地獄の果てでは転生禁止!02
自堕落を貪った人間がそう簡単に良い事にありつけるはずがない。当然である。故にそのような人間はここへ送られるのだ。
そして俺が裁く。まともな人間として復帰出来るように。鬼の仕事としては随分と優しいと思うだろうか? 事実、この地獄が名立たるエリート獄卒間で何と呼ばれているか。
『未熟地獄』、と。
「え……でも、あれ転生トラックって奴じゃ……!」
「はああぁ~……お前らって本当にそればっかりだよな。言ったぞ? 堕落した人間に転生の余地無し、と。考えた事はあるか?」
「な、なにを……」
一応こうして言葉で説明してやるのも仕事の内。勝手に飛び出されて他の地獄に迷い込まれたとなれば、それこそ罪人として裁きが与えられる。それと、点数が下がる。俺の。
「轢く側の気持ちだ。お前を轢いた運転手の想いだ。故意で無かったとしても人殺しと言われるんだぞ? その上で地獄に落とされるのも確定だ。どう落とし前を付けるつもりだ? ん?」
先程まで真っ白だった紙。そこにはいつの間にか文言が生まれている。少年の名前、年齢、これまでの人生など。……大体ここに来る人間は総じて似たような物だが。
「引き篭もってゲーム三昧。学校にも行かず、働かず。友人も居ない。当然恋人も。家族には散々迷惑を掛けている。そんな屑みたいな人間がどこで活躍出来る? ああ、それとここでじっと待っていても神やら蜘蛛やらが助けに来る事は無い。何せ辺境だからな」
「あっあっ……」
地獄の向こう側には天国があるとされている。俺も行った事は無いが、煌びやかで温かいそれはもう夢のようなところなのだとか。
“あの御方”は知っているらしいのだが当然俺のような下っ端が聞いても教えてくれるはずはない。謁見するのですら死ぬんじゃないかと思う。鬼は死んだらどこへ向かうのだろう。そもそも死ぬのだろうか。ここでは死んでいるのかもしれない。そんな事を考えたって意味は無いのだが。
口をぱくぱくさせて呆然とする少年。漸く自身の死について実感が湧いてきたのか只でさえ白い顔に青みが増してくる。このまま青くなれば青鬼だな、と適当な事を考えながら続けた。
「諦めてここで働け。逃げようとしても無駄だ。貴様の魂は地獄に縛られているのだからな。……故に! ここで魂を磨き、二度と同じような成長をしないようにするのだ! えー……九五壱六弐参七五番。これより我が部下と共に給仕所へ向かうように」
紙の裏面。浮かび上がるのは真っ赤な文字。血文字のようなおどろおどろしさ。だがこれは血ではない。
「脅すようで悪いがここに書かれてしまったからには逃げ出す事は不可能だ。見えるだろう? この赤文字。これは貴様の魂で刻まれた文字だ。ここに記されている限り、全ての権限は“あの御方”が持つ! では、連れて行け!」
「はっ!」
俺の声と同時に飛び出してきたのは二匹の餓鬼。先程のとは別だ。大きさは少年の腰程であるが、力で負けるはずがない。手際良く首、手、腰に縄を巻き付けるではないか。相変わらず鮮やかだ。
「おらあ! さっさと歩けえ!」
無理矢理連行される少年は何かを言いたげに俺を見ていたが、残念ながら俺には助ける権利も義理も無い。血も涙も無い鬼、とは良く考えたものだ。
「……今日の罪人はこれだけ、と。見回り行くかな」
裁きを下すのが俺の仕事ではない。まだまだ獄卒の業務は続くのだ。