トロール襲来
トロール・モナークのグ・バ・ルグルは苛立っていた。
彼らが餌とするゴブリン(臭くてまずいが食べられないほどでは無い)が激減したのと時々食べる“ニンゲン(固くて骨ばかりの者もいれば柔らかく者もいるゴブリンよりずっとおいしい)”と言う餌が手に入らなくなったからだ。
平原に狩に出た者によると高い壁が出来ていて餌のニンゲンに近づけなかったと言い訳していた。
“高い壁は越えればいい。餌を見つけられない言い訳をする無能はいらない”と狩りに出かけた者は今日の餌になった。
だが、このままでは餌が無い。一族全体が飢えるのは時間の問題である。
ニンゲンを捕まえ羅らないのなら、森の奥深くまで行き小五月蠅いエルフども(あっさりしていておいしい)を捕まえて食べるか、南の平原に行きオーガども(筋肉質で味が良くおいしい、何より大きいので食いでがある)を捕らえて食べえるか、南の湖まで行き大きな蜥蜴(ちょっとビリビリするが大きくておいしい)を食べるか、どれかしか無い。
グ・バ・ルグルは足りない頭で考える。(足りないと言ってもトロールの中では優秀な方なのだ。)
エルフやオーガはうまいが捕まえる時によく怪我をする。動けなくなった者は明日の餌にすればいいが、エルフやオーガを狙うと怪我だけで餌が捕まえられないと言うのはよくある事だ。
やはり、捕まえるのが簡単でおいしいのもあるニンゲンの方がイイと考える。家来に命令し自ら狩りに出向く。自らが出向くことで狩りの成功率を上げる……と言った事を考えているわけではない。ただ単に“うまいニンゲンは俺が最初に食べる“と考えているだけであった。
グ・バ・ルグルは一族の手練れ五十名を率いニンゲンのいる場所を目指す。
森を抜け起伏のある平原を進むと川の向こうに高い壁が見えてきた。
狩りに行った者の言う通り、確かに高い壁がある。一方の端は山の方まで続いている様だ。もう一方はどこまで続いているのかは判らない。
取り敢えず壁を越えられそうなところを探すべきだろうか?グ・バ・ルグルは足りない頭で考える。
山側は木が無いのであまり餌が少ない。行くならば餌が多い反対方向だ。
「コッチススメ!ドコカアナミツケル!」
グ・バ・ルグルは山側の反対方向を指さす。その指示に従いトロールたちは川沿いにどたどた動く。
いつもなら壁の向こう側で騒ぎになるはずなのだが、今日は静かな物である。トロールたちは壁の向こうから何の反応も無いことに疑問は抱いてない様だ。トロールたちがもう少し賢ければ壁の向こうに兵士は配置されていない事に気付いただろう。
彼らの知能は極めて低い。登ることの出来ない壁に出会った場合、その壁が無くなるところまで歩くぐらいしか考えつかないのだ。
川沿いに一時間ほど移動したグ・バ・ルグル率いるトロールたちの目の前に少し低くなった壁が見えた。そのすぐ近くには大きな住処が見える。あの大きさならニンゲンもたくさんいるはずだ。
「アレダ!アノスミカニニンゲンガタクサンイル!」
トロールたちは雪崩を打つように川を越え大きな住居に向かって走りだした。
だが彼らは知らない。
その住居が誰のものであるかを。
走る彼らの背後の空間が歪みだしたことを。