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最凶賢者、セクハラで辺境へ左遷される。  作者: 士口 十介
最凶賢者は辺境へ行く
6/18

最凶賢者のお掃除

 私が魔物使いテイマーを“深淵の図書館”へ送り込んだことで、彼が使役していたゴブリンはそのくびきから解放された。

その結果、本来のゴブリンらしい行動を行うようになった。


 再び空へ上り様子を窺った時には先ほど迄あった隊列は今や見る影もない。

我先に獲物に飛びかかろうとする知性の低い魔物の群れが存在した。

すぐ近くの家屋(どうやら農具を置いておくところだったようだ)へ押し入り中の物を我先に奪い合っている。村の畑は散々踏み荒らされ、ゴブリンの死骸や汚物で汚染されているのが見えた。


(む?意外に簡単に使役が切れる物だな……。)


 無論、魔物使いテイマーの使役の効果は簡単に切れるものでは無い。これは“深淵の図書館”が異なる世界、異なる次元に存在する為である。その為、そこに送り込まれた魔物使いテイマーの使役の効果が切れてしまったのだ。


 空から見るとゴブリンは黒いシミの様に見え、それがゆっくりとだが周囲に広がってゆく。再び右手を前に突き出し体を弓なりに反らすとゆっくりと回転しながら指を連続で鳴らした。


パキィツ!パキィツ!パキィツ!パキィツ!パキィツ!パキィツ!パキィツ!パキィツ!


 音が鳴ると同時に石の壁が出現する。その石の壁は村の周囲をくるりと覆っていた。中には石の壁につき上げられ空高く舞い上がってしまったゴブリンもいた様だ。


(よし、周囲を石の壁で覆ってしまえばゴブリン程度では突破できまい。後はゴブリンを殲滅するだけだな。)


 ゴブリンは一匹見たら十匹いると思えと言うほど、繁殖力の高い魔物である。その上、体のどの部位をとっても使える所がない魔物であり、その死骸は放っておくと病原菌の温床となる正に害虫と言って良い魔物だ。


(やはり汚物であるゴブリンは消毒するしかないな。)


 私は少し頭を傾けVの字型にした指を額に当て、左手をゴブリンの方へ向ける。左ひざを右ひじと引付くぐらいの高さに上げゴブリンの方へ向けた左手の指を鳴らす。


パキィツ!


 指の音が鳴ると同時に目の前に大きな火球が出現する。その火球はゆっくりとゴブリン共のいる中央付近に進むと大爆発を起こした。


ドォォォォォォォォォォォォォォォン!


 爆発した火球は小さな火球に分裂し、更に爆発する。


ドドドドドドドドドド!


 小さな火球からは数多くの火の矢が射出されゴブリン共を襲う。ゴブリンの断末魔と火の矢が何かとぶつかり更に爆発する音が辺り一面に鳴り響いた。その音が消え、辺りが静かになった時、その場所にはかつてゴブリンだった黒焦げの灰の様な物が残されているだけだった。当然、村はずれにあった家屋も消し灰になっている。


(よし。これでゴブリンは殲滅できたし、病原菌の温床となる死骸も灰に変えた。これなら焼き畑農業とやらを実践できるな。灰となった物を土地に漉き込むはずだから……魔法で地面をひっくり返せばよいか?)


重力反転リバースグラビティ


 呪文の効果範囲を地表から30cm位の深さに設定し、高さを押さえた分、面積を広げた。灰と共に地面が浮き上がるが、元々平坦でない土地に行うのは無理があったらしい。浮き上がった土地自体に高低差が出来ている。


(一つにまとめて攪拌、その後、均等に撒けば良かろう。)


引き寄せる檻トラクターフィールド

攪拌シェイキング


 浮き上がった土地が丸い檻の中にまとめられ、強力な振動を加えられた。その振動はあまりにも強力すぎて一緒に引き寄せられた岩石が砂になるほどだった。檻の中でかき混じる様子を見ていたマグナスは引き寄せるトラクターフィールドの形状を変更する。


「形状変更、球形から平板へ」


 球形に集められた土地が板状に引き伸ばされ元の場所へゆっくりと下ろされた。元々の土地が平坦ではなかった為、置かれた土地の縁に高低差は出来ているが、土地自体は平坦にならされた状態である。


雨召喚コールレイン


 私が唱えた魔法で空に雲が沸き上がり辺りが薄暗くなる。ぽつりぽつりと水滴が落ちたかと思うと、瞬く間にザーッと強い雨に変わった。一時間ほど雨が降った後には十分に潤った土地が現れたのだ。


(農民ではないから畑の良し悪しは判らないが、大体こんなものだろう。)


 自分の成果に満足すると村の中心へ向かうのだった。


―――――――――――――――――――――


 村のゴブリン防衛の指揮をしていた男、レクトは冒険者である。短めの金髪でチェインメイルを身に纏い、長めの槍を振るっていた。元々は王都近郊の都市で近衛兵をやっていたのだが、領主の娘と駆け落ちして辺境と言われるホーエンハイム領までやって来たのだ。元々、剣の腕は立つので冒険者として生活するのに問題はあまりなかった。


 ホーエンハイム領へやって来て五年、冒険者としてもそれなりの生活が出来、夫婦生活も円満で今では二児の父親である。そんな彼の住む村をゴブリンの大集団が襲った。


 すぐさまレクトは家族を守るために剣を手にし、冒険者仲間に呼びかけた。村の門に急造の防壁バリケードを気付きゴブリンを撃退する。正に獅子奮迅の活躍を見せた。

 だが、いかんせんゴブリンの数が多すぎる上、統率がとれている。レクトはゴブリンの群れにその後ろにいると思われる存在に恐怖した。


 そんな時、終に村の急造の防壁バリケードが破られる。最早これまで、妻子が生き残る為に一匹でも多くのゴブリンを倒すと覚悟を決めた時、空から石の壁が降って来た。石の壁は最初、ゴブリンに破られた急造の防壁バリケードの場所に。その後しばらくして村の周囲に張り巡らされた。高さが5mあり、ゴブリンでは登れない物だ。


 レクトが唖然としていると、頭上で巨大な火球が出現した。その火球の傍にはくたびれたローブを着た人物が浮かんでいた。


「誰だ?あれは?魔導士か?」


 レクトはもう少しよく見ようと石の壁の上に登った。見張り台を経由して登る為、少し時間が掛かるが問題なく上ることが出来る。


(ここにいたグリーデンはどうした?まさか壁の向こうに落ちたのではないだろうな?)


 レクトが石の壁の上に登った時、信じられないような光景が目に飛び込んできた。巨大な火球が爆発を起こし、その爆発から数多くの火球が分裂する。その分裂した火球が更に爆発し数多くの火矢がゴブリンたちを灰に変えてしまった。


 それだけでは無い。

 土地の一部が浮かんだと思うと丸くなり、そして元に戻された。辺りに雲がかかったかと思うと雨が降る。丸められた土地は何事も無かったかの様に元の位置に戻された。


「いったい何が……そうだ!あの魔導士の様な者は?」


 レクトが再び見上げた時には魔導士の様な者は村の中心部に向かって飛んでいった。


「村の中心部……いかん、あそこには避難した村人がいる!」


 石の壁から急いで飛び降りる。

 通常、鎧を着た者ならば5mの高さから飛んで降りた場合、体のどこか(特に関節部)を痛めるだろう。だがレクトは鍛えられた冒険者である。体を痛めることなく飛び降りる方法を熟知していた。無事着地し立ち上がると急いで村の中心部に駆け出す。


 幸いそう大きい村ではない事と魔導士のような男の飛行速度がゆっくりとした物であった為、追いつくことが出来た。魔導士の様な者、その男は村では見かけない美女と話をしている様だ。

レクトは少し緊張しながらその男に声をかけた。


「そこのローブの人。少し話を伺いたいのですが?あなたはいったい?」


―――――――――――――――――――――


 土地を造成し終わった後、私はゆっくりと飛び村の状況を確認していた。見た限りゴブリンが侵入した形跡はない。ただ、石の壁の生成に巻き込まれたゴブリンが死骸となって落ちているのが見えた。早急に対処しなくては疫病を発生させる恐れがある。


 それに防衛の為に築いた石の壁だが、今後の村の開発を考えると早急に撤去しなくてはならない。だが、石の壁の上に何人か登っている者が見える。急に消すと事故の元だし、今後どこに防壁を築くのか村人たちと調整しなければならない。あいにく私はその手の事務処理は苦手である。幸いなことに事務処理が出来るアデレードがいる為、何も問題は無いはずだ。


 村の中央を見ると、大勢の人や子供たちがこちらを見ている。彼らの前にはアデレードが手を振って私を出迎えてくれている様だ。


「ご苦労様でしたマグナス様。お怪我はありませんか?」


「大丈夫だ、問題ない。ゴブリン程度では後れは取らんよ。それよりアデレード……」


 今後の事を含めアデレードと話をしようと思っていたその先に声をかけてくる者がいた。


「そこのローブの人。少し話を伺いたいのですが?あなたはいったい?」


 身長は170cmぐらいの男、短く刈り込んだ金髪は少し汚れている。ゴブリンとの戦いの為だろうか?着ているチェインメイルは所々板金で補強されている。ゴブリンと戦っていた隊長格の男の様だ。辺境の警備兵にしては風格がある。


「私の名はマグナス、マグナス・ホーエンハイム。」


「ホーエンハイム?それにマグナス……。」


「そうだ。その名前の通り、私がホーエンハイム領の新しい領主だ。」


「!これは失礼しました。私はこの村で警備隊長をやっているレクトという者です。」


 やはり、この男は村の隊長格の男だった。だが辺境の村の警備隊長にしては風格がありすぎる。

どうやら訳アリの様だ。


彼についていろいろ考察しているとアデレードが耳打ちをしてくる。


「あのレクトと言う方はブライト子爵の元で近衛兵をやっていた人ですよ。」


「ブライト子爵?王都近郊にあるあの家か。道理で風格が違うはずだ。だがアデレード、よく知っていたな?」


「ブライト子爵のお嬢さんとは友達だったもので……。」


 そう言うとアデレードはちらりとレクトの方を見る。レクトに駆け寄り無事を喜ぶ子供たちや婦人の姿があった。


「駆け落ちか……。」


「はい。私もここに来てびっくりしました。」


 辺境において有用そうな人材がいたものだ。この分なら、他にも隠れていそうな気がする。

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