最凶賢者の差し入れ
私は屋敷の執務室で平原探索の報告を受けていた。
「平原に生息している魔獣はスワンプドラゴンにバジリスク、ローパー、シフベルガ山脈に近い所ではサイクロプスが確認されています。探索に向かった冒険者のほとんどが負傷、探索続行は困難かと思います。」
アデレードは村の警備隊長のレクトから提出された報告書を手に探索結果を報告してきた。私はその報告を受け、重大な事を忘れていたことに気が付き頭を抱えた。
「何という事だ……これは私のミスだ。」
「マグナス?いったい何を?」
「支給品にエリクサーや自動回復薬を加えるのを忘れていた。私は普段必要が無いから支給品に加える事を忘れていた。いかんなぁ、前衛職の場合、運悪く直接攻撃を受ける場合があるのだった。その考えに至らないのは私のミスだ。」
アデレードは私の話を聞くと大きくため息をついた。
「はぁ、そうですか。それでマグナス。負傷した冒険者にはどう対応します?それと、平原の魔獣への対応は?」
「そうだな。取り敢えず冒険者一人当たりエリクサー3本あれば十分だろう。ローパーやスワンプドラゴンは錬金術や鍛冶の素材になるから、丁寧に倒したいから私が対応しよう。バジリスクやサイクロプスはそこまで必要な素材ではないから冒険者に任せようか。」
ローパーの体は魔法の杖の素材に、触手は秘薬の素材になる。スワンプドラゴンはドラゴンの一種でもあるため、外皮は防御力の高い防具、骨や内臓は錬金術の素材、爪や牙は武器となる。
対してバジリスクの外皮はスワンプドラゴンよりも落ちる上、骨に使い道は無く内臓は石化薬や石化解除薬にしかならない。石化解除薬ならエリクサーで十分だ。
サイクロプスは目が秘薬の素材になる以外、特筆する素材ではない。
私にとってバジリスクとサイクロプスは必要な素材では無いのである。
「全員に自動回復薬を三本。あ、でもバジリスク用に石化防止薬、いや、状態異常防止薬を一人五本ばかり支給しておいた方が良いだろう。サイクロプス用には強化薬を五本だな。」
私は図書館の収納から自動回復薬、状態異常防止薬、強化薬を一箱ずつ取り出した。それぞれの箱の中には薬瓶が二百本入っている。続いて、エリクサーを一箱取り出す。
「自動回復薬と状態異常防止薬と強化薬は二百本ずつある。エリクサーは百本だ。残りは予備として治療院へ置いておけばいいだろう。たしか警備隊長のレクトが報告書を持って来ていたな。彼は今何処に?」
「魔獣に対する報告書の返答をするため別室で待機してもらっています。」
「ではこの四箱は彼に持って行ってもらおう。」
「……防止薬は一人五本もいらないと思いますが、今後の事を考えると余分に支給するのは良い事だと思います。エリクサーも予備は治療院へ、それではその様に手配しますね。」
―――――――――――――――――――――
村に作られた治療院、マグナスが村を拡張する時に作った建物だ。村(もう既に街の様になっている)のほぼ中央付近に建てられた三階建ての白い建物だ。一階は待合室兼治療室、二階以上が病室となっている。今現在、二階の病室はほぼ満員。一部(女性)は三階に入院していた。
その病院の一階にマグナスの屋敷から運ばれた箱を開けた時、居合わせた者は色めき立った。
「な、なんて数のエリクサーだ!これだけあればすべての冒険者を治療できるぞ!」
「あいや、しばし待たれよ。こっちらの箱は何でござるか?レクト隊長?」
「そっちの箱は状態異常防止薬、その隣が強化薬、こっちの箱が自動回復薬だ。」
「状態異常防止薬?強化薬?自動回復薬?なぜそのような物が?」
全ての箱は回復薬と思っていたら、別の箱は何故かの状態異常防止薬、強化薬、自動回復薬。しかも中の薬は状態異常を直す薬ではなく状態異常を防止する薬、飲んだ者を一時的に強化する薬、あらかじめ飲んでおく受けた傷を自動的に回復する薬なのだ。
「こ、これはどういうわけだ?レクト?」
「マグナス殿は平原の魔物、バジリスクの集団と山岳に出没するサイクロプスを討伐せよとの事だ。」
レクトの言葉に冒険者たちは更にざわつきだす。
「何だって!俺達には怪我人が大勢いるのだぞ!」
「そうだ!そうだ!けが人が多いのにどうやって魔獣と戦うのだ!それに魔獣はバジリスクとサイクロプスと言うじゃないか。バジリスクは石化を防ぐ必要があるし、サイクロプスはその強力な攻撃に耐える必要がある。どうすれば対応できるって……。」
冒険者の一人がそこまで言うと持ち込まれた箱を見つめた。
「エリクサーは全ての状態異常、体力、精神力を回復させ肉体の損傷も治す。」
「ここにある分で入院している全員を治してもまだ余分にある。それこそ全員に予備を配れるくらいあるな。」
「対バジリスク用の状態異常防止薬も人数分以上ある。対サイクロプスに必要な強化薬、傷を負っても自動回復薬……なぁ、レクト。強化薬はどのぐらい強化される物だ?」
「マグナス様によると、通常の三倍は強化されそうです。」
その時冒険者たちは思った。
(あれ?これ楽勝じゃね?)