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現代百物語

現代百物語 第13話 隣の人

作者: 河野章

「隣の人が煩くて……」

 珍しく谷本新也アラヤは藤崎柊輔に愚痴っていた。

 先々月は幽霊に失恋し、新居で行った誕生日では不要で不穏なバースディケーキを貰ったばかりだ。仕事は忙しく、寝る時間が最近はまともに取れてない。

 そういう愚痴だった。

「年々ぐ愚痴っぽくなるな、お前」

 藤崎は先輩として遠慮もなくそう言った。

 眠いや疲れたと愚痴を言う人間は大抵、藤崎から見れば甘えである。そういう暇があれば寝ればよいのだと思う。

 ストレスなど寝てしまえば、発散される。軽いものであれば、だが。

「寝ろよ、話は聞いてやるから」

 勝手に新也の冷蔵庫を開けて、缶ビールを取り出しつつ藤崎は言った。

 2人は高校時代の先輩と後輩という仲である。

「隣の人が煩いんですよ……」

 もう一度言いながらも、新也は大人しく従って、ベッドへと這いずっていく。相当に疲れているようだった。

「……大丈夫か、お前」

 一応、藤崎が心配するのにはわけがある。

 新也には不思議な体質があるのだ。

 ありとあらゆる不思議、怪奇、ホラーな現象を引き寄せてしまうという体質だ。

 今日も本人にしか分からない何かがあるのかもしれなかった。

「いや、……だって隣が煩いんで、眠れないんですよ。今も」

 部屋はしんと静まり返っている。

 耳を済ませても2人の息遣いしかしない。

「隣……?」

 と藤崎は、新也がベッドを置いている側の壁へ寄った。

 そっと耳を押し当てる。

「……何も聞こえないぞ」

 新也に告げる。新也は心底迷惑そうに、自分と藤崎の間、藤崎の右隣を指さした。

「その隣の人ですよ」

「……」

 流石に、藤崎も少し身を引いて自身の隣を見た。勿論誰もいない。

 新也はベッドへ潜り込むと頭から布団をかぶり、腕だけを差し出して、指で室内を指差す。

「今はそこです。……死ねだの殺すだの、物騒で仕方ないんです。僕が弱るとたまに出てくる人なんですけど……」

 一旦離れても、すぐ隣に来るんです、と新也は呻く。

「耳元でわめき続けられると、それだけでもう寝れなくて」

 見目や形は出るたびに、違うらしい。

 精神的に弱ると、隣に影が現れだす。それは最初モヤのような形を取っているが次第に人形になる。

 そして、生きている知り合いや死んだ知り合い、全く関係ない、どう見ても死体だと分かる姿の人間がいつも同じセリフを言うのだ。

「先輩がいれば、すこしはどうにか気が紛れるかと思ったんですけど……無駄でした」

 新也は布団の中で意気消沈した様子だった。

 藤崎は憤慨した。

「先輩に対して無駄とは無礼な。……まあ、今日は許してやるか」

「……」

「今、そいつはどこにいるんだ?」

「……僕と先輩の間、隣にいますよ」

 くぐもった声で新也が切なく告げる。

「しょうがないから、ビール一本分だけ側にいてやる」

 藤崎はそう言って、ビールをもう一本取り出し笑った。



【end】

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