地獄の果てでは転生禁止!03
『未熟地獄』。それがここの名前である事は説明した通り。
未熟なまま死んで逃げようとした愚かな罪人にはここで裁きを与えるのだ。逃げも隠れも出来ないこの地獄で。だが、正直なところ他の地獄に比べたら相当楽な部類だ。生温いだろう。
なんて言ったって獄卒に体を切られて殺されて復活させられてを数百年繰り返したり、業火で焼かれたり煮られたりもしない。血の海も無いし剣の林も無い(美人も居ない)。
では何があるのか。聞きたいだろう?
「刹鬼様! お疲れ様です!」
「応。何も無いな?」
「ええ、勿論! 今日も誰一人欠けるコト無く!」
「うむ。新入りへの教育もしっかりな」
とある建物。その中には真っ白な死に装束を纏った、少年たち。コレも全て世界に絶望した、などという馬鹿げた思想をお持ちだった皆様方。彼らは列を成して椅子に座り、長い机の上で作業を行っている。立ち込めるのは腹の減る香り。
「……不備は無し、と」
俺は手にした紙に近況を書き込んでいく。数百と居るであろう彼ら。その個々を確認出来るのは俺の目があってこそだ。休んでいる奴は居ないか、ズルをしようとしている奴は。
「おい、弐弐壱四七六! なんだこの出来は! これでは獄卒様に殺されるぞ!」
そんな中、何やら騒いでいる箇所を発見した。当然これも地獄耳で聞こえている。黙々と作業を続ける少年たちの合間を縫ってその場所へ。割烹着を纏った餓鬼が一人の少年に向けて怒鳴っているではないか。
「どうした」
「あーこれはこれは刹鬼様。いやこいつの作った“弁当”見てくださいよ」
「どれ……ふむ、お前。何回目だ?」
机の上から取り上げた箱。ここには、そう。餓鬼の言うように弁当がある。鬼も食事を取るのだ。罪人を喰う連中も居ない訳ではないが、あれはあれ。鬼も色々居るのだ。そしてこの場所こそが、『給仕所』。この地獄の一つの勤め場所。
「答えろ! 死にたいのか!」
餓鬼が少年を小突く。この眼はまだ、自分には何か凄い力が秘められているに違いないと思っている眼だ。諦めの悪い少年。そう言えば態度が悪かった奴も居たなあ。似たり寄ったりだと思ったがこんなのも居たか。
「百を超えてからは数えてねえ」
「こんの……言葉遣い!」
「良い。お前はこれを食えるか? この配色の悪さ。悪意の込められた配置。中に隠した楊枝。鬼を殺そうって言うのか? 精々……怪我もしないか……」
茶色で構成された弁当。天界とやらから配給されてくる物資によって作られた肉。四角い箱の中身は全てが肉で、しかも隠すように爪楊枝を紛れ込ませていたのだ。こんな事をされると俺が殺されかねない。だからやめて欲しいんだよ。言わないけど。
「ともかくだ。こんなんじゃ俺たちは殺せないからな? 次にやってみろ――」
少年の細い肩を目一杯力を込めて握る。本気を出せば恐らく容易く壊してしまうだろうが、それをするとこれまた怒られる。そう言う立場なのだ俺は。
「――門から試練やり直させるぞ」
門とは、地獄に向かう為の出入り口。炎だったり剣山だったり色々ある罪人の登竜門。それを抜けるとついに地獄行きとなる。ここよりキツイ。
それを告げると少年は理解したのか新たな箱を取り出して作業を再開した。
「刹鬼様ありがとうございます!」
「いや、仕事だからな」
罪人を管理するのが俺の仕事だ。ふむ、『給仕所』はこんなものか。一回りしたら次の場所へ向かおうか。……ところでこの肉弁当どうしよう。持ち歩き?