ?」
「いや、お前に挑戦する条件、破っちまったなと思ってさ」
「たしかにそうね」
「でも――」
そこで彼は言葉を区切り、彼女を真剣な表情で見つめ直す。彼女は次に発せられる言葉を知っている気がした。
「でも、失ったものは取り戻した」
「……うん」
彼女は何となく気恥ずかしくて、俯きながら同意した。
共同体となった彼らのファンは街に繰り出していった。乱雑に散らかった大広間には、彼らしかいない。彼女は彼の目を見つめながら歩み寄っていく。彼女の目の美しさに、彼は思わずどぎまぎしてしまい、彼女が近づいてくるほどに鼓動が速くなっていくことを自覚した。顔を赤くした彼を至近距離から見上げて、彼女は太陽のような笑顔でこう言うのだった。
「それで……。結婚するの?しないの?」