Bパート
本編に火を扱う表現が出てまいります
ご注意ください
京都アニメーションの凄惨な事件につきまして、
犠牲になられた方へのご冥福をお祈りすると共に遺族の方々に心からお見舞い申しあげます。
また、残された関係者の皆さま方も困難な状況とは存じますが、一日も早いご回復と更なるご活躍を心よりお祈り申し上げます。
「良く見りゃ、いけてるじゃねーか。
俺たちが朝まで可愛がってやるぜ」
「いや、やめて、はなしてください!
だ、誰か助けて」
「あっはっは。バーーカ。誰も助けねーよ」
半泣きになっている委員長の腕をわたしは優しく掴んで、耳元で囁く。
「こういう時はね、掴まれた手をできるだけ体につけて……
こんな感じ。
そんで、体全体を回転させるの。
腕の力で振りほどくんじゃなくて体全体を回転させるイメージよ。
そうすれば腕なんかより何倍も強い背筋や大腿筋が使える」
わたしはそういいながら、委員長の背中に手を添えて体を回転させる。
サイヤ人もどきの手があっさりと外れた。
そのまま、委員長を自分の背中に隠す。
「なんだ、てめえ……は?」
唐突に現れたわたしにスーパーサイヤ人もどきが怒鳴るが、その表情は怒りから戸惑いのものに変わる。
気持ちは分かる
ピンクの髪に、黄色のカチューシャ、ハートのワンポイント付き。キラキラとお星さまが散ったつぶらな瞳の可愛らしい美少女、のプラスチックのお面が唐突に自分と委員長の間に立ちはだかっているのだから。
「通りすがりの『青空天使 トゥインクル アイ』よ!」
気まずい沈黙を打破すべく、わたしは『トゥインクル アイ』のポーズを極める。
「あっ…… ああっーぁ、何だって?」
「だから『トゥインクル アイ』って言ってるでしょ」
何度も言わせない
こっちも結構恥ずかしいんだから
サイヤ人もどきの目が丸くなり、口があんぐりと開かれる。
気持ちは分かる
「ざっけんじゃねぇー」
みるみる眉がつり上がり、怒りで顔が紅潮する。
気持ちは分かる
突進してきた。
気持ちは分かる
バカにされたと思うよね
舐めてると思うよね
サイヤ人もどきはわたしの胸ぐらをつかもうと右手を伸ばす。
だけどね、生憎こっちも大真面目っ!
わたしは裏拳でその右手を外に払うと、サイヤ人もどきの懐にするりと体を滑り込ませる。同時に左膝で股間を蹴りあげた。
「ぐぁっ」
金的にサイヤ人は呻き声をあげ、反射的に前屈みになる。そこへ左掌底アッパーをカウンターでぶちこむ。ぶわり、と男の体が浮きあがる。そのまま、左足を踏み込み、渾身の右正拳逆突きをサイヤ人もどきの鳩尾に叩き込んだ。
「せいっ!」
正拳がゆっくりと手首のところまでめり込む。
「ぐわぁだぁ」
サイヤ人もどきは奇声を上げながら数メートル吹き飛び、ゴロゴロと地面を転がった。
回転が止まると同時に、鯨が潮吹くように口から血を吹き出しピクリとも動かなくなった。
内臓やっちゃたかな
あー、かなりイラついてたから力の加減ができてない……
まっ、いいか
最初からこいつらに手加減するつもりはないし
「うひぃーーーい」
奇声があがった。見ると入れ墨した耳たぶピアス野郎が両手を広げ、空に向かって吠えている。吠え終わると、わたしの方をぎろりと睨み付けてきた。
狂犬キャラ?
ビリビリビリと唐突にピアス野郎は自分の着ていたシャツを破り始めた。
あっという間もなく、上半身裸になる。
発達した胸筋と見事に割れた腹筋がさらけ出される。その上半身を縦横に波のような植物の蔓のような抽象紋様の入れ墨が走っていた。
ニタリと笑う。
首の後ろが粟毛立つ。
怖いというより生理的に受け付けないタイプ。
「うひゃはー」
上半身をリズミカルに左右に振りながらピアス男が近づいてきた。
シュ
左ジャブが繰り出される。間合いは甘い。スゥエーで簡単にかわせた。
ジャブ ジャブ ストレート
ジャブ ジャブ ハイキック
ワンツーからパンチとキックのコンビネーションが息をつく間もなく飛んでくる。格闘技経験者の洗練された動きだ。徐々に間合いが詰まる。パンチがギリギリ届き、キックは確実に届く間合い。すなわちムエタイ、キックボクシングの間合いだ。
右ハイから右ハイキックの連続。
更に右ハイ、左ハイの連携。
わたしはピアス男の間合いに入れず、じりじりと後退を余儀なくされる。
カツンと踵が何かの屋台にぶつかる感触。もう下がれないと知る。
すかさず右ハイがきた。
キックを肘で上に流して凌ぐ。
ピアス男はニタリと嫌らしい笑いを浮かべると、再びキックを放った。
ミドルキック
ピアス男の隠し玉。
ハイキックと同じ軌道で放たれるキック。うっかり騙されてハイのガードをすると、キックはガードの下をくぐり脇腹を抉る寸法だ。
いわばフェイントのキック。
このキックを生かす為、執拗にわたしにハイを意識させていた。ピアス男の唇は勝利を確信して歪んだ笑みを浮かべている。
だけど、わたしが待っていたのもこの瞬間。
あまりにあざといのでミドルを狙っているのはなんとなく予想ができていた。
一気に間合いを詰め、ピアス男の大腿部に腰を当てる。支点を抑えられ、ミドルキックの動きがピタリと止まる。
ピアス男の表情が凍りついた。だが、すぐに両手で首相撲を仕掛けてくる。
だけど、わたしの心中線は微動だにしない。ピアス男の顔が驚きから恐怖のそれに変わった。
もっともこうなるのは分かっていた。手足を器用に動かせても、軸がぐにゃぐにゃでは、わたしに勝てる道理はない。
わたしは凶悪な笑みを浮かべる。
被っているお面のせいで、この表情を見せてあげられないのが本当に残念。
ピアス男の軸足を払うとそのまま後頭部をパイルドライバー気味に地面に叩きつける。
ずんと腹に響く音と共に微かな砂煙が沸き立った。
群衆が沈黙する中、わたしはゆっくりとピアス男から離れる。もうわたしの視線は別のところに注がれている。
ワイ□ドスピードコンビだ。
ジェイソンもどきもドウエインもどきもわたしを鬼の形相で睨み付けていた。
「なにもんだ、貴様」
ステイサムもどきがオリジナルのような掠れ声で言う。
「『トゥインクル アイ』。
ねっ、お願いだからそろそろ覚えて」
*** 自主規制中 ***
「ふざけんな。
おめえの穴っー穴xxxxxxx込んでxxxxまみれxxxxxx!」
*** 自主規制中 ***
突然、ドウエインもどき、おっきい方、が聞くに耐えない言葉を撒き散らしながら突進してきた。
力任せのストレート。
ものすごい迫力だ。当たれば熊をもなぎ倒しそうな勢いがある。
だけどそれも当たればの話だ
わたしはそれを転身でかわす。腕が伸びきった瞬間を狙って関節を極める。そしてそのまま体重をかけるとドウエインもどきはあっけなくバランスを崩す。
突進の運動エネルギーを殺さず、ほんの少しだけ方向を変えてやる。
まるで手品のように、ドウエインもどきの巨体がほぼ垂直に浮き上がる。
遠巻きに見ている人たちの間から驚きの声があがる。
そのままドウエインもどきを極めた肘と肩が地面に垂直になるようにして落とす。
地面に落ちたときぐしゃりと嫌な音がした。
重すぎる自重は時に己を破壊する凶器になり得る。
「ぐうあわあ」
肩口から地面に叩きつけられドウエインもどきは悲鳴を上げて転げ回る。
肩から折れた鎖骨が飛び出ていた。
肘も曲がらない方向に曲がっている。二の腕からも白いものが見えた。肩と肘の解放骨折。重傷だ。
「うおおお」
息をつくまもなく、今度はステイサムもどきが突っ込んできた。
バカの一つ覚えみたいだが、違う。ステイサムもどきは、両手を顔の横にピタリとつけて姿勢を低くしている。
わたしの手の内をしっかり理解している。その上での本気タックルだ。一発、二発食らっても倒してしまえば体格差から勝てると考えているようだ。
わたしはタックルが当たる瞬間、地を蹴るように緩めていた膝を伸ばした。その瞬間、わたしの体重は仮想的に何倍にもなる。
ステイサムもどきのタックルを受け止め、なお微動だにしない。さぞ、驚いていることだろう。
「うおおおお」
気を取り直して、ステイサムもどきは力を込め直す。さっきの技はほんの一種しか効果がないからまともに力を込められたらわたしは簡単に倒されてしまうだろう。それは勘弁して欲しい。
わたしは膝をステイサムもどきの顔面に叩き込む。
「あがぁ」
ステイサムもどきが鼻を押さえて呻く。押さえた手からドボドボと血が溢れ、地面に垂れた。
「はぁっ!」
がら空きになった鳩尾と肝臓に抜き手を打ち込む。
「ひぎぃあ」
ステイサムもどきは苦痛で体を振るわせながらヨタヨタと後ろに下がる。体勢を整えようと鬼の形相で苦痛に耐えるが、すぐに堪えきれずに膝をついた。激しくせき込むと、大量の血を撒き散らした。
わたしはゆっくりとステイサムもどきに近づく。
「はぁ、はぁ、はぁ、も、もうゆるひてぐれ」
完全に戦意を喪失している。
ステイサムもどきは涙を流しながら懇願する。わたしは冷やかな目でそいつを見下ろしながらゆっくりと下駄を脱いで裸足になる。砂の感触が足の裏につたわる。このざらりとした感触は今のわたしの感情に似ている。ざらざらした怒りの感情。
「そうね。許してあげる。
串カツのおっちゃんにあんたらがしたぐらいにはね。
確かこんな感じだったよね?」
足刀をステイサムもどきのこめかみに叩き込む。ステイサムもどきは声もなく、白目を剥いて昏倒した。
「トゥインクル アイ!
トゥインクル アイ!
お前、面白い。最高だぁ」
甲高い耳障りな声がした。振り返ると、真っ白にぬりたくった顔に真っ赤な唇。髪の毛は緑色。黄色地に斜めの青と白のストライプの入った悪趣味なスーツを来た男がニタニタと笑いながらわたしを指差して叫んでいた。それはまるでバッ○マンの世界から抜け出てきたジョー○ーのようだ。
ああ、なんか色々もろもろめんどくさくなってきた
「いいな、いいな、いいなぁ~
俺はお前みたいな正義の味方をぶっ潰すのが大好きなんだぁ。」
うんざりするわたしとは真逆でジョー○ーもどきのテンションは異常に高そうだった。
ギャーギャー喚きながら、左右にヨタヨタとよろめきながら近づいてくる。
正直わたしは悩んだ。この目の前の男の手の内が全く読めなかったからだ。普通なら構えや足さばきなどで空手なのか柔道なのか、それともキックボクシングなのか分かるものだが、このジョー○ーもどきは分からない。
格闘戦において相手が何をしてくるか分からないのは非常に怖い。
わたしの知らない未知の格闘技なのかと、悩んでいる内にも間合いはどんどん縮まってくる。
ええい、ままよ!
悩んでも答えは出ない。なにもさせずに瞬殺すれば良い話だ。
わたしは前に出ることにする。
一気に間合いを詰めようとした瞬間、ジョー○ーもどきは火を吹いた。
ぬわっ?!
わたしはわざとスリップしてギリギリ火を避けた。そのまま、地面を転がり、素早く間合いをとる。
ヤバい ヤバい
火を吹くなんて、非常識にも程がある!
ただの色物キャラと思ったら、とんでもない。こいつは本格的な色物キャラだ
ジョー○ーもどきは、ニマニマと目だけで笑っている。さすがにこんなのを相手にするのは初めてだった。
とはいえ、お見合いをしていても仕方ない。
とにかく間合いを詰めなくては、とわたしは一歩前に出る。
ブワッ
とたんにジョー○ーもどきが火を吐き出した。
うわちぃ あち あち
あわてて、バックステップで火を避ける。
仕切り直して、もう一度と思った矢先に火炎放射機のごとく炎が襲ってきた。
これでは埒があかない。なにか方法ないかと周囲に目を配る。と団扇やら扇子を売っている出店に目がいった。
これか!
わたしは出店に飾ってある扇子を掴むとジョー○ーもどきとの間合いを一気に詰める。待ってましたとばかりにジョー○ーもどきは口を尖らせ火を吹き出した。
ザブリ
扇子を金魚すくいの水槽に浸け、迫る炎に向けて開く。濡れた扇子が火を防いでくれた。そのまま扇子を盾に間合いを詰め。扇子をジョー○ーもどきの顔に押し付ける。
「せいっ!」
気合いと共に、わたしはジョー○ーもどきの顔面を扇子ごと打ち抜く。
ジョー○ーもどきはゆっくりと両膝をつき、崩れ倒れる。その姿はまるで謝罪のために土下座をしているようにも見えた。
「ふぅぅ」
わたしは息を吐く。
パチパチパチと乾いた拍手の音がした。
杖を小脇に抱えた着流しの男が淡々と拍手をしていた。
「たった3分だ。たった3分で私の部下を全員叩きのめしてしまった。全く信じられないよ。見事な手並みだ」
着流しの男は、サグリと杖を地面に突き刺すと静かな声で言った。
わたしはその男に向き直る。静かな声とは裏腹に冷たくどす黒い殺気が全身から発散している。
「あんたがボスなの?」
「如何にも。
私の名は烈風の惨刃。
こんな舐めた真似をされてはこちらもただで済ますわけにはいかん。
手足をぶった切って、だるま女にしてやるわ!」
叫ぶが早いか、惨刃がわたしに向かって走ってきた。走りながら杖を振りかざす。杖がギラリと銀色の光を放った。
って、刀?!
身を捻り、紙一重で致命的な斬擊をかわす。
刹那、刀が返る。横一文字、胴を切り裂きにくる。背中を思い切り反らしギリギリでそれもかわす。そのまま後方回転して、間合いをとった。
仕込み刀。
正真正銘の日本刀が目の前にあった。
わたしの心臓が恐怖で締め付けられる。
あり得ない。たかが夏祭りのケンカにこんなもの持ち出すなんて正気の沙汰ではない。
「私に逆らうものは生きている価値なぞない。どうした、怖いか?
お面に隠れてお前の怖がる顔が見れないのが残念だ。
足を切り取って動けなくしてから、その面を剥ぎ取ってやる。そうして、じわじわと切り刻んで泣き叫び、命乞いするのを見てやる」
惨刃は恍惚とした表情を見せる。刀を肩口に構えると鋭い突きを放ってきた。
突き
突き
下段からの切り上げ
惨刃は容赦なく刀を振るう。その一つ一つが致命的な破壊力を持っている。文字通り触れれば切れる。そして、死ぬ
わたしはそれらを必死になって避ける。
刃物による戦闘は素手の格闘とは全く次元が異なる。
一瞬の判断ミスや反応の遅れが、即、死につながるサドンデスゲームだ。
さらに言うなら、その圧倒的な破壊力とリーチの長さが、俗に剣道三倍段という言葉を産み出す。
いわゆる、素手で剣道に勝つには三倍の段数が必要、例えば剣道初段なら空手なら三段、剣道二段相手なら空手は六段必要という、あれだ。だから……
怖かった。
本当に怖かった。
2019/07/30 初稿
2019/07/31 誤字修正
2019/08/01 後書きに《おまけ》追加しました
2019/08/02 誤字修正&文章一部変更しました
《おまけ》
ちょ、委員長!
ど、どうするかな、このまま乱入して、身ばれはまずいし……
そうだ、この『トゥインクル アイ』のお面をつけてっと……
えっと、声でばれないように声色つかうほうがいいよね
クリスチャン・ベールもバットマンの時は嗄れ声だったし
ち、ちょつと練習しようかな
「あー、あー、
アメフトの防具なんてつけん!(嗄れ声)
よし、行こう(嗄れ声)」
あ、待った。動きにくいから少し裾を巻き上げといた方がいいかな
膝が見えるくらい(もきゅもきゅ)
うん、完璧!!
「うっしゃー、いくぜぇ~(地声)」←声色使うことをすっかり忘れている




