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ショートショートやってみよう

作者: なんでもやってみよう

題名『てきとうすいっち』


とある寂れた町のごくありふれた交差点にそれはあった。

直径10CM程度の小さなスイッチが交差点の真ん中に地表から20cmくらいの穴ぼこの中にヒッソリと埋まっていた。


国の予算の都合があり、交差点はできてから一度も整備されたことがなかった。コンクリートはあちこちはげ、ひび割れていたので、交差点中央付近にあるスイッチは道路の不整備のひとつだと思われ、利用者が気づくことはなかった。


ある日、スイッチが埋まっている交差点の脇に車が止まり、二人組の男が交差点の中心まで歩いていく。独りは初老。もう一人は若かった。若い男は初老に向かって文句をつける。


「いちいち現地まできて調査する必要あるんですかね?」

「現地でしかわからないこともあるのは確かだと思うぞ。しかしこの交差点はひどいな。あちこちボロボロじゃないか。ん?なんだこりゃ?」


初老の男は注意深く足元にある、明らかに人的に作られた穴ぼこを観察した。

ジロジロと観察している初老の男の脇から若い男が手を伸ばし、穴ぼこに手を突き入れた。

「奥に何かありますね。何かツルツルしてて・・・これは・・・スイッチかな?」

「スイッチなんて設計図にはなかったぞ。とりあえず押してみろ。」

「僕は遠慮しときます。こんなところにあるスイッチなんて怪しすぎます。」

若い男は立ち上がり初老の男に報告する。

入れ違いに初老の男が車から持ってきた懐中電灯で穴の中を照らすと、穴の奥に半球状のドームの上部が見て取れた。それはまさしくスイッチの形に見えた。


「それもそうか。俺たちの仕事は現地の状況を報告することだ」


初老の男が報告をあげると大騒ぎとなった。

その道路の設計図にはスイッチなどどこにもなかったからだ。当時の責任者や作業員も全て死んでしまい、責任を追及することも、状況を確認することもできなかったためスイッチがなんのためのものなのか?誰にもわからなかった。


特に国民の興味をひいたのは「スイッチを押すとどうなるか?」だ。

スイッチの形である以上何かの機能を切り替えるものであるはずだ。謎めいた場所ある、だれが設置したのかわからないものは連日メディアを賑わせることとなった。


ただちに徹底的な状況分析が行われ、第一次調査が公表されると国民の熱狂はさらに高まった。

ありとあらゆる調査機械でスイッチの接続先を探査した結果、導線の接続先は国内にはなかったからだ。果てしなく続く導線は国境を越え隣国まで続いていた。


スイッチの周りでは絶えず「押す」派と「押さない」派が争い、押し問答を繰り返した。


隣国でも調査が行われたがそこでも接続先が見つからず、さらに次の国、そして次の国にまで延びた。導線は山を越え、海底を進み、全世界全ての国々を網羅していた。

導線は世界をグルリと一回りした後、スイッチのさらに地下に戻ってきてしまった。


もはやスイッチを押すことを主張する者はいなくなり、スイッチは神が設置したものという意見が大勢を占めるようになった。スイッチのある交差点の上には荘厳な協会が建てられ連日人が押し寄せた。聖地となった交差点の周囲には続々と街が造られ、さびれた町は大きく発展した。


第一発見者としてスイッチの担当官に任命された初老の男と若い男は連日大きくなる街と人を眺めながら大きく溜息をついた。

「こんなことになるなら、あの時スイッチ押しておけばよかったですよ。」

「街が潤って俺達の給料もあがった。もうそれでいいんじゃないか。」

「てきとーだなあ」


若い男には秘密があった。実はあの時スイッチを押していたのだ、と。

告白しようかと考えたこともあったが日々大きくなる騒動を恐れ言い出すことができなかった。

すでにスイッチはご神体となっており、今更「押した」といっても誰も信じてはくれないだろう。


神のスイッチを押した人間としてもう少し違う人生もあったかもしれない。

陶酔から覚めるように、若い男はもう一度多く溜息をつき


「もー少し適当にやってりゃよかったのかなあ」


と、ぼやくと。

山積みになった書類に向かった。


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