地獄の果てでは転生禁止!04
「さて、と次、次……」
『給仕所』だけではない。他にも監視しに行かなければならない場所が多々ある。
『給仕所』従事者よりも知識レベルの低い少年少女たちは『学舎』と呼ばれる場所での授業。当然抜け出そうとする者が居るが、残念ながらそうはさせない。
椅子に縄で縛り付け、逃げようとしたところで縄から飛び出た棘が体を刺すというこの地獄でも相当物騒な代物まで使用しているのだ。ここで現世で疎かにしていた知識を学ばせる。
だが俺たちのような鬼も現世について全部知っている訳ではない。頂いた資料でどうにか教職を演じている、程度。
「ここも今日は大丈夫そうだな」
一番物騒な場所でありながら、一番まとも。故に仕事としては見回るだけで完了する。
次に足を向けるのは『運動場』。檻に囲まれた地獄の河原でとにかく重労働。当然体力も腕力も無い彼らはすぐにへばるが、餓鬼がそれを許さない。泣き言を言おうが血反吐を吐こうが死ぬ訳ではないのだから。
それからありとあらゆる部署を回る。次第に数えるのも面倒になってくる程だったりするが、口には出さない。
そして最後に残るのがこの場所だ。
「『試験場』到着と。今日も数人入ってるんだな」
『試験場』。この地獄の中にある唯一の『出口』。名前の通り試験を行う会場だ。今までにこの地獄で培ってきた事、学んだ事の全てをここで発揮する。
この場に立つのがある種の指標となる訳だが、存在は教えない。あいつらすぐズルしようとするから。真面目にこなしてきた奴を試験がある、とだけ呼び出しているのだ。
他とは違い、この鬼の肌にすらビリビリとした空気が伝わってくる異質さ。それだけ重要な場所。
「――続いて参六四九八〇! 前へ!」
「はい!!」
そして、それだけ重要だというのに俺の管轄となっていない場所でもある。悲しい事だ。これが獄卒様と俺の差なのかもしれない。
建物の中は異様なまでに豪華絢爛の髄を極めた煌びやか。それもそのはず“あの御方”自ら建てたのだとか。思い出してみると俺の試験会場もそんな感じだった気がする。
中では現世の正装、スーツとやらを身に纏った少年が三名程。この場所に来た頃とは比べ物にならないくらいしっかりとした顔つき、体つき。
「よろしくお願いします!」
空気を震わせるような大声も出せる。まるで変わってしまったその少年と向かい合って椅子に腰掛けているのが獄卒様。それこそ現世に伝わる鬼の姿。赤とか青とかそんな肌の色をした筋骨隆々の鬼。自分もいつかああなりたいものだ。
「では、問おうか参六四九八〇。いやさ、タナカアツシよ」
そんな獄卒連中の野太い声の中、まるで鈴の音のような美しい声が一筋通る。柔和そうな中に秘めたる冷たさを感じさせる、女の声。
「羅刹様……」
地獄に咲く華麗な華。あの方は羅刹様。俺の上司であり、獄卒を目指す理由。