最凶賢者のクロスブリード
雄のグリフォンを十匹、これにはちゃんと意味がある。
「グリーデン、お前にはグリフォンと馬の交配種、ヒポグリフを作ってもらいたい。」
当初私は輸送のためにグリフォンを使う事を考えていた。
しかし、グリフォンは気性が荒く、魔物使い等の慣れた者でないと扱えない。
私はグリフォンを扱うだけの為にグリーデンを使う気はなかった。
その為、気性の荒いグリフォンではなく、少し穏やかな(と言っても馬よりも荒いのだが)ヒポグリフを使う事に思い至ったのだ。
ヒポグリフならば小さい時からちゃんと躾ければ問題はない。
「ヒポグリフ?グリフォンとその餌である馬の間に子供が出来るのですか?」
グリーデンの疑問の通り、この世界にはヒポグリフは存在しない。
餌に欲情するような可笑しなグリフォンはいないのだ。
「普通は出来ない。だが、魔術的にその為を結合させる事で気性の穏やかなヒポグリフという生物を作り出すことが出来るのだ。強さ的にはグリフォンより落ちるが問題はないだろう。」
所謂、遺伝子改造を魔法で何とかする方法である。
出来た第一世代には今後の事も考え。様々な要素を持ったヒポグリフが必要となるだろう。輸送に使うからと言って輸送力だけを重視するわけにはいかないのだ。今後、どの様な事に需要があるか判らない。
色々な要素を持った第一世代を作る。
その為に十頭の雄グリフォンが必要になるのだ。
「何と言う素晴らしい計画!魔導士の中にはより強い生物を作る為だけに魔術を使う者もいるのにより扱いやすい生物を作ると言う考え、まさに慧眼と言うほかはありません。」
グリーデンの言うように、この世界の魔導士の中には凶暴なキメラを作るのに躍起になっている者が多い。中には扱えなくなったキメラに食い殺されてしまった者もいると聞く。
まあいい、ヒポグリフは物資の運搬に使う予定だ。その為、輸送力の他に扱いやすさが必要になる。運搬力は馬一頭を鷲掴みにし、悠々と飛び立つグリフォンの力があれば十分と言える。それはヒポグリフになっても落ちる物ではない。
二頭のヒポグリフで大きな箱を使えば、早く物資を運ぶことが出来るだろう。
空を飛ぶならばペガサスも考えられる。しかしペガサスの場合、物を運べるようになるまで二年から三年かかる。ヒポグリフはどちらかと言うとグリフォンよりの為、卵からだと半年で成体になるのだ。
「ではグリーデン。半年後を目途にヒポグリフを十頭ばかり揃えようか。」
その日からヒポグリフの育成計画が始まった。
最初は設備と育成の人材を確保するところから始める。設備や人材が無ければヒポグリフを手に入れても育てることは出来ないからだ。
獣舎は町のはずれ、シフベルガ山脈の麓に作った。獣舎は馬用の獣舎に近いがヒポグリフは空を飛ぶための翼がある為、一頭ごとに設置している柵の間隔は広い。また、ヒポグリフは飛べるため天井は馬の獣舎の倍以上の高さになっている。
ヒポグリフは飛ぶことが出来るようになった時点で飛行訓練を行う為だ。ヒポグリフの能力も馬と同じように遺伝による物が33%、残りの67%が卵の時とその後の育成状況が影響する。
同時に、ヒポグリフの調教を行う者と操縦する者いわゆる騎手の訓練も行う。
基本的に調教師は魔物使いの素質がある冒険者を重視する。騎手は騎乗のスキルを持つものを重視した。
条件は厳しかったが、調教師として一人、騎手として三人確保できた。調教はグリーデンも行うので一人でも問題は少ないだろう。
ヒポグリフの騎手は調教師とともに担当予定のヒポグリフの世話をやらせる予定だ。
雛の頃から世話をすれば親愛度も上がり、より操縦しやすくなるからだ。
設備や育成の人材を確保したら、いよいよヒポグリフを創り出す。
ヒポグリフを創り出すために国中から牝馬を十五頭仕入れてきた。仕入れ先は様々でどの組み合わせが優秀なヒポグリフになるか判らないからだ。
通常では受精しない生物同士を魔法で強制的に受精させるのだ。形状の違いから生み出すのは卵とした方がいいだろう。その辺りの設定は魔法と錬金術を使い行う。魔法だけでなく錬金術を併用した方が成果の安定を見込める。
十五頭はそれぞれ一つずつ卵を産んだ。その内、孵化したのは七匹。半分以下である。何が問題なのか今後の研究待ちである。
図書館で調べても、世界が違うと法則が違う為、原因の究明には至らないのだ。
ヒポグリフの雛にはそれぞれ独特の特徴が出ていた。
大きく分けると、前足が獅子の脚の雛(これはグリフォンの後ろ脚が獅子のような形状であることが影響したのだろう)と前足が鷲の脚の雛に分けられた。これらの特徴から、前者を獅子脚種、後者を鷹脚種と呼ぶことにする。
他にも、羽毛の色や翼の大きさや嘴の形状が異なっていた。
獅子脚種や鷹脚種がどのようなヒポグリフになるのか、今後の育成次第だろう。