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3/3

Cパート

「うははは」


 惨刃は高笑いしながら仕込み刀を縦横に振り回してくる。

 わたしは必死になってそれを避ける。

 素手で真剣を止めることなんかできない。

 マンガなんかでよく出てくる真剣白羽取り。両手で刃を挟んで止めるやつ。あんなのはファンタジーの世界だ。刃に手を合わせることはできても、振り下ろされる真剣の動きを手の摩擦力だけで止めることなんか不可能だ。

 武器を持つ敵を相手にする場合、武器支点、具体的いうなら武器を持つ手とかを押さえる必要がある。だけど、それにはどうしたって、相手の間合いに踏み込まなくてばならない。けれど、それは言うほど簡単ではない。

 まして、惨刃は素人ではない。むやみやたらに真剣を振り回しているわけではない。間違いなく人を斬ったことのある者の太刀筋だった。


 後、一息を足りない


 仕込み刀をよけながら、繰り返した脳内シミュレーションでわたしはいつも後一息のところで斬り捨てられていた。

 つまり、素手ではわたしはやつに勝てない。それが冷酷な結論だった。

 それならばと、なにか使えるものはないか辺りを見回す。さっきの扇子のような場当たり的なものではなくもっと真剣に対抗できる確固としたものだ。


 見つけた!


 それを手に入れようとわたしは走った。

 そこへ惨刃が下段に構えて斬りかかってきた。下段から上に斬り上げられる(やいば)を火の輪くぐりのライオンのように跳んでかわす。

 地面への着地の衝撃を回転することで逃がしつつ、間合いを確保する。同時に目当てのものをゲットした。

 十分間合いが離れたところでゆらりと立ち上がる。

 わたしの左右の手にはさっき脱いだ黒塗りの下駄が握られていた。


 カコーーン


 両手の下駄を打ち合わせると拍子木のような小気味良い音が響き渡った。


「なんのつもりだ?

まさか、そんな下駄でわたしの刃を止められると思っているのではないだろうな」


 惨刃は薄ら笑いを浮かべると中段に構え、一気に間合いを詰めてきた。


「きあっ!」


 気合いと共に振り下ろされる切っ先をわたしは右手で押さえにいく。


「その右手もらった!」


 ガキン


 仕込み刀が下駄にめり込み、下駄の底板を切り裂く。しかし、途中で刀がピタリと止まる。


「なんだと?なぜ斬れん」

「わたしの鍛練のためにね、この下駄には鉄の棒が埋め込まれているのよ。

あんたのなまくら刀で斬れると思ったら大間違いよ!」


 刀を上に跳ね上げると、がら空きになった惨刃の胴に蹴りを叩き込む。


「ぐはあっ」


 胸を押さえ、二歩、三歩と後ろに下がる。苦悶の表情を浮かべるが、戦意はまだ消えていない。


「おのれ。小娘。許さん。許さんぞ!」


 その言葉を聞いた時、わたしの中でなにかがキレた。


「……さない?

許さない……?許さないですって!

それはこっちのセリフよ。

あんたたちは自分たちの理屈を振りかざして、従わないものを暴力で強引に支配しようとする。

そんなものは、そんな存在は――」


 心臓が興奮で早鐘のように脈動し、あるリズムを刻み始める。

 懐かしいリズム。

 それは子供の頃に憧れた『青空天使 トゥインクル アイ』のテーマソングだ。

 強大な敵や理不尽な悪に臆することなく戦いを挑んだ、わたしの子供の頃の憧れのヒーロー、『トゥインクル アイ』


「そうよ。あんたなんか認めない。

あんたなんか許さない。

この『トゥインクル アイ』が絶対に倒す!」


 わたしは惨刃に向かって突進する。

 脳内にはトゥインクル アイのテーマソングが鳴り響いている。


♪トゥインクル トゥインクル キラメキ♪

♪トゥインクル トゥインクル ときめき♪

♪知らない未来へ Go!        ♪


「うおおおお」


 惨刃が刀を閃かせ袈裟懸けに斬ってきた。


 ガキン


 それをわたしは下駄で弾く。惨刃は弾かれた刀を頭の上で振り回し、切り返して今度はわたしの右胴に斬りかかる。


♪見知らぬ未来のそのまた先に    ♪

♪何が待っているんだろう      ♪


 ガキン


 それも右の下駄で受け止めると、惨刃の左肘に左の下駄を叩き込む。

 骨の折れる感触と共に惨刃の顔が苦痛に歪んだ。


「ぐわっ、この、おのれ、おのれ、おのれ!」


 惨刃は必死の形相で右手だけで無茶苦茶に刀を振り回してきた。


♪青い空の下を        ♪

♪ 叶えたい夢を抱きしめて  ♪

♪あの丘の向こう側      ♪

♪ 誰よりも遠くへ      ♪


「りゃ、りゃ、りゃ」


 それもことごとく弾く


♪Go Go トゥインクル アイ! ♪


「ふむむう――」


 惨刃は体を引き、仕込み杖を脇にゆっくりとつける。体からどす黒い気が発散し始める。すべての気力と瞬発力をその次の一撃に乗せようとしている。


 次が最後の一撃になる


 わたしは直感する。


「きええぇぇい!!!」


 鋭い気合いと共に突きが放たれた。今までの斬擊の中で一番速く、長い

 わたしは回転してその突きをよける。よけながら惨刃との間合いを詰める。

 左の下駄を仕込み刀の根元にあてがい膝の上に固定する。


「はっ!」


 気合い共に右の下駄を固定した刀の切っ先に叩きつける。


 ボキン


 刀が根元から折れる。


「ば、バカな~」


 惨刃は柄だけになった仕込み刀を驚愕の顔で見つめる。



♪哀しいことも待ってる        ♪

♪泣きたいこともあるんだろう     ♪

♪だけど それも みんな力に 変える ♪

♪それが 勇気            ♪

♪それが 生きること         ♪


 わたしは狼狽える惨刃を前に、両手の下駄を投げ捨てる。


「これで終りよ」


 わたしは右裏拳を惨刃の顔面に叩きつける。そして、喉仏に左裏拳、さらに右、さらに左、右と正中線に沿って存在する急所に裏拳を次々と炸裂させる。


「うりゃ、うりゃ、うりゃ、うりゃあ~」


♪トゥインクル トゥインクル キラメキ♪

♪トゥインクル トゥインクル ときめき♪

♪ 見果てぬ夢へ Go~!       ♪


「トゥインクル ツイン バスター キャノン!」


 最後は渾身の両手突き。


「ずぅへらぁばぁぶれぼはぁ~~~~」


 惨刃は血反吐を放物線上に撒き散らしながら吹き飛んだ。


「ふう~~」


 わたしはゆっくりと息を吐き、気を抜いていく。


 パチ    パチ    パチ



 パチ  パチ  パチ  パチ


 パチパチパチパチパチパチパチ

 パチパチパチパチパチパチパチ

 

 割れんばかりの拍手が周りから沸き起こり、わたしは我にかえった。称賛の拍手が鳴り止まない。


 あれ、なんか照れる


 そう思った時だ。


「ああ、愛さ~ん」

「うきゃあぁ!」


 いきなりお尻に抱きつかれて、恥ずかしい声が漏れた。

 見ると委員長が泣きながらわたしのお尻に顔をグリグリと押しつけている。


「ちょ、ちょっと落ち着こうか。委員長」


 わたしはむしゃぶりついてくる委員長の手を優しくはずしながら言う。


「怖かったんです。わたくし怖かったんですぅ」


 委員長は目をうるうるさせながら、わたしを凝視する。


「あーー、ま、大丈夫。わたしが守るから」


 わたしの言葉に委員長はふるふると首を振る。


「違うんです。違うんです。わたくし、愛さんが怪我をするんじゃないかとずっと心配で、心配で、心臓が止まるかと思ったんです」


 あーー、委員長

 なんか、わたし、泣けてくるかも


「……い、委員長……

ところで、委員長。

わたしのこと漢字で呼んでる?」

「はい?」

「カタカナのアイって呼んでる?

それとも漢字の愛で呼んでる?」

「神凪愛の愛さん……?」


 わたしは自分の被っているお面を指差す。


「ほら、このお面。

これ『トゥインクル アイ』のお面ね。

ね、分かる?

わたしは通りすがりの『トゥインクル アイ』なの。

神凪愛って子とは別人なの。

分かるでしょ?」

「えっ? で、でもその浴衣?

えっ? えっ? 神凪愛さんですよね??」


 委員長が頭に『?』をたくさん咲かせながら混乱していると、そこへ


「お~い、愛ちゃ~ん!

委員長(イインチョ)

大丈夫~? お巡りさん呼んで……

ありゃ? 

……

ありゃりゃ?

なにこれ。なんかすごいことになってる」


 ふぅちゃんが戻ってきて、周囲の死屍累々、阿鼻叫喚図を見て大いに戸惑っている。


「どうなってん、愛ちゃん」

「イヤ、ワタシ『愛ちゃん』ナンテモノデワナイデス」

「はぁ~? なにふざけてるの?」

「イヤ、大真面目デスカラ」


 と、わたしとふぅちゃんがお約束のプチ漫才を繰り広げていると、群衆をかき分けお巡りさんの集団がやって来るのが見えた。


 遊んでいる場合ではない


「わたしは、通りすがりの『トゥインクル アイ』なので、お巡りさんにはよろしくそういっておいてください」


 言うが早いか、わたしは一目散にその場を脱兎の如く逃げ出す。




 ああ、もう最悪だぁ~

 わたしは夏祭りを楽しみたかっただけなのに~

 なんで、なんでこうなっちゃうの~~!


2019/07/31 初稿

2019/08/05 誤字を修正しました


往年のジャッキー・チェンの笑拳(クレイジーモンキー)やヒーローものである、最後のボス戦でテーマソングの中で相手を圧倒する。そんな格好の良いシーンを描くのが今回のテーマでした。

上手く出来てればいいなぁ。


文体がぶれてるのが悔やまれます。



[登場人物]

神凪(かんなぎ) (あい)

高校一年生。

神凪流古武術宗家の一人娘にして、次期継承者。

もともと天性の才能の持ち主であり、なおかつ幼い頃からの鍛錬でその才能を遺憾なく開花させている。

前作の『これは壁ドンですか~』の半年ほど前の話。


今春(こんぱる) 風花(ふうか)

愛の親友 愛称 ふぅちゃん

作中、最後まで本名が出てこなかった愛の親友。

今回も出てこなかった。Orz

情報通。

こちらは至って普通の女の子に見えるが、果たしてそうかは秘密。その辺は続編で明らかになるかも

(実は設定が決まっていない。なんてことは無い。無いったら無い。)


茴木(ういき) 涼子(すずこ)

委員長

容姿端麗、性格よし、頭よしの天が二物も三物と与えちゃった人。

今回の事件で愛のことが大好きになる。これが愛だと本人が気づくのにはも少し時間がかかる。


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