最凶賢者の辺境領地
私の名前は“マグナス・ホーエンハイム”
“トリスメギストス”いわゆる“三倍の賢者”の称号を持つ賢者である。
我が国アルバ王国の筆頭魔導士でもあった。
その私がくたびれたローブを着て崖の上に立っていた。
時々吹きあがる風が私の少し長い黒髪を揺らす。
私の黒い目には崖の下に広大な大森林が広がっているのが写る。
ここは辺境。
今いる場所、シフベルガ山脈と言われる切り立った崖の様な山脈が王都と村の間にある。
その山脈は人が一人辛うじて通れる道があるだけで馬車道は存在しない。
正に辺境と言える場所だ。
眼下にあるのは凶悪な魔獣が跋扈すると言われる、“グレンツェンデ”の大森林。
薄暗い森からは我々の侵入を阻むように動物の唸り声が聞こえる。
その声に驚いたのか、同行しているアデレードはゴクリとつばを飲み込んだ。
「マ、マグナス様。この森には何かいるようですよぉ。」
おそる恐る崖の上から森を覗き込んでいる美女は私の秘書である。
彼女は金髪碧眼で長髪、ナイスバディ、気づかいの出来る一番の人気者。
辺境に左遷になった私についてきた。
彼女には色々迷惑をかけた為、責任を取らなくてはならないらしい。
私としては書類整理に関わりたくないという事で良しとしている。
「それはいるだろうな。グレンツェンデ大森林は狂暴な魔獣で有名だ。それにここは辺境。森林以外のほとんどの場所も手付かずのまま放置されているからな。」
大森林以外に広大な平原が広がっており、はるか遠くの方に村らしいものがポツリと辛うじて見えるだけだ。
今見えている村も最近建てられたばかりの開拓村だ。
これで何回目だろうか?
何度も開拓のため村が作られるが、魔獣に全滅と言うのが繰り返されてきた。
魔獣の為に騎士団を編成すべきなのだが、こんな辺境に来るような騎士団は存在しない。
その為、冒険者に頼るのだが、この様な辺境に来る冒険者は訳アリの者か食い詰めた者だけで実力は今一の者が多かった。
広大な辺境の領地、ホーエンハイム領。
それがこの私、“マグナス・ホーエンハイム”辺境伯が統治する所領なのだ。