魔王!!
2ちゃんねるのネタをもとにしました。あなたは本当の真実を知っていますか−−??
「ルシー、今だ!!」
俺の片腕であり、親友でもあるサファが叫んだ。
「ルシー、頑張って!!」
白魔術師であるクリスも、高い声をあげた。
「おうよ!!!」
俺はそこで魔王に一撃を入れた。手応えはあったが、さすが魔王。そう簡単には倒れてくれない。
「くそっ!!」
俺は悔しさのあまり、思わず叫んでしまった。それを見た魔王は、不気味な声をあげて笑う。
[勇者ルシーよ、お前の力はこの程度のものだったのか?]
俺は悔しいが何も言い返せずにいた。
俺の名前はルシーといい、言わなくても、分かると思うが、そう…、俺は勇者である。俺の父親もまた昔は勇者だった。
父はみなから恐れられていた竜を倒したり、悪いことをしてきた魔女と戦って止めたり、とそれは凄い数々の偉業を成しとけてきたのだった。それは確かにすごいことであろうが、そのせいで、そこそこ平凡な俺は、いつも父親と比べられてばかりいた。
『似てないねー』
『本当に勇者の息子?』
『弱っちいなぁ、』
毎日が憂鬱でしかたなかった。
そんなある日、魔王という化け物が現れた。奴は手始めに、ある国を乗っ取り、そしてそこを中心とし、自分だけの世界を造ろうと企み始めたのだ。
人々は、不気味な魔王と、いつ自分たちも襲われるか、わからないという不安に怯えた。
そんな情報は俺のところにもやってきた。もちろん、俺に、ではなく、親父に。
俺の村は被害を直接受けているわけでもないので、村の生活は、大して以前と変わりなかった。
まぁ、ぶっちゃけると、俺にとって関わりのない魔王がどうしようと、何かしでかそうと、俺的にはどうでもよかったのだのだが…。
親父が勇者として、誘われたのは最初から分かっていたし、寧ろ俺はまた、親父と比較される材料が増えたのだということを内心疎んだ。しかし、父親の一言によって俺の運命は大きく狂わされることになった。
「俺ではなく、ルシーが魔王を倒してくれる」
父親は倒すのが怠いから、とか魔王が怖いから、という理由で俺に頼んだわけではなかった。本人が言うには、俺には魔王を倒せるだけの器があるらしい…。父はそう確信していた。
その言葉を信じた村の人々は、俺を勝手に勇者として祭り上げ、俺は魔王を倒す旅にでることになったのだ。
最初はやる気なんて、零に等しかった。でも、様々な世界を見ていくうちに、俺の心にも悪に対する、『正義』という感情が生まれてきた。
枯れていく町。
毎日を脅えている人々。それを生み出した原因の魔王がだんだんと許せなくなってきた。
この人達を助けたい!!
初めて生まれた感情、それが『正義』という心だった。
初めは一人旅だった。
しかし、ある森で、魔王の手下に襲われていたサファと出会った。サファとは出会った当初、なかなか馴染みあえなくて互いに苦手としていた。でも、共に過ごすうちに、背中を預けられるほど信頼できるようになった。初めてできた親友だった。
白魔術師であるクリスは、不治の病である、病気の母を助けようとしている。そのためには、魔王が持っているという秘伝の薬を手に入れる必要があるそうだ。クリスも、当初は内気だったため、なかなかコミュニケーションをとることが難しかったが、今は大声で笑いあえるほど、お互いを知ることができるまでになった。クリスも初めてできた親友の一人だ。
今までの俺なら、人をここまで信頼することなんかできなかったと思う。俺にとって人付き合いとは、単なるお互いの粗探しみたいなもんだ。相手の悪いところを見つけて喜ぶ。それが普通なんだと…。
今の俺はそれが間違っていたと、全身で伝えることができる。
人付き合いは粗探しなんかじゃない。
相手の良いところも、悪いところも全部知ることで、相手自身を見ることなんだと…。上辺だけの付き合いなんかじゃない。
俺は本当の『仲間』を見つけることができた。俺を、『俺自身を見てくれる人』に出会えたのだ。
サファとクリスとは幾度となく、ぶつかりあった。どうしてもお互いに譲れないものがあった。
共に戦い、共に涙し、共に笑い、俺達は成長していった。
そして俺達はとうとう魔王の住んでいる、この国に辿りついた。今、俺はクリスとサファに見守られながら、魔王と一対一で戦っている。
魔王は見た目からにして不気味な存在だった。黒い髪に、紫色の唇。鼻は折れ曲がっているし、肌は焼けてただれていた。目だけは爛々と光り、背後からは不気味なオーラを漂わせている。
[来たな…勇者よ…]
不気味なしゃがれ声で、思わず背筋がぞくっとした。
[勇者よ…来い!!!!]
逃げ出したい足に鞭をうち、俺は魔王に戦いを挑んだ。
魔王は恐ろしく強かった。命すれすれの攻撃を何度避けたことか!
こちらも致命傷になるほどのダメージを与え続けているというのに、魔王の顔には余裕さえみえた。
「くそ!!」
そうして初めへと戻る−−…。
[勇者よ…]
何時間戦っているのかも分からない。そんな時、魔王の方がふと声をあげたのだ。
[お前の力はこんなものか?父親の足元にも及ばないな…]
俺は思わずカッ、となって魔王に切り掛かった。しかし戦いとは、冷静さをかけた方の負けだ。魔王は、甘いな、と言いつつ、俺の攻撃を避けた。
[そんなこと言われて熱くなるとは…、まだまだガキだな]
「うるさい!!」
俺は内心、落ち着け!落ち着け!と叫んでいたが、崩れた感情を立て直すことは、そう簡単に上手くいくことでない。
魔王はやれやれとため息をついた。
[お前は何を勘違いしてる…?自分は強いと思っているのか?だったらそれはただの過信にすぎない…]
「黙れ!!」
またもや俺の心が熱くなっていく。しかし今度はむやみに近づいたりなんかしなかった。相手の出だしをひたすら待つ。
[弱いことを認めろ…。お前は父親より弱い。当たり前じゃないか…]
思わず、また黙れ! と言いそうになったが、魔王の次の一言に、俺は押し黙ってしまった。
[お前はお前だろう?]
それは昔、父にも言われたことがあった。
父親とあまりにも似てないことを馬鹿にされ、泣いて帰って来た俺に、父は呆れながらそう言ったのだ。
『誰がなんと言おうと、俺は俺で、お前はお前だろう?どうしてわざわざ比べる必要があるんだ?』
と。
俺は今まさに、父の言葉を、勇者の言葉を思い出した。
俺は俺なんだ…。
たとえ勇者の息子であろうと俺は弱い。俺は父の足元にも及ばない。
だからどうした?
俺は俺だ。
父が偉大であろうと、俺自身を見てくれる人はいるではないか。
どうして俺は不幸だなんて思っていたんだろう?
俺は俺で−−−
俺はこんなにも幸せじゃないか!!!
[目つきが変わったな…]
魔王は目を細めながら、ぼそっとつぶやいた。俺は一旦深呼吸すると、魔王の目をじっくりと見据えた。
「ああ…」
俺は頷くと、魔王に正面と向き合って、構え直した。
「いくぞ!!」
迷いはもう…何もなかった…。
それからしばらくたった後−−…、俺が魔王にとどめをさし、俺は魔王を倒した。魔王は不気味な雄叫び声をあげながら、みるみると消え去ってしまった。
「ルシー!!」
「ルシー!!」
サファとクリスが急いで駆け付けてくれた。
「よくやった!!」
サファの開口一番はそれだった。笑顔でばしばしと人の背中を叩いてくる…。正直…痛い。
「がんばりましたね!!」
クリスは涙目になっていた。泣きやすいところだけは旅を続けても変わることはなかった。サファは少し困った顔をしながら
「泣くなよ」と言った。サファも少し涙目になっていたことは秘密にしておいてあげよう…。
「あ!!」
三人で泣いたり感嘆の声をあげたりと、喜んでいる途中に、クリスが突然叫んだ。
「どうしたの?」
クリスは何かを指差しながら、
「あれ…」
と呟いた。クリスが指差している方向を見てみると、何やら、茶色い封筒らしき物が落ちていた。
「何だあれ…?」
サファは疑うような眼差しを向ける。
「あやしいですね…」
クリスも険しい顔をする。
だが、結局は好奇心に負けてしまい、じゃんけんで負けた俺が封筒の中身を調べることになった。
封筒の中には折り畳まれていた手紙が入っていた。
手紙を開いてみると、そこには丁寧な字で、文字が連なっていた。
しかし、宛先人と差出人を見て、俺は思わず
「え!?」と叫んでしまう。クリスとサファがどうしたの?と手紙を覗いてこようとするのを慌てて制した。
宛先人は『勇者ルシー』つまり俺に、そして差出人にはなんと『魔王』と書かれていたのだった。
俺は何かの罠か疑いながら読み始めていった。しかしこれを読んでいくうちに、自分の愚かな感情に怒りを覚えさえもした。俺は肩と両手を震わせながら手紙を読み続けた。
魔王は…俺にこんな言葉を残してくれていたのだ…。
『勇者ルシーへ
君がこの手紙を読んでいるということは、僕はもう消えてしまっているんだね?
それでいい。
君はよく戦ってくれた。
初めはあまりにも弱くて、僕を倒せられるのかさえ不安だったけれど、今の君は誰が見たって舌を巻くほど、本当に強くなった。
これは単なるお世辞や負けたことに対する嫌味なんかじゃない。
本当に君は強くなった。
よく頑張ったね。
さて、僕がどうして君宛てに手紙を書いているのか、今君は疑問に思っているんじゃないだろうか?
その答えは読んでいくうちにわかるだろう。まずは僕が言いたかったことを、伝えたかったことを言わせてくれ。
…君は旅を通していくうちに気付いてくれただろうか?
人間という者は実に愚かな生き物である、ということを。
その話しを語る前に、僕が初めてこの世界に生み出された瞬間−−−僕が生まれた理由を君に言わなければならない。
僕が魔王として生まれたこの瞬間、その時の僕はまだ、ただの『空気』のような存在であった。
生きてはいるのに、人間のように話すことも、歩くこともできなかった。
本当に空気のように、ただ、ふわふわと長い時を生きてきた。
そして自分でも気がつかない間に、人間という種類が生まれていたことを知った。
僕が知る限り、彼らは戦争ばかり繰り返していた。
どうして戦うのか、
それは僕には理解できるものじゃなかった。
僕は彼らを止めたかった。
さらに僕は、人間を見ていて、それ以上に驚くことを発見した。
それは、他の国が戦争していようが、誰も関心を持っていなかった、ということだ。これにはとても驚かされたよ。
かつての君もそう思ったことはあるんじゃないだろうか?
人は自分の身に何か悪いことが起きようとすると、自然と避けようとしてしまう。無意識か本能なのかはよく分からないが、そのままにしておいてはいけないんだ、と私は感じた。
自分の身に起きていないからどうでもいい、なんて思っちゃいけないんだ。
他の人を思いやる心が少ない、人間を見ていてつくづくそう思ったよ。
彼らをどうしても止めたかった。
何度も何度も心に願った。
するとある日、僕の『体』というものが形成されてきたんだ。初めは心臓、次に胴体、手足、頭、といった順に出来上がった。
初めは自分がこんなにも醜い姿だということに、強烈にダメージを受けてしまったよ。
しかし僕はそれをプラスに変える、ある手段を思いついたんだ。
『魔王』となることだ。
この計画を進めるため、僕は僕と似たような境遇なものを集め始めた。彼らは優しく、素直で、僕と世界を救おうと決意してくれたんだ。
しかしそれは誰か悪役がいなきゃ始まらない。
悪役をつくることで、団結する正義の心が生まれるはずだからだ。
だが、人間たちを、悪にしてしまっては本末転倒となる。
だから僕たちは覚悟を決めた。
君達の『敵』になることを−−…。
幸い、僕たちが敵となったことで、君達は共通の敵に対して、それに対抗しようと、仲間をつくるようになった。
この機会にお互いを必要とするのが増えたことだろう。
人間は一人じゃ弱くて何もできない。だから、仲間を必要とするのだ。
仲間を必要としたことで、怒りを誰に、正義を誰に向けるのか、気付けたはずだ。
するといつか僕を倒そうと考える、勇者である君たちのような者も、当然現れてくる。
すぐ負けてしまっては、また人間たちは同じことを繰り返してしまうだろう。
だからといって、相手が弱すぎるのもいけない−−。
僕は慎重に、僕を倒してくれる相手を探した。
そしてようやく見つけたのが君だ。
君は偉大な勇者の息子だと、比べられてばかりいたね。しかし僕は君が僕を倒せる器があると確信していた。その理由はよく分からない−−が、しかし君がこれを読んでいるということは僕の読みは合っていたということだね。
さて、
これからの君達の試練は、君達が旅を通して学んできたことを、みんなに伝えるということだ。
仲間ができて喧嘩もしただろう。しかし学ぶことができたのも事実だ。
それを世界中の人たちに伝えてくれ。
そして、今の気持ちを忘れてはいけないということだ。
それはたやすいことではないかもしれないが、君達になら任せられると僕は信じている。それも単なる僕の確信に過ぎないが−−、信じてる。
あと、君達が戦ってきただろう、生き残った僕の部下たちは助けてあげてくれ。
彼等は、君達を成長させるために、自分たちから進んでその役についたのだ。
彼等も僕も、見た目が気持ち悪いと、いろいろと馬鹿にされ続けてきた。
だけど彼等は何も悪いことをしていない。僕の作戦に自ら進んで参加し、自ら死を選ぶような役を演じてくれたんだ。
彼等のことを、彼らの優しさを忘れないでくれ。その中で生き残った彼等は、きっと今からもっと大変な目に遭うだろう。僕がいなくなったことで、人に虐められるかもしれない…。
本当に申し訳ないが、敵であった彼等を守ってくれ。
ここまで長い手紙を読んでくれてありがとう。
僕は戦いの最中、君にきっと暴言ばかり吐いてしまっただろうね。
本当に申し訳ない。
お詫びの品といってはなんだが、仲間の一人に伝えてくれ。
秘伝の薬は、この部屋の奥にある。母親の病気もこれで治るはずだ、と。
君の相方にも、よくこれまで頑張ったと思う存分褒めてくれ。長い旅路をよく頑張ったな、と。
そしてルシーよ、
これで君は父と比べられなくなるはずだ。
君はもう、十分立派な勇者だ。
よく頑張ったな。
君達に頼みごとばかりしているが、最後にもう一つだけお願いしたい。
読み終わったら、これはすぐに燃やしてくれ。最後の頼みだ。
それじゃあルシー。
これからの君が国を、世界を変えてくれると信じている。
本当にありがとう
魔王』
「どうしたの!?」
泣いている俺に、サファとクリスはとても驚いた顔をした。俺は黙って二人に手紙を渡す。
二人とも、初めは不思議そうに手紙を読んでいたが、読み終える頃には、涙をぽろぽろと零していた。
「わたし…たち…間違ってたのね…!!」
「魔王っ…!!!」
俺達は暫くの間、魔王の死を嘆いた。
あいつは敵なんかじゃなかった。
優しくて、
純粋で、
なんてすばらしい奴だったんだ!!
俺は涙をふくと、手紙を折り畳んだ。
これを燃やす?
冗談じゃない。
カッコつけたままじゃ終わらせないよ。
魔王、
俺は今からお前に言われた通り、今までのことをみんなに伝える。
みんなに魔王の手下のことについても話す。
だけど一つだけ約束破るよ?
お前のこともみんなに教える。お前を嫌われ者なんかじゃ終わらせやしない。
だって俺は俺なんだ!!
そうだろ、魔王?
光があるから闇がある
空があるから大地がある
敵がいるから味方がいる
悪があるから正義がある
優しさも憎しみも愛も希望も苦しみも悲しみも痛みも
全部矛盾する言葉がある
同じなんてものはない
違っているから、と
恥じる必要もない
違っているからこそ、
すごいのだ
だから自分を大切にしよう
自分の心を大切にしよう
今を生きている、
今を感じている、
全てに感謝しよう
さて、
魔王とは
憎まれ役とは
この世でもっとも
辛くて
大変で
悲しくて
そして
すばらしい、のだ
決して、
正義だけが、全てじゃない
目に見えるものが正しいわけじゃない
矛盾してるんだから
だから
感謝を忘れずに、
生きていこうではないか
魔王に冥福を捧げます